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家族が消えた日、俺は警察に“選ばれた”  作者:
連続誘拐事件  part1
18/44

綻び

最初から、分かってた。


 


全部が揃いすぎてる。


 


だから——どこかがズレる。


 


教室。


 


三人。


 


同じ位置。


 


同じ距離。


 


同じ顔。


 


「おかえり」


 


揃う。


 


俺は入る。


 


止まる。


 


視線だけ動かす。


 


凛。


湊。


 


——蒼。


 


「……蒼」


 


名前を呼ぶ。


 


三人がこっちを見る。


 


同じ速さ。


 


同じ角度。


 


「なに?」


 


速い。


 


ズレがない。


 


一歩、近づく。


 


距離を詰める。


 


「名前、言え」


 


間を置かない。


 


三人が同時に口を開く。


 


その瞬間——


 


「——蒼」


 


被せる。


 


ほんのわずか、早く。


 


空気が止まる。


 


一瞬。


 


凛と湊が、蒼を見る。


 


蒼の口が、止まる。


 


遅れる。


 


ほんのわずか。


 


「……あ」


 


小さい。


 


揃っていない。


 


俺は視線を外さない。


 


「お前の名前だ」


 


低く言う。


 


蒼の目が揺れる。


 


「……あお、い」


 


区切る。


 


ゆっくり。


 


初めて。


 


凛が言う。


 


「同じだよ」


 


湊も続く。


 


「ね」


 


速い。


 


被せる。


 


蒼の視線が揺れる。


 


二人を見る。


 


俺を見る。


 


黒板を見る。


 


——おかえり

——ただいま


 


重なっている。


 


何度も。


 


何度も。


 


蒼は口を開く。


 


「……ただい——」


 


止まる。


 


息だけが抜ける。


 


俺は何も言わない。


 


ただ、見ている。


 


蒼の視線が落ちる。


 


床。


 


自分の足。


 


指先が、わずかに動く。


 


「……ちが」


 


——言い切らない。


 


飲み込む。


 


その瞬間。


 


奥。


 


空気が、わずかに重くなる。


 


音が削れる。


 


遅れて、圧が来る。


 


「……遅ぇな」


 


小さく吐く。


 


完璧じゃない。


 


確信する。


 


だが——


 


壊れない。


 


まだ、持ってる。


 


凛が笑う。


 


「同じだよ」


 


湊も続く。


 


「ここだよ」


 


揃う。


 


速い。


 


蒼が、小さく息を吸う。


 


「……ここ」


 


確認するみたいに。


 


俺は答えない。


 


代わりに言う。


 


「家、どこだ」


 


間を置かない。


 


「ここ」


 


三人、揃う。


 


ズレがない。


 


さっきの“違い”が、消えている。


 


「……戻してるな」


 


小さく呟く。


 


蒼の目が、ほんのわずかに動く。


 


だが、何も言わない。


 


俺はそれ以上、踏み込まない。


 


今じゃない。


 


壊すのは——次だ。


 


背を向ける。


 


歩く。


 


止める声はない。


 


ただ——


 


「いってらっしゃい」


 


揃う。


 


さっきより、正確に。


 


振り返らない。


 


廊下に出る。


 


数歩。


 


止まる。


 


耳だけを残す。


 


教室の中。


 


小さく、音。


 


ほんのわずか。


 


「……ちがう」


 


蒼。


 


低い。


 


すぐに被さる。


 


「同じだよ」


 


凛。


 


「ね」


 


湊。


 


沈黙。


 


数秒。


 


そして——


 


「……うん」


 


蒼。


 


短い。


 


揃っていない。


 


俺はゆっくり息を吐く。


 


外に出る。


 


音が戻る。


 


完全に。


 


だが——


 


さっきとは違う。


 


一箇所。


 


確実に。


 


「……綻び」


 


小さく呟く。


 


手帳を出す。


 


三つの名前。


 


その横に書く。


 


——朝比奈蒼:遅延あり


 


ペンを止める。


 


もう一行。


 


——再現に個体差


 


閉じる。


 


顔を上げる。


 


校舎を見る。


 


「……壊れるな」


 


確信に近い。


 


全部じゃない。


 


だが、一箇所。


 


そこから崩れる。


 


歩き出す。


 


迷いはない。


 


「……次でいい」


 


その一言だけが、静かに残った。


 



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