休暇3
昼。
「……何もねぇな」
冷蔵庫を開けて、航は言う。
空。
見事に空。
水と、よく分からない調味料だけ。
「これでどう生活してたんだよ」
後ろから声。
「問題ない」
振り返る。
陸。
いつの間にかいる。
「いやあるだろ問題」
「外食で十分だ」
「毎回?」
「そうだ」
「金の使い方おかしいだろ」
陸は気にしない。
「必要経費だ」
「便利ワードすぎるだろそれ」
航は冷蔵庫を閉める。
一拍。
「買いに行くぞ」
「どこにだ」
「どこにって……スーパーだろ」
「必要か」
「必要だよ」
少しだけ沈黙。
陸は考えるように止まる。
「……分かった」
「今“納得した風”やめろ」
⸻
外。
昼の空気は、夜よりも現実感があった。
静かな道。
人はいない。
「ほんと人いねぇなここ」
「いる」
「どこに」
「見えていないだけだ」
「怖ぇこと言うなって」
車に乗る。
今度は昼。
でも静けさは変わらない。
少し走ると、急に“普通の街”に出る。
人。
音。
店。
「……なんか安心するわ」
「そうか」
「お前何も感じねぇの?」
「必要ない」
「はいはい」
⸻
スーパー。
自動ドアが開く。
いらっしゃいませ——
普通の店。
普通の客。
普通の空気。
でも——
「……」
店員の目が、一瞬だけ陸に向く。
すぐ逸らされる。
でも、確実に見た。
(なんだ今の)
「どうした」
「いや別に」
航はカゴを取る。
歩きながら小声で言う。
「なぁ」
「なんだ」
「ここも?」
一拍。
「関係はある」
「やっぱりかよ」
「全部ではない」
「“全部じゃない”のが一番怖いんだよ」
⸻
野菜コーナー。
航が適当に取る。
「これでいいか」
「偏っている」
「栄養管理かよ」
「当然だ」
「お前が言うな」
少し笑う。
「お前さ」
「なんだ」
「料理できんの?」
「できる」
「ほんとかよ」
「必要ならな」
「必要なかったから今こうなんだろ」
「そうだ」
「開き直んな」
⸻
肉コーナー。
「これ高くね?」
「相場だ」
「絶対違うだろ」
「文句があるなら買うな」
「お前食うだろ」
「食う」
「じゃあ文句言うわ」
⸻
レジ。
店員がやけに丁寧。
「袋はご利用ですか?」
「あー、いいです」
声が少し硬い。
ちらっと陸を見る。
すぐ逸らす。
(やっぱおかしいだろ)
⸻
外。
袋を持って歩く。
「なぁ」
「なんだ」
「お前、何したのここで」
「何もしていない」
「絶対嘘だろ」
「事実だ」
「説得力ねぇな」
⸻
家に戻る。
キッチン。
食材を置く。
一気に“生活感”が出る。
「……なんかさ」
航は袋を開けながら言う。
「普通だな」
「何がだ」
「買い物して、飯作って」
一拍。
「……こういうの」
少しだけ間。
「悪くねぇな」
陸は何も言わない。
ただ、少しだけ視線を向ける。
「作れ」
「命令かよ」
「任せる」
「雑だな」
でも航は笑う。
包丁を取る。
音が出る。
トントン、と。
静かな家に、生活の音が入る。
その音だけで——
少しだけ、“普通”に近づいた気がした。




