第14話 これって恋なの?
中間テストも無事に終わった11月の半ば。
文化祭とかいうイベントも、気付けばいつの間にか終わっていた。
ディベート部には出し物も、展示するような物もなく(ついでに部室も相変わらず無い)、うちのクラスの出し物も軽食喫茶という至ってシンプルなものだった。
シフト制で店番や調理をこなすだけで、みんな淡々と自分の業務をこなす単なるバイトみたいな感じだったし、終わった後の打ち上げとかも無かった。
当然、俺が九条さんと二人で各クラスの展示を見て回る、なんていうラブコメ的展開も起こらず、一部の生徒たちの盛り上がりとは対照的に、俺の周りはまるで何事も無かったかのように、単なる日常の一環として文化祭をやり過ごしていた。
そんなある日の昼休み。
上戸が、独り言のようにポツリと呟く。
「なぁ、中澤さんって修学旅行の後、変わったよな?」
「え? ああ、確かに。言われてみれば、九条さんともよく喋ってるし、他の人たちとも絡むようになったな」
上戸の視線の先を追うと、中澤さんと九条さん、それにもう一人の女子と楽しげに話している光景が目に入る。
上戸は少しポーっとした顔で、その様子をじっと見つめていた。
「で、それがどうかしたのか?」
「俺さ、文化祭の時、危うく事件起こしそうになったんだよ」
「マジで? 初耳なんだけど??」
上戸は頭を掻きながら、当時の状況を説明し始める。
「卵アレルギーの人からの注文があってさ、玉子抜きサンド作ろうとしてたら、別の注文も立て続けに入って、それをメモしたりしてたら、玉子のことすっかり忘れてて、普通に作っちゃったんだよ」
「え? ヤバくね?」
「うん、ヤバかった。でも中澤さんがそれに気付いて慌てて取り下げてくれたんだよ」
「へぇ~、よく気付いたな」
その目は何か少しだけ輝いているように思える。
「ああ。で、何で分かったの? って聞いたら、注文が立て込んでたから、俺がミスしないように注意して見ててくれたんだって。中澤さんもお客さんを案内したりで忙しかっただろうに」
「凄いな、中澤さん」
「うん、凄い。そういう細かいところまで気を配ってるの、普段の感じからは想像つかなかったからさ。あのフォローが無ければ俺、少年院に行ってたかも」
「さすがにそれは無いだろ」
上戸は少し間を置き、また中澤さんをポーっと見つめる。
「で?」
「で? とは?」
「言いたいことはそれだけじゃないんだろ?」
「……ああ。何かそれ以来、中澤さんっていいよなって思い始めてきた」
「え? 好きになったってこと?」
「いや、俺、誰かを好きになったことないから分からないんだよ。これって恋なのか? それともただの尊敬の念なのか?」
「まぁ、よく分からないけど、恋なんじゃないか?」
「やっぱり恋か……。お前は九条さんのこと好きだろ? それってどんな感じなんだ?」
「どうって……」
改めて口にすると、何か恥ずかしいものがあるな。
いくら俺が九条さんのことを好きだと知られていても。
「言葉にするのは難しいけど、何でもないことでも話したくて、笑顔にさせたい。あとは喜ばせたいし、他の男と話してる姿見たら嫉妬するし……まぁ、とにかく九条さんの中で一番優先度の高い人間になりたい感じかな」
「ああ、それなら何となく分かるわ……。じゃあ、これって恋ってことでいいんだな?」
「いいんじゃないの」
最後は軽く、適当に返しておいた。
――が。
あれ……?
これって何か手助けとかした方が良いのか?
上戸には、転校してきて以来、色々世話になってるし――ん? なってるか?
九条さんとの間も取り持ってくれて――ないよな、別に。
というか、そもそも俺と九条さんが全く進展してないのに、他人の恋のキューピッドなんてやってる場合じゃないだろう。
でも、そんな話を聞かされて、我関せずは冷たすぎるよな……。
「ま、九条さんと仲良いみたいだから、色々探りは入れてみるよ」
「マジで!? 頼む!! ……でも、まだそんな焦るような感じでもないし、気が向いた時でいいよ」
「了解」
よく考えてみたら、九条さんとこういう恋バナをするのも悪くない。
模擬戦の合間の閑話休題程度には、丁度良い気もする。
上戸はふと視線を窓の外にやり、またポツリとつぶやいた。
「で、お前は九条さんとは何か進展あったのか?」
突然、話題の矛先を俺に向けてきた。
「進展……あったのかな……。大分仲良くはなれたと思うけど」
「でも、女性ってのは、第一印象で恋愛対象かそうじゃないかを仕分けしてるんだろ? 友達になって仲良くなってから告白とか時間の無駄じゃなかったか?」
「う……よく覚えてたな。でも結局、それはケースバイケースなんじゃねぇか? 全ての男が巨乳好きとは限らないのと一緒で」
「うーん……まぁ、それもそうか」
俺たちはしばらく黙り込み、教室の窓の外を見やった。
灰色の雲が低く垂れ、木々の葉は色を落とし始めている。
冬の足音がゆっくりと近づいてくる。
それは、少し切なく、でもどこか心落ち着くような静かな季節の訪れの余韻だった。




