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転校初日に学校一の美少女に告白したら、何故か一緒に日本一を目指すことになった件  作者: 堅物スライム


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第21話 バレンタインデー

 2月14日。

 バレンタインデー。


 え? 今日そうだったっけ? なんてすっとぼけている男子たちも心の中では数日前からそわそわと落ち着きが無くなっていることは言うまでもない。

 お金配りおじさんのように、みんなにチョコを配る女子に救われる男子も少なくない。例えそれがチロルチョコ一個だったとしても。


 俺も当然、意識してしまっている。

 果たして九条さんから貰えるのだろうか。

 はたまた予想外の女子に貰える可能性も……なんて、就寝前のベッドの中で夢想してみたりする。

 しかし朝の目覚めは、いつも虚しさとセットでやってくる。


 現実は時として非情だ。

 結局、うちのクラスにチョコ配り女子は現れず、時間だけがいたずらに過ぎ、俺――いや俺たちは、何の収穫もなく放課後を迎えていた。

 誰もそのことに触れようとしない。


 え? 今日、バレンタインだよね?

 この学校、こういうイベント禁止だったっけ……?


「あ、雪が降ってきた」

「ほんまや」


 模擬戦の合間、中澤さんがそう呟くと、上戸が何故か関西弁で返す。

 窓の外を見ると、白い雪が舞っていた。

 そういえば今日、天気予報で雪が降るかもって言ってたな。


 ホワイトクリスマスならぬ、ホワイトバレンタイン。

 ……虚しい。


 ワンチャン、中澤さんから義理チョコ貰えるかもなんて期待してた。

 ぶっちゃけ九条さんよりもある意味で可能性あるかもなんて、そんな風に考えていた時期が俺にもありました。

 でも現実は、全然そんな気配がない。


 これ、上戸はどう思ってるんだろ。

 いつも通りの態度だけど、最初から期待してないのか?

 何か俺だけ意識しちゃってるみたいで、めっちゃ恥ずいじゃん……。


「どうしたの、出口君? さっきから浮かない顔して」


 九条さんが目ざとく、俺の普段とは微妙に違う様子を察して聞いてくる。

 そりゃ、言えないだろ……チョコが貰えなくてブーたれてましたなんて。


「いや、何か帰り寒そうだなって。雪積もらないといいけど」

「そこまで降りそうな気配は無いけど」


 九条さんも窓の外に目を向ける。


「どうする? 今日は早めに切り上げる?」

「いや、ディベートで脳を沸騰させれば寒さも吹き飛ぶはず!」


 俺は無理やり空元気を出す。


「そう、じゃ続けようか」


 そうだよ、こんな下らないことで落ち込んでられるか。

 この憂さは、模擬戦で上戸をボコボコにすることで晴らす。

 上戸も成長できるし、一石二鳥だわ。


 ◆◆◆


 マジで何もないまま、普通に部活が終わった。

 窓の外は、結構吹雪いている。


「これ、明日までにはマジで積もるかもよ?」


 窓を開け、グラウンドの様子を伺う。

 夕方の雪空はどんよりとしていて、暗い。

 灰色の雲が低く垂れ込め、校舎全体を重たい膜のように覆っていた。

 まるで俺の今の気分をそのまま表現したかのような空模様。

 肌を突き刺すような冷気が、教室に流れ込んでくる。

 さすがに今日は運動部の姿も見えない。


「そしたら、明日は雪だるま作ろうぜ!」


 上戸が嬉しそうに提案してくる。


「いや、それは遠慮しとく」

「上戸君、一人で頑張って」


 女子たちのつれない返事に、上戸は分かりやすくいじけて呟く。


「……じゃ、帰ろうか」


 俺たちは教室の外へ出る。

 少し遅れて、九条さんも。


「あ、出口君! 忘れ物あったよ」


 そう言って、九条さんは俺の上着のポケットに何かを押し込んできた。


「え? 何か落としたっけ?」


 その問いに答えることなく、九条さんは小走りで前を歩く上戸たちに追いつく。

 ポケットをまさぐると、そこにあったのは包装紙に包まれた小さな箱だった。


 こ、これは――!!


 一瞬で理解した。


「おい、出口! 何モタモタしてんだよ、早くしろ」

「あ、わりい! 今行く!!」


 ついさっきまでまとわりついていた冬の重苦しい空気は、俺の周りから跡形もなく消え去った。

 足取りは軽く、心臓の高鳴りに押されるように、みんなに追いつく。


 思わず顔がにやけてしまうが、止めることが出来ない。

 九条さんはそんな俺の様子を見て、くすりと笑った。


 ああ、男子ってめっちゃ分かりやすいって思われてるんだろうな。


 ◆◆◆


 家に帰った俺は、念入りに手を洗い、うがいを済ませると、自分の部屋へ急いだ。

 上着のポケットから、九条さんにもらった小箱を取り出す。


 高級そうな包装紙を、破らないよう細心の注意を払いながらゆっくりと開く。

 現れた箱もまた、高級感に満ちていた。

Éclat Noir(エクラ・ノワール)」――そう書かれている。

 有名ブランドなのか? それとも知る人ぞ知る超高級ブランドなのか?


 中を開けると、いくつかの漆黒の粒と、小さなカードが入っていた。

 チョコの説明書きだろうか。

 そう思って手に取ると、そこには手書きで――


『チョコのカカオ%が本命度数です。』


 ……は?

 どういう意味!?


 俺は慌ててÉclat NoirのHPにアクセスする。

 画面いっぱいに広がるのは、予想通りのセレブ感満載のページ。

 商品を検索してみるが、どれが該当するのか分からない。

 というか、どの商品にもカカオ%なんて表記されてないし!


 ちょ、これ……!!


 もしかして、苦ければ苦いほど「本命度」が高いってことか!?


 本来なら一粒ずつ大事に味わうべきなんだろうけど、そんな余裕なんてあるはずがない。

 俺は心臓をバクバクさせながら、一粒を口に放り込む。


 ――そして。


 うん、甘さもあるが、確かな苦みもある。

 いわゆる「ビター」だ。


 えええ!?

 これって何%くらいなんだよ!?


 そこでふと気づく。


 ……ちゃんと苦みを感じるってことは、少なくとも0%じゃない。


 良かった。


 今はそれだけ分かれば、充分だ。

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