表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
集音路渉 花守り日誌【毎金更新中】  作者: つきや
第六章 砂漠の記憶

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/55

第一話 プロローグ 最初の記憶

新章「第六章 砂漠の記憶」開始!!

プロローグと第一話を公開します!!


第五章の最後にて昏睡状態に陥った渉。彼の意識はどこへ……。

 ピッ、ピッ、ピッ。


 どこかで、規則正しい音が鳴っている。


 遠く、遠く。

 まるで水の底から聞こえてくるような、単調で、執拗な音。


 ピッ、ピッ、ピッ。


 集音路渉は、その音が何を意味するのかを知っていた。

 知ってはいるのに、なぜか確かめることができない。


 ――ここはどこだ?


 瞼は重く、身体は鉛のようで、指一本動かせない。

 それでも、意識だけは沈まずに残っていた。


「……渉……!」


 誰かが呼んだ。

 切迫した声だった。


 その声に応えようと、体を動かそうとするが、やはりびくともしない。

 声の主が誰なのかを、考えるより先に――触れられたと気づく。


 手を、握られている。


 温かい。

 強くはないが、離れないと決めている手の感触に思えた。


 ――僕は、大丈夫。


 理由もなく、そう思った瞬間だった。


 身体の輪郭が、ふっと曖昧になる。

 重さがほどけ、意識が静かに浮き上がっていく。


 少しだけ視界が開け、白い天井が見えた。

 大学の研究室とは違う。

 

 そして辺りを見回そうとするが、やはり動けない。

 そのまま天井へと吸い込まれていく。

 

 機械の音も、遠ざかる声も、すべてが薄い膜の向こうへと退いていった。

 代わりに、光が満ちてくる。


 淡い真珠色の光が、ゆっくりと渦を巻き、渉の意識を包み込みながら、どこかへと導いていく。


 その奥で、目の前が白く染まり、いくつもの影が瞬いた。


 音が消え、気配も、重力も、痛みもなくなる。

 ただ、圧倒的な光と波動だけがあった。


 体の中心で、何かが割れる感覚。

 ――閉じていた何かが、勝手に開いていく。


 白銀の波動が、手のひらを通り抜け、誰かの命へと流れ込んでいく気配。

 守れたものが、確かにあった。


 その代わりに。

 名前が、ほどけていく。


 雪幻桃の声も、

 千年桜の笑顔も、

 誰かの支えも、

 温度のある存在さえも。


 喉の奥にあったはずの名が、掴めない。


「……だれ……?」


 呼ぼうとしているのに、声が空白になる。

 胸が、強く締めつけられた。


 それでも不思議と怖くはなかった。

 抗おうとも思わなかった。


 温かい光の道が目の前で開かれる。


 行き先はわからない。

 けれど――この温もりが指し示す方なら。


 一歩、足を踏み出そうとした途端、光が反転し、意識が引き伸ばされる。

 耳の奥で金属の擦れる音が、微かに聞こえた気がした。


 視界が歪む。

 時間が剥がれる。

 記憶が、砂のように零れ落ちていく。

 それでも、「僕」という感覚だけが、最後まで残っていた。


 気づいた瞬間、乾いた空気が喉を打った。


 熱。

 強い日差し。

 焼けた土と、青い植物の匂い。


 渉――いや、渉だったその意識は、ゆっくりと目を開ける。


 見上げた空は、どこまでも高く、澄んでいた。

 雲ひとつない、過酷なほど青い空。


 視界の端で、風に揺れる草がささやく。


 ――『おはよう、癒やし手』

 ――『今日も、声を聞いてくれるのだな』


 胸の奥に、懐かしい痛みが走った。


 そうだ。

 ここでは、そう呼ばれていた。


 ワト。


 植物の声を聞く者。

 花を守り、命をつなぐ者。


 その役目は、祝福であると同時に、呪いでもあった。

 声を聞ける者は、声を聞けない者たちから距離を置かれる。

 癒やし手であるほど、同じ場所には留まれない。


 それでも、植物の声を無視することだけは、できなかった。

 胸の奥で、静かに根を張る何かが、そう告げていた。


 そして――

 この時代で、ひとつの運命と出会うことになる。

次週「第二話 砂漠の朝」をお送りします。

金曜日に公開予定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