休暇6
朝。
少しだけ、空気が違った。
「……寒くね?」
航は窓を開けてすぐ閉めた。
「開ける必要はない」
後ろから即答。
陸。
いつも通り、同じ位置にいる。
キッチン。
コーヒー。
「いや換気くらいさせろよ」
「問題ない」
「その言い方万能すぎるだろ」
少し笑う。
⸻
朝食は、もう慣れてきた。
昨日と同じような流れ。
でも少しだけ違う。
「なぁ」
航はパンをかじりながら言う。
「ここさ」
「なんだ」
「ほんとに誰も来ねぇの?」
陸は止まらない。
「来る必要がない」
「そういう意味じゃなくて」
「来ない」
即答。
「即答怖いわ」
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少し沈黙。
カップの音。
コトン。
「……昔さ」
航がふと続ける。
「ここ、一人だったんだろ」
陸の動きが一瞬だけ止まる。
ほんの一瞬。
でも、見てれば分かるレベル。
「そうだ」
「寂しくなかったの?」
一拍。
「必要ない」
「またそれ」
航は笑う。
でも少しだけ、笑い方が違う。
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その時だった。
ピンポン。
静かな家に、やけに大きい音。
航が固まる。
「……今の」
陸は立ち上がる。
速い。
迷いがない。
「出るな」
「は?」
「動くな」
短い。
でも圧がある。
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陸は玄関へ向かう。
音はもうしない。
外は静か。
ドアを開ける。
誰もいない。
ただ——
小さな封筒。
地面。
拾う。
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中を見る。
陸の目が少しだけ細くなる。
(……またか)
航が後ろから顔を出す。
「なんだそれ」
「戻れ」
「は?」
「中へ」
いつもより短い。
いつもより硬い。
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リビング。
封筒がテーブルに置かれる。
航はそれを見る。
「で、何」
陸は答えない。
開く。
中身は紙一枚。
短い文字。
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『休暇終了。第1任務準備』
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航が顔を上げる。
「……早くね?」
陸は紙を折る。
「そうだな」
「いやもっとなんか言えよ」
「予定より早い」
「軽く言うなって」
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少し沈黙。
でも空気は変わってない。
怖さじゃない。
“切り替え”だけ。
航は椅子にもたれる。
「じゃあさ」
「なんだ」
「また戻るんだな」
陸は少しだけ間を置く。
「そうだ」
「休暇終わりか」
「終わりだ」
即答。
でもその後、ほんの少しだけ続く。
「また取れる」
航は少し笑う。
「便利だなそれ」
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立ち上がる。
コートを取る。
「準備しろ」
陸が言う。
「もう?」
「今からだ」
「相変わらず急だな」
「いつも通りだ」
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航は少しだけ玄関を見る。
(ほんとに、休暇ってなんだったんだよ)
でも不思議と、嫌じゃない。
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外に出る。
空気が変わる。
静かな家。
広い敷地。
その奥で、陸が鍵を閉める。
「行くぞ」
「はいはい」
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歩き出す。
日常が終わる音はしない。
ただ、自然に切り替わるだけ。
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航は小さくつぶやく。
「……また戻んのか」
陸は前を見たまま言う。
「戻るんじゃない」
一拍。
「続きだ」
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夜じゃないのに、少しだけ世界が静かに感じた。




