第35話 人生で最も長い夜②
俺は庭先へ出て、外付けの鉄階段を上り、屋上へと向かった。
空気は澄んでいるものの、空には薄く雲がかかり、満天の星空とまではいかない。
リクライニングチェアに寝転がっていると、少しして九条さんがやって来た。
「寒くない?」
「大丈夫」
そう言って九条さんは、俺の隣のチェアに横たわる。
「なんで、さっき私も連れてってくれなかったの?」
「え? 廃病院?」
「そう」
やばい、やっぱり少し根に持っているっぽい。
「……いや、一緒に行くと探索に集中できなくなりそうだったし」
「なんで?」
「うーん……探索そっちのけで、九条さんのことばっか気にしたり考えちゃったりしそうだから、かな?」
「別に私のことなんか気にしないで、自由に回ってればいいじゃない」
「無理でしょ……」
二人とも黙ったまま、しばらく空を見上げる。
俺はさりげなくリクライニングチェアを九条さんのチェアの真横まで移動させ、ぴたりと寄り添う形にした。
「来週の甲子園でもう終わりとか、全然実感が湧かないんだけど」
「……そうね」
「まさか、本当に日本一を目指せる所まで来れるとは」
「私は最初から本気だったけど」
九条さんに「一緒に日本一を目指しましょう」と言われた、あの日の光景が鮮明に蘇る。
「この一年でめっちゃ色んなことがあったな~」
「出口君の場合、これから先の方が波瀾万丈な人生が待ってそうじゃない」
「そうかな?」
「そうよ……大会が終わったらアメリカでしょ?」
「ああ、確かに」
「……出口君、お調子者だから、前にここでした約束のこともあっさり忘れて、来年の今頃には金髪の女の子のお尻、追いかけてそう」
「お調子者って……」
九条さんの声の奥には、少しだけ寂しさが混じっているように思えた。
俺はそっとその手を握る。
「優勝できなかったら奨学金貰えないんでしょ? どうするの?」
「そん時は親父が何とかしてくれるらしい。将来、返すのに何年かかるか分らんけど……」
「今、凄い円安だもんね」
びゅうっと夜風が二人の間をすり抜け、九条さんの髪を揺らす。
その肩が小さく震えたのを見て、俺は思わず九条さんを抱き寄せた。
体温がダイレクトに伝わる、息づかいまで感じられる距離感。
「寒くない?」
もう一度、俺は問いかける。
「……こうしてれば平気」
九条さんは俺の方に体を向けて、そっと俺の腰に手を回す。
――こんな体勢になって、我慢できるわけがなかった。
俺はそのまま九条さんに口づけをかます。
それが激しさを増すほどに、九条さんの腕にもぎゅっと力がこもり、俺の背中を逃がさないように抱き寄せてきた。
多分、俺がアメリカに行くまでに、二人でこうして過ごせる夜は、これが最後だろう。
そのことを意識していたのは、きっと俺だけじゃない。
荒い息づかいのまま、何度も唇を離しては、また深く息を吸い込み、お互いがお互いの唇を貪り合う。
俺の股間はギンギンに固くなっていて、これ以上我慢が出来る状態ではなかった。
自然とその手は、九条さんの服の中へ潜り込んでいく。
そして恐らくブラと思しき何かに触れる。
確かこれって背中にホック的なのがあるんだよな……?
夢中で背中をまさぐり、何とかそれらしき物を探り当てると、パチンと外す。
九条さんからの抵抗はない。
……直に触ってしまった。
その柔らかい感触を暫く愉しんだ後、俺の手はスウェットズボンの中へと侵入を開始する。
――あ。
勢い余って、下着の中に直接手が入ってしまった……。
慌てて引っこ抜こうとするが、それは俺の理性の話で、本能で動いている手は止められなかった。
瞬間、九条さんの動きが固まる。
だが、嫌がっているのではなく、ビックリしただけのようだ。
「ちょ、ちょっと暑くなってきてない?」
俺は荒い息遣いのまま、左手で九条さんの大事な部分をまさぐりながら尋ねる。
「……うん、暑いかも」
九条さんは俺にしがみついたまま、その顔を俯かせたままで答える。
「じゃ……、じゃあ……ちょっと失礼して……」
そう言いながら、九条さんのスウェットを脱がせていき、俺自身もパンパンに膨らんだ股間を痛いほど締め付けているパンツを脱ぐ。
さっきまで薄くかかっていた雲はいつの間にか消え去っていた。
星と月の光が屋上を明るく照らし、九条さんの真っ白な体をくっきり映し出していた。
神々しくて、神秘的な美しさに思わず息を呑む。
そのまま九条さんの体に覆いかぶさると、その女神のような身体に夢中で貪るように、吸いつく。
九条さんは俺にされるがままになっていたが――
「は……初めてだから全然分からないけど、こうしてあげると気持ちいいって何かで見た気がする……どう?」
そう言って、遠慮がちに俺の息子を手で優しく包み込み、しごいてくる。
「うん……めっちゃ気持ちいいけど、イっちゃいそうだから今は大丈夫」
俺はそっとその手を離す。
そして、気づく。
まさか、ここまで出来るとは想定してなかったから、ゴムなんて用意してない……。
てか、買ったことすらないし。
ど、どうすりゃいいんだ!?
このまま手で??
動きが止まった俺を、九条さんが不思議そうに見ている。
「どうしたの?」
「……いや、ちょっと準備してなくて……」
「準備?」
「うん、ゴム……」
その一言で、九条さんもハッと気づいたような顔をする。
「そ……そう。じゃ、今日はここまでね。というか、あらかじめ準備されてたら、それはそれで嫌だったかも……」
「……このまま続けちゃダメ?」
ここまできて、我慢なんか出来るわけないだろ……。
「え……? だってゴムが無いと……」
「無くても出来るから」
「そ、そうだけど……それはちょっと」
「ダメ?」
そう言って、俺は優しくキスをする。
「で、でも……」
「我慢できないんだ。アメリカに行っても、俺は九条さんと一つになったというその事実を支えに頑張りたい」
「……」
九条さんはもう何も言わなかった。
そして、そんなカッコつけたことを言っておきながら――よく分からずに冷や汗をかき、試行錯誤しながら、星空に見守られながら――なんとか最後までやり遂げることが出来た。
暴発しなかっただけ、まだマシかもしれない。
そのまま俺たちは、何も着ずに、しっかりと手を繋ぎ、余韻に浸っていた。
「もし出来てたら……アメリカまで追いかけに行くから」
「その場合は、人生を方向転換しないとね……」




