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転校初日に学校一の美少女に告白したら、何故か一緒に日本一を目指すことになった件  作者: 堅物スライム


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第12話 東京予選③

 次の試合も、苦戦しつつなんとか勝利を収めることができた。

 さすがの九条さんといえど、まともな四人相手では一筋縄ではいかないらしい。

 俺がせめてもう少し戦力になれればと思うが……現実は甘くない。

 事前にみっちり資料を作って準備はしてきたものの、相手の英語を聞き取るのにどうしても時間がかかってしまう。

 頭の中で日本語に変換し、それをまた英語に組み立て直す――この工程が一瞬でできるくらいじゃないと、流暢には話せないんだろうな。

 たぶん、夢を英語で見るくらいじゃないとダメだ。


 第二試合が終わった後、控室でホテル提供のお洒落ランチに手をつけたものの、味がよく分からないまま無力感を噛みしめていた。

 せっかくのA5黒毛和牛のローストビーフとトリュフマヨのサンド、そして「ポタージュ・パルマンティエ」とかいう、今後の人生で二度と食べられないかもしれない逸品だったのに。

 他校の生徒たちは普通のサンドイッチらしく、羨ましそうな視線がこれでもかと突き刺さってくる。


「すまん、思ってたより全然、力になれなくて」

「そんなことないわよ。資料を探してくれるだけでも十分助かってる」


 九条さんは、まるで何も気にしていないように微笑む。

 だが、それがかえって胸に刺さる。

 やっぱり二か月で英語ディベート挑戦は無謀だったか……

 しかも次の相手は――


「あ、出口君!」


 聞き覚えのある声に振り向くと、そこにいたのは小柄な眼鏡っ子。

 制服の上からでも分かるほどの豊かな胸元が、歩くたびに弾んでいる。


「おう、久しぶりだな……。次当たるってことは連勝中ってわけだ」

「予選なんかで負けるわけにはいかないからね。どう、調子は?」

「まだエンジン全開って感じではないな……」


 ロリ巨乳と親しげに話す俺を、九条さんがポカンと眺めている。

 確かに、東京に来たばかりの俺がどうやって他校の生徒と知り合ったのか、不思議に思って当然だ。


「あ、紹介するよ。この前、紀伊国屋のディベート関連コーナーで知り合った、桜坂高校の玉田さん」

「初めまして! 玉田マコです!」

「なまたまご?」

「止めなさい!! 初対面だよ!? 被ってた猫どこいった!?」


 予想外のボケに、俺は慌てて突っ込む。


「あはは!! 九条さん、意外とお茶目な人なんですね!!」

「え? 私のこと知ってるんですか?」

「もちろん!! 去年の甲子園予選の試合、見てました!! 一年生なのにすごいなって憧れてたんです!!」

「そ、そう。それは光栄だわ」


 お、珍しく九条さんが少し照れている。


「次の試合、全力でぶつかるので宜しくお願いします!」


 玉田さんが右手を差し出す。


「宜しく。こちらも全力を出させてもらうわ」


 そう言って九条さんが握り返す。

 小柄で丸みのある玉田さんは、その笑顔まで弾むように元気だ。

 対して九条さんは、すらりとした立ち姿のまま、涼やかな眼差しを崩さない。

 柔らかな曲線と、しなやかな直線――同じ女子でも、こうも印象が違うものかと、俺はつい見比べてしまった。


 ◆◆◆


「日本は18歳選挙権を16歳に引き下げるべきである」


 これが第三試合のモーション(議題)だ。

 今回、俺たちは肯定側。もちろん、どちらになっても対応できるよう、肯定も否定も準備してきた。


 桜坂高校は男女二人ずつの四人組。

 連勝中ということもあって、見た目からして上級者感が漂っている。

 玉田さんはいつもの笑顔の裏に鋭い視線を感じさせ、戦闘モードに切り替えてる感じ。

 その隣の男子は、きちんと整えた髪型にまじめそうな表情を浮かべ、資料を念入りに確認している。

 残りのオタクっぽい男子と女子は、どちらも少し猫背でノートを抱えるようにして座っている。

 指先でメモを小刻みになぞって、何やらブツブツと呟いている。


 ジャッジの合図とともに、九条さんが立ち上がり、肯定側の立論を始めた。


 ※以下、日本語に翻訳しています。


「私は、日本は18歳選挙権を16歳に引き下げるべきだと思います。理由は、16歳でも社会に影響を受け、意見を持つ年齢だからです。たとえば高校生だって消費税を払っているし、進路選択でも社会の仕組みに直面している。そういう人たちの声が反映されないのはおかしいと思います。」

「確かに16歳でも社会と無関係じゃないです。でも、政治判断をするのに必要な知識や経験が十分かというと疑問です。高校1年や2年だと、授業で学ぶ政治の内容もまだ基礎段階だし、現実の政治問題を理解するには未熟だと思います。」


