第5話 本屋でロリ巨乳と出会う
因縁の迷宮。
大都会のラビリンス。
――新宿。
いつも通り九条さんにボコボコに打ちのめされた放課後。
俺はあの夏休み以来、久しぶりにこの地へ参上した。
といっても二ヵ月弱くらいか?
やっぱりごちゃごちゃしてて苦手だ。方向感覚が狂う。
今日の目的の場所は紀伊國屋書店。
でかい本屋といえばここ、という定番スポットらしいからな。
12月に開催されるという『英語ディベート全国大会』。
その東京予選は、修学旅行が終わった後の10月下旬に開催される。
九条さんに鍛えられ、ディベート自体については多少免疫が出来てきた。
となると、もう一つの問題は――
そう。
英語である。
内容が分かってても、英語で喋れなきゃ何にもならない。
受験英語だったら自信あるけどヒアリングとスピーキングには不安しかない。
色々調べてみたところ、高校生向けの英語ディベート本は結構出版されているらしく、今日はこの大型書店にて、自分に適した本を探しに来たわけだ。
九条さんに内緒で英語まで特訓しようとする俺。
努力はひけらかすものじゃない。
え? いつの間にそんなに英語を? みたいに驚かせたい。
というわけで、今日も散々道に迷った挙句、何とか店に到着しディベート関連コーナーへと足を向ける。
スマホのナビがなかったら、たぶん一生たどり着けなかっただろう。
『脳を鍛えるディベート入門――論理的に話す力トレーニング』
『戦略的ディベートマスター――思考・表現・分析の頂点へ』
ほう、なかなか面白そうな本が揃ってる。
パラパラとめくってみると、演習形式のページも多いみたいだ。
さすが大型書店。
小さな書店じゃまず見かけないラインナップが揃ってる。
だが、今日探すのはあくまで英語ディベート関連のやつだ。
英語で話し、聞き、論理を組み立てる。そのための技術書。
さてどこにあるのかなっと、周囲をキョロキョロ見回していると、突然背後から声を掛けられた。
「あれ? その制服って黎明学院ですよね?」
振り向くと、そこにいたのは小柄な眼鏡っ子。ロリ巨乳のおまけ付き。
中学生に見えなくもないが、制服の雰囲気や持ち物からして、多分高校生だろう。
「ん? そうっすけど……どうかしました?」
「あ、いえ。最近、大会で見かけないからどうしたんだろうって思ってたんですけど」
「あ、てことは君もディベートやってる感じ?」
「はい、わたしは桜坂高校です。都立の」
「ほう、なるほど……じゃライバルってことだ。俺は2年の出口論」
「わたしは玉田マコ。同じく2年。よろしく」
見た目ロリだから普通にタメ口で話しちゃってたけど、同い年で良かった。
「黎明の九条さん、去年の甲子園予選で初めて見て……。まだ高校に入学したばかりだというのに本当に凄くて、いつか大会で戦いたいって思ってたんだけど、あれ以来、どこにも出てこないからどうしたんだろって。元気でやってますか?」
「あ〜、元気元気。今日もバチボコに論破されたよ。てか、やっぱり客観的に見ても九条さんは凄いんだな……」
そりゃ、俺らみたいな素人が付け焼刃で戦ったところで勝てるわけがないか。
「来月の予選には出るのかな?」
「うん、一応。九条さんとのコンビで大会を席巻する予定」
「コンビ? 他のメンバーは?」
「ん? いないよ。部員二人しかいないし」
「え?」
玉田さんが驚いたように目を見開く。
声のトーンが半オクターブ上がった気がした。
「大会は4人以上のチームじゃないと参加できないけど……」
「え? そうなの?」
マジで?
◆◆◆
次の日。
いつものように放課後の教室で、模擬戦を開始する前。
俺は、昨日聞いたことを確認しておくことにした。
「昨日、本屋で他校のディベート部員に会ったんだけどさ」
「うん」
「今度の大会って、4人以上じゃないと参加できないって聞いたんだけど」
「うん。ディベートは基本的には4人以上が参加チームの条件だよ」
え?
いつも通りの無表情で、あっさりとそう言ってのける九条さん。
「いやいや……え? じゃあどうすんの? 俺たち参加できないってことじゃん」
「できるわよ」
「どういうこと? あ、幽霊部員がいたりするの?」
「ううん、いない」
禅問答かよ。
「……じゃ、どうすんの?」
俺が問い返すと、九条さんはほんの少し眉をひそめた。
珍しく、歯切れが悪い。
「本当はあまりこういう手段は取りたくないんだけど……」
「何?」
「世の中、お金を使えば大抵のことは解決できるの」
瞬時にその意図を察した俺。
金で誰かを無理やり連れてくる、のではなくルールそのものを捻じ曲げる気だ。
「うわあ……九条さんの口からそんなセリフ、聞きたくなかった……」
「しょ、しょうがないじゃない! でも勝敗にまで影響はしないから、安心して!」
「さすがに審判買収までしたらドン引きだよ……」
「そんなことするわけないでしょ!」
「てか二人で四人を相手するわけ? めっちゃきついんじゃないの?」
俺がもっともな質問を投げかけると、九条さんは不敵な笑みを浮かべる。
「それ位のハンデが無いとつまらないでしょ? というより今回、出口君の働きには期待してないから、実質私一人だよ」
「え? ひどい……ちょっと傷ついた」
「ふふっ……本番の全国大会までに戦力になってもらえれば大丈夫だから。今回はリラックスして臨んで雰囲気だけでも掴んでくれればOK」
「そんな感じなの? ならちょっと安心だけど」
一瞬の静寂。
外では相変わらず野球部なのかサッカー部なのかの掛け声がグラウンドに響いている。
「出口君は私にこれだけ論破され続けても、全然へこまないね」
夕陽が差し込む教室で、九条さんが独り言のようにそう言う。
「みんな耐え切れず、すぐに辞めていったのに」
「ああ、言っただろ? そのうち絶対論破して俺は九条さんの彼氏になってやるって。他の奴らとは覚悟が違うよ」
「そう。じゃ、その時を楽しみに待ってるね」
「なに、そのニヤニヤした顔は。全く本気にしてないっしょ?」
「ふふっ、どうかしらね。じゃ、模擬戦始めようか」
その後、いつものように無茶苦茶にボコられた。




