↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転校初日に学校一の美少女に告白したら、何故か一緒に日本一を目指すことになった件  作者: 堅物スライム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/40

第38話 ディベート甲子園②

 八月四日。


 大会最終日。

 結論から言うと、俺たちは優勝した。

 最大の難関は準決勝で当たった桜坂高校だった。

 玉田さんから繰り出される隙のない主張は、俺たちの想定をはるかに越えてきたが、九条さんを筆頭に、焦ることなく一つずつ潰していき、何とか乗り切った。


 試合後、玉田さんは大声で号泣していた。

 彼女にとってもこれが最後の甲子園。

 全てを賭けて臨んできたはずだ。

 決勝の前には、わざわざ俺たちのところへ来て「絶対優勝してね」と言いながら、力強く全員と握手をしてくれた。

 悔しさが溢れているはずなのに、その目は本心から俺たちの勝利を祈っているように見えた。


 もし俺がその立場だったら、同じことが出来ただろうか。

 多分、無理だ。

 俺はそんなに人間が出来ていない。


 ――表彰式。


 万感の思いが胸に押し寄せ、俺は必死に涙をこらえていた。

 まさか自分が、ここまで熱くなれる人間だったなんて思ってもみなかった。


 ベストディベーター賞を受賞したのは、もちろん九条さん。

 名前が読み上げられた瞬間、彼女も少し感極まっているように見えた。

 その姿を見て、俺も胸の奥がじんわりと熱くなる。


 一年前に交わした、あの日の約束は果たされた。


 表彰式が終わると、みんなで肩を寄せ合って記念撮影。

 デイブ先生は満面の笑みで、色んなポーズをあれこれ要求してきて、笑い声が絶えなかった。


 帰り道、そのまま先生の奢りでファミレスに入り、ささやかな打ち上げ。

 ジュースやお茶で乾杯すると、満面の笑みが広がっていく。


「終わったな……」


 上戸がぽつりとしみじみ呟く。


「あっという間だったな」

「日本一なんて、まだ全然実感が湧かない」

「俺ももう燃え尽きたわ」


 そんな会話をしていると、黒縁メガネをくいっと上げながら世野さんが突っ込む。


「ちょっと! 終わるのはまだ早いですよ! 先輩たちが卒業したら私はどうするんですか? 一人になるんですよ? せっかく日本一になったのに部員不足で廃部とか笑えないですから!」

「ま、何とかなるでしょ。九条さんもずっと一人で頑張ってきたわけだし」

「大丈夫よ、世野さん。ちゃんと部員募集は手伝うから。夏休み明けたら一緒に頑張りましょ!」

「く、九条先輩……!!」


 そう言って、世野さんは九条さんへ思い切り抱きつく。


 その後も思い出話は尽きることなく、遅くまで打ち上げは続いたのだった。


 ◆◆◆


 甲子園優勝の余韻に浸る間もなく、俺は慌ただしくアメリカへ行く準備に追われていた。

 出発はもう、来週に迫っている。


 残りわずかな時間。

 言うまでもなく、一秒でも長く九条さんと一緒に過ごしたい。

 けれど彼女も受験を控えた身だ。

 夏休み中の勉強がどれほど大切か、俺もよく分かっている。


 だからこそ、俺は数少ないチャンスを狙っていた。


 ――親が昼間不在の日。

 親父はともかく、母親は専業主婦なので、基本的に家にいる。

 どこかに出かける日を、ずっと待っていたのだ。


 そして、ようやくその日が来た。

 昨日の晩飯のときに「明日遅くなるからご飯は勝手に食べてて」と言われた俺は、心の中でド派手なガッツポーズをかまし、すぐに九条さんに連絡した。

 

 明けて今日。

 もうすぐ駅に到着するはずだ。


 この日の為に俺はちゃんと準備していた。

 何軒ものコンビニを梯子し、買いやすそうな店員のいる店をひたすら探し回った。

 若い店員は、男女も国籍も問わず、ダメだ。

 おばちゃんも結構キツイ。

 なので、おっさん――そう、俺は人生で初めておっさんを求めて歩き回り、ようやく目的を果たしたのだった。


 九条さんの駅到着に合わせ、俺は家を出た。

 まだ午前中だ、昼飯はどうするか考えながら足を進める。


 改札口で待っていると、すぐに都会に舞い降りた天使が現れた。

 夏の淡い色のワンピースに、薄手のジャケットをさらりと羽織っている。

 忘れるはずがない――初めて出会った日の装いだ。


「おはよ」


 九条さんは、にっこり笑って声をかけてきた。


「おはよう。その格好……」

「これで合ってたかな? 去年、出口君に声かけられた時の」

「うん、合ってる。脳裏に焼き付いてるから」


 あの日と同じ格好の九条さんと、俺は今、当たり前のように手を繋いで歩いている。

 そう考えると、改めて現実感が無い。


 途中、九条さんのリクエストでパン屋に寄る。

 棚に並ぶパンを二人で選び、昼の分をいくつかトレーに乗せる。

 温かい紙袋を受け取ると、また手をつないで歩き出した。


 今日は、一緒に勉強しようとか、そういう小細工はせずに、ただ一緒に過ごしたいと正々堂々と伝えている。

 俺の部屋が近づくにつれ、心臓のバクバクは大きくなっていく。


 九条さんを先に部屋に案内し、俺は飲み物を取りに冷蔵庫へ向かう。

 彼女がよく飲んでいるお茶のペットボトルは、あらかじめ冷やしておいた。

 それを手に取ると、再び部屋へ戻る。


「お腹空いてない? 軽くお菓子でも持ってこようか?」

「ううん、大丈夫。後でパンもあるし」


 ――ヤバい。

 今すぐにでも襲い掛かりたい。

 耐えろ、俺……!

 今日はちゃんと落ち着いて行動しろ……!


 アメリカに行く前に、また自己嫌悪に陥るのはゴメンだろ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。