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家族が消えた日、俺は警察に“選ばれた”  作者:
連続誘拐事件  part1
21/44

回収

夜。


外。


空気が戻っている。


でも——軽い。


「……薄いな」


独り言。


さっきまでの重さがない。


代わりに残るのは、違和感だけ。


歩く。


同じ道。同じ匂い。


でももう、同じじゃない。


「……来いよ」


小さく言う。


返事はない。


分かっている。


出てこない。


立ち止まる。


ポケットから手帳を出す。


開く。


三つの名前。


白面。兄。認識阻害。


ペンを走らせる。


止める。


「……違うな」


閉じる。


あの教室を思い出す。


揃いすぎた声。


軽い返し。


空っぽの場所。


「……誘拐じゃねぇ」


はっきり言う。


「選ばせてる」


その言葉が、形になる。


振り返る。


校舎は暗い。


動かない。


でも“残っている”。


戻る。


扉を押す。


音はない。


廊下は軽い。


だが今は違う。


教室に入る。


二人。凛と湊。


同じ位置。同じ顔。


「おかえり」


揃う声。


「……ああ」


短く返す。


「なぁ」


一拍。


「ここ、出口どこだ」


沈黙。


「ここだよ」


揃う声。


同時に指が動く。窓。


航は笑う。


「やっぱな」


振り返らず窓へ向かう。


「行かないの?」


「行くわけねぇだろ」


窓に触れる。


柔らかい。


歪む。


「……当たりか」


押す。


空気が歪み、音が消える。


次の瞬間、外。


地面。夜の空気。


重い。


「……っは」


息を吐く。


全部が戻る。


振り返ると、校舎はただの建物だった。


「……そういうことか」


「場所じゃねぇ」


一拍。


「選ばせる仕組みか」


手帳を開く。


書く。


——誘導型

——認識操作

——出口偽装

——気づいた者のみ外へ


閉じる。


「あいつら……まだ中か」


夜風。


少し冷たい。


でも、はっきりしている。


「……いい」


「場所は分かった」


歩き出す。


「——次で終わらせる」


ポケットの手帳が、わずかに重い。


歩く途中。


白面。


白い面。無地。


「来たんだよ」


「自分で」


「誘拐だろ」


「違う」


即答。


拳。


軽い。


面を剥がす。


目。


見覚えはある。


でも、名前が出ない。


「……認識阻害か」


白面が消える前に言う。


「まだ気づいてねぇのかよ」


「兄さんは、もっと先にいるってのに」


残る言葉。


手帳を開く。


書く。


——白面:顔確認済

——既視感あり

——一致しない


止まる。


「……ズレてるだけか」


歩き出す。


影が、わずかに二つに増えていた。





教室。


三人だけが残っている。


凛。


湊。


そして航。


さっきまであった“説明の気配”は、もうない。


最初から、そんなものは無かったみたいに。


窓の外は夜のまま。


揺れていない。


「……さっきまでの奴らは」


航が言う。


凛は首を傾げる。


「誰のこと?」


湊も同じ顔で笑う。


「ここには最初から三人しかいないよ」



一拍。


空気が軽い。


軽すぎる。


航は手帳を開く。


白面も、兄も——どこにも書かれていない。


ページはただの空白に戻っている。


「……消えた、か」


小さく呟く。


凛が一歩近づく。


「何か思い出してるの?」


湊も続く。


「疲れてるだけじゃない?」


声はやさしい。


揃っている。


なのに、少しだけズレている。



航は教室を見回す。


机。


窓。


黒板。


全部、普通。


普通すぎる。


「なあ」


「ここ、何の教室だっけ」


凛は笑う。


「普通の学校だよ」


湊も笑う。


「ずっと前から」



その瞬間。


違和感だけが、残る。


“何かが足りない”のに、それが分からない。


思い出そうとすると、輪郭が薄れる。



凛が机に座る。


湊も同じように座る。


「帰る?」


「帰る?」


同時に言う。



航は窓を見る。


外は夜。


ただの夜。


でも——


一瞬だけ。


窓の向こうに“教室”が映る。


同じ三人。


同じ位置。


同じ会話。



「……は?」


声が漏れる。


凛が首を傾げる。


「どうしたの?」


湊も同じ顔で見る。


「なにが?」



航は窓に近づく。


映り込みはもう消えている。


ただの夜。


ただの教室。


ただの三人。



「……いや」


「今のは」


言いかけて、やめる。



凛が立ち上がる。


湊も立つ。


「もう帰ろ」


「もう帰ろ」



航は一瞬だけ止まる。


そして——


手帳を開く。



白紙。


何もない。


書いたはずのものもない。



そのとき。


窓の外。


ほんの一瞬だけ。


“誰かがこちらを見た気がした”。


でも振り返ると、何もいない。



凛が言う。


「早く」


湊が言う。


「置いていくよ」



航は手帳を閉じる。


「……ああ」



三人で教室を出る。


廊下は静か。


音はない。



ただ一つだけ。


出る瞬間、航の背後で、


黒板がほんの少しだけ、擦れた音を立てた。



何も書かれていないはずの黒板に、


一瞬だけ線が走る。


でも次の瞬間には、消えている。



夜は続く。


そして誰も、それを疑わない。


書けました!ありがとうございます!

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