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家族が消えた日、俺は警察に“選ばれた”  作者:
連続誘拐事件  part1
17/45

誘導

誘導されてる。


 


分かってる。


 


その上で、歩いてる。


 


「……趣味悪ぃな」


 


足音が軽い。


 


鳴っているのに、重さがない。


 


踏んだはずの感触が、どこかで抜けている。


 


前方。


 


カラン。


 


乾いた音。


 


視線を向ける。


 


自動販売機の横。


 


空き缶が転がって、止まる。


 


「……今かよ」


 


さっきまでは、なかった位置。


 


近づく。


 


しゃがむ。


 


地面に、擦れた跡。


 


転がされた軌道が、途中から“始まっている”。


 


「音だけ後出しか」


 


立ち上がる。


 


横断歩道。


 


信号は赤。


 


車は来ていない。


 


——なのに。


 


誰も渡らない。


 


一人も。


 


全員、止まってる。


 


不自然なくらいに。


 


「……区切ってんな」


 


一歩、踏み出す。


 


誰も見ない。


 


誰も反応しない。


 


渡る。


 


足音は軽いまま。


 


渡り切る。


 


その瞬間——


 


背後で、音が戻る。


 


車。


 


会話。


 


信号の電子音。


 


全部、一気に。


 


「境界、ね」


 


前。


 


細い路地。


 


迷わず入る。


 


空気が変わる。


 


匂い。


 


甘い。


 


洗剤。


 


生活の匂い。


 


見上げる。


 


物干し。


 


シャツが揺れている。


 


誰もいない。


 


視線を落とす。


 


足元。


 


チョークの線。


 


薄い。


 


だが、迷いがない。


 


まっすぐ続いている。


 


一歩、外れる。


 


——何も起きない。


 


もう一歩、外れる。


 


静かだ。


 


「……そういうことか」


 


線に戻る。


 


その瞬間。


 


「こっち」


 


来る。


 


子どもの声。


 


近い。


 


だが、誰もいない。


 


「従わないと鳴らねぇのか」


 


確認するように、もう一度外れる。


 


——沈黙。


 


戻る。


 


「こっち」


 


即座。


 


ズレがない。


 


「分かりやすい」


 


線の上を歩く。


 


視界の端。


 


影が動く。


 


追う。


 


角を曲がる。


 


——いない。


 


代わりに。


 


靴。


 


片方だけ。


 


置いてある。


 


新しい。


 


汚れがない。


 


「……演出過剰だな」


 


触らない。


 


進む。


 


声が増える。


 


「おかえり」


 


「ただいま」


 


「今日はね——」


 


全部、同じ調子。


 


同じ高さ。


 


同じ間。


 


「……録音じゃねぇな」


 


完全な再現。


 


だが——揃いすぎている。


 


歩く。


 


最後の角。


 


曲がる。


 


視界が開ける。


 


古い校舎。


 


窓は割れている。


 


外は荒れているのに——


 


中は明るい。


 


「……ここだけ別か」


 


扉に手をかける。


 


押す。


 


音は鳴らない。


 


廊下。


 


埃の匂い。


 


その奥に、甘い匂い。


 


混ざっている。


 


歩く。


 


奥の教室。


 


光。


 


中に入る。


 


三人。


 


中学生。


 


顔は一致。


 


間違いない。


 


一人、少女が振り向く。


 


目が合う。


 


笑う。


 


「おかえり」


 


揃っている。


 


教室を見渡す。


 


机。


 


食器。


 


湯気。


 


生活がある。


 


成立している。


 


「……何してる」


 


短く聞く。


 


少年が肩をすくめる。


 


「別に」


 


もう一人。


 


「普通」


 


少女。


 


「これからご飯」


 


自然。


 


違和感が、逆に浮く。


 


「誰が用意してる」


 


三人、顔を見合わせる。


 


一拍。


 


少年。


 


「母さん」


 


もう一人。


 


「うん」


 


少女。


 


「あとで来るよ」


 


黒板を見る。


 


チョークの跡。


 


重なっている。


 


——おかえり

——ただいま


 


何度も。


 


何度も。


 


視線を戻す。


 


「帰る気、あるか」


 


一瞬、止まる。


 


だが——すぐ揃う。


 


「なんで?」


 


「帰ってきたじゃん」


 


「ここにいるよ」


 


重なる。


 


ズレがない。


 


息を吐く。


 


「……そうかよ」


 


教室の奥。


 


開いたドア。


 


そこ。


 


いる。


 


見ている。


 


子どもじゃない。


 


——一拍、遅れて気配が濃くなる。


 


「……遅いな」


 


小さく吐く。


 


視線だけ向けて、すぐ戻す。


 


「名前、言え」


 


少女。


 


「白石凛」


 


少年。


 


「黒瀬湊」


 


もう一人。


 


「朝比奈蒼」


 


正しい。


 


だが——軽い。


 


「家、どこだ」


 


少女。


 


「ここ」


 


迷いがない。


 


それ以上は聞かない。


 


意味がない。


 


背を向ける。


 


歩く。


 


止める声はない。


 


ただ——


 


「いってらっしゃい」


 


揃う。


 


振り返らない。


 


廊下。


 


外。


 


境界を越える。


 


音が戻る。


 


一気に。


 


風。


 


車。


 


遠くの声。


 


全部、重い。


 


手帳を出す。


 


三つの名前。


 


書き足す。


 


——帰属意識あり


 


ペンを止める。


 


もう一行。


 


——従順時のみ反応


 


閉じる。


 


顔を上げる。


 


校舎を見る。


 


「……連れ去りじゃねぇ」


 


小さく吐く。


 


「作ってやがる」


 


家を。


 


関係を。


 


現実ごと。


 


数秒、見る。


 


歪みは、消えていない。


 


「……潰す」


 


今度は、少しだけ——重かった。


 



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