 真剣な眼差しの玉田さんの英語の発音は、予想以上に滑らかだった。


「でも、知識の量で権利を制限するのは危険じゃないですか? 大人だって全員が政治に詳しいわけじゃないし、むしろ選挙は『完璧な理解』じゃなくても意見を表す機会であるべきです。」

「未成年者はまだ親の影響が大きいです。16歳で投票できるとなると、家庭の意見に左右されて『独立した意思』を持てない人が多いのではないでしょうか? 選挙権は個人の判断が前提だから、その点で危うさはあると思います。」


 玉田さんの横にいる男子が資料を片手に、反論してくる。


「親の影響は確かにあるけど、それは18歳でも変わらないですよね? むしろ16歳から投票を経験することで、主体的に考える力が育つのではないでしょうか。」

「でも、権利だけ与えても主体性が必ず育つとは限らないです。逆に、よく分からないまま投票して政治不信を強めるリスクもあるのでは? 16歳っていう早さが、かえってマイナスに働く可能性だってあるのではないでしょうか?」


 言葉の端々から、桜坂高校の四人がそれぞれの立場で真剣に論理を組み立てているのが分かる。

 全員が本気で、全力で、九条さんに襲い掛かる。

 俺も何とか口を挟みたいが、英語のスピード感についていけず、資料を手渡すことで精一杯だ。


 ――熱戦だった。


 時間をフルに使い、ジャッジによる判定。

 結果は1-2で、惜しくも俺たちは敗北した。



 ◆◆◆


「まだ可能性はあるから頑張ろう」


 試合後、無力感で自己嫌悪に苛まれている俺を、九条さんは柔らかく笑いながら励ましてくれた。


「ちょっと俺、舐めすぎてたな……英語も。ディベートも」

「始めて二ヶ月でこの場に立てるだけで凄いと思うけど」

「イメージトレーニングではもっとバリバリに活躍してたんだけど」

「何事も経験って言うでしょ? 次に活かせればそれでいいよ。それに――」


 九条さんはそこで少し間を置いた。


「出口君がいなければ私は参加することさえ出来なかったから」

「え? 金の力で一人でも行けそうじゃん」

「あはは。さすがに一人では無理だって。だから出口君には本当に感謝してる」

「まぁ、そう言ってもらえるのなら少しは救われるけど」

「本心だよ」


 ほんとかよ? と思って顔を上げると、九条さんは真剣な目をしていた。

 俺は少し照れ臭くなり、思わず視線を外す。

 だが、さっきまでの沈んだ気持ちは不思議と消え、肩の力が抜けていくのを感じた。

 プレッシャーが少しずつ薄れていく。


 何事も経験。

 その通りだ。

 拙い英語でもいい。間違っても、それが血となり肉となる。

 次は人目を気にせず、俺も積極的に発言していこう。


 最後の試合では、俺も積極的に発言した――結果的に足を引っ張りまくったが、なんとか勝利を収めることが出来た。


 ――そして。


「お二人とも、お疲れ様!」


 デイブ先生が大きな拍手で俺たちを迎える。


「よく頑張りました。ルールはまだ分からないけど」

「分からないんかい! え? そんな難しくないですよね!?」

「HAHA! せっかくなのでまた写真撮りましょう」


 デイブ先生は誤魔化すように、俺たちを並ばせる。

 屈託のない笑顔が眩しい。


「ほら、九条さんはその賞状、ちゃんと広げて下さい」


 九条さんは大会のベストスピーカー賞を受賞していた。MVPのようなものだ。

 俺たちのチームは5位で惜しくも全国への切符を逃したが――最終戦で俺が出しゃばらなければポイントを稼げ、4位に入れたかもしれないことは置いておこう――孤軍奮闘していた九条さんが正当に評価されたのは素直に嬉しかった。


「はい、チーズバーガー」


 アメリカでもこんな掛け声があるのだろうか。

 フラッシュが何度か炊かれ、デイブ先生はスマホの画面を満足そうに眺めていた。


 ◆◆◆


「ただいま」

「お帰りなさいませ、お嬢様」


 帰宅時間を伝えていたせいか、玄関には年配の家政婦が待ち構えていたように出迎えてくれた。


「今日も遅くまで、ご苦労様です」

「ほんとよ、私がまだ新卒だってこと忘れてるんじゃないかしら?」

「旦那様もそれだけ期待されてるのでしょう」

「それは分かってるけどさ」

「お食事はいかがされますか?」

「あー、軽いのでいいわ。サンドイッチとかで構わないから部屋まで持ってきて」

「承知いたしました」


 自分の部屋に向かう途中、鞄からスマホを取り出す。

 その待ち受け画面に映っているのは、照れくさそうな少年と、賞状を抱えて満面の笑みを浮かべている五年前の自分。



 ――私はずっと待っている。

 あなたが運命だと言った私たちの出会いの答えを。


 あなたと共に過ごしたあの日々は

 かけがえのない宝物


 その思い出が、心の中でずっと光り輝いているから

 あなたのいない、この灰色の世界の中で


 私はどうしようもなく立ち尽くしている。

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