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転校初日に学校一の美少女に告白したら、何故か一緒に日本一を目指すことになった件  作者: 堅物スライム


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第8話 九条玲香

 9月1日。


 ――ああ、またか。


 今日、転校してきたばかりの出口君? いや、出川君だっけ? に、放課後「話がある」と呼び止められた。

 きっと、また告白なのだろう。

 会ったばかりの私の何が分かるというのだろう。


 高校に入ってから――いや、中学の頃からか。

 私はやたらと男子に告白されるようになった。しかも、ほとんど話したこともないような人たちに。


 面倒だから、あえて話しかけづらい雰囲気をまとうようになった。

 そしたら、女子にまで避けられるようになったのは計算外だったけど。


 最初の頃は、理由を考えて丁寧に断っていた。

 傷つけないような言い回し。

 あなたがNGなのではなく、誰とも付き合うつもりは無いから、と。


 でも、そんな時間は無駄だと気づいた。

 まだ望みがあると勘違いさせてしまって、何度も告白してくる人が現れる始末。


 そこで私は条件を一つだけ決めた――私を論破できたらOK。

 それだけ。

 論戦にすれば、相手の気持ちを気遣うことなく、言いたいことを思い切り言える。もう二度と告白する気も起きない程に言い負かす。

 これなら諦めもつくでしょって。


 私はみんなとは違う。

 自由に恋愛が出来るような立場ではない。

 そんな暇もない。

 九条財閥トップの一人娘として、やらなければいけないことがたくさんある。

 時々、窮屈に思う時もある。

 全てを捨てて逃げ出したくなるようなことも。

 でも、何不自由ない暮らしができるのは、すべて家のおかげ。

 自分がどれだけ恵まれているかなんて充分すぎるほど分かってる。


 両親だけでなく、親族のみんなも私の将来を夢見ている。

 だから、私はその期待を裏切れない。


 ◆◆◆


 9月15日。


 修学旅行の班決めが、憂鬱で仕方ない。

 こんな状況になったのは自業自得だと分かってはいるけれど。

 仮病を使って休もうか――そんな考えまで浮かんだ。

 せめて班決めが自由じゃなく、くじ引きだったら良かったのに。

 誰からも誘われず、余り物のような扱いで、人数が不足している班に押し込まれるだけの展開が目に浮かぶ。

 本当に惨めだ。

 でも、くじ引きで班を決めたとしても、私はきっと孤立するだろう。


 そんな風に憂鬱な気持ちでいたら、放課後、出口君に「一緒の班になろう」と誘われた。

 毎日私に論破され続けているのに、全く気持ちが折れていないらしい。


 ……何だろう。

 誘われた瞬間、心の奥がじんわりと温かくなった。

 そして安堵の気持ちが広がっていった。

 出口君にお礼を言ったら、何のこと? みたいにキョトンとしていた。


 私は今日、出口君に救われた。


 ◆◆◆


 10月4日。


 十月に入っても、出口君はディベートを続けている。

 少し本気を出さないと、模擬戦で負けるかもしれないくらいには成長していた。


 今まで私に告白してきた男子たちとは、何かが違う。

 鼻の下を伸ばしてディベート部に入ってきた彼らは、望みがないと分かるとすぐに消えていった。

 一ヶ月くらい粘った人もいたけれど、全く実力はつかなかった。


 そんな中で今日、出口君の鞄から英語ディベートの本を見つけてしまった。

 本気で大会に出てくれるつもりなんだと知って、嬉しくなった。


 久しぶりの大会。

 ……でもその前にルール変更、いや特例を作ってもらうようお父さんにお願いしないと。

 こういうことが普通に出来てしまう特権。

 その有難さは身に滲みて分かってる。


 ◆◆◆


 10月12日。


 修学旅行が始まった。

 全く話したことのなかった中澤さんとうまくやれるか不安だったけれど、出口君が間に入ってくれて、普通に会話できるようになった。

 大人しい子だとばかり思っていたけど話してみれば、意外と面白い子だった。

 彼女もいつも学校では一人でランチをしていたはずだから、これからは時々一緒に食べないかと誘ってみよう。


 消灯前、出口君からLINEが来て、思わずドキッとした。

 焦るようなことでもないのに何故だろう。

 ただ、返事が素っ気なさすぎたかも……と、少しだけ心配になった。


 先生たちの目を盗んで外に出る――スリルがあって面白そうだった。

 これまでの私なら考えられない、大胆な行動だと思う。

 見つかって、親へ報告とかされたら家中がちょっとしたパニックになるかも。

 それはそれで少し面白そうだけど。


 でも冷静に考えると、そこまでして外でディベートをするなんて、ちょっとどうかしていると自分でも思う。


 肌寒い夜の京都。

 澄んだ秋の空気の中、月が綺麗に光っていた。


 本当に大切なものは『手に入れたもの』か、『失わなかったもの』か。


 結局のところ、何も失わずに手に入れるのが一番。

 それを言ってしまえばおしまいだけど。

 

「俺は人生って結局、何を手に入れたかで決まると思ってる。技術とか、成績とか、人からの信頼とか……あとは、好きな人の気持ちとかさ」


 出口君のこの言葉には、何故か一瞬だけ頬が熱くなった。


 ――私は、この夜のディベートを一生忘れないだろう。

 いつか京都を想う時、真っ先に浮かぶのは清水寺とかその他の世界遺産でもなく、多分この月明かりの下での論戦。


 出口君ならいつか、本当に私の心の壁を壊してくれるかもしれない。

 そんな予感が、ほんの少しだけ、胸に芽生えた。


 根拠も何の論理性も無いただの勘。

 普段の私なら一笑に付すようなもの。

 論理を超えた何かを信じられるなら、それはきっと……


 そんな風に思った。

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