表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
集音路渉 花守り日誌【毎金更新中】  作者: つきや
間話(3)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/56

間話3 未来を耕す手

今回のお話は、間話です。

ちょっと時間を巻き戻して、交流会中の出来事になります。

 交流会の休憩中、外の空気を吸いに出たときだった。

 

「先輩、この近くにナラの古木があるって、水鏡さんから聞いたんです。なんでも『知恵の授かり木』とか『縁を結ぶ木』って呼ばれているらしくて……」

 

 渉は紙コップを持ったまま、颯汰を見ると、少し俯いていた。どうやら本心は別にあるらしいことが分かる。

 

「……行きたいのか?」

 

「えっ! そういうつもりじゃ――」

 

 両手を前に出して、違うというジェスチャーを見せるが、颯汰の顔は嘘をつけない。本気で行きたいらしい。

 

「まだ次の講義まで時間あるぞ。今後のことが心配なんだろ?」

 

 颯汰は実家の桃園を継ぐことと、大学院への進学を決めた。両立させるのは並大抵の努力では無理だと渉も知っている。だから不安だということも。


「……その、決心したはずなのに、ちゃんと務まるのかって考えると、怖くなって……」

 

 短く頷く。

 するとタイミング良く、瑠奈が渉たちの元へとやってきた。

 

「えっ、これからあのナラの古木へ行くんですか? 私も行きたいです!」


 颯汰は慌てたように「い、いや、そんなつもりじゃ」と繰り返したが、もう誰も聞いていなかった。


「行こう!」

 

 渉の肩に座るフィギュア姿のフウが、ぴょんぴょんと肩を叩きながら叫んだ。


「お前は話を聞いてたのか……」

 

「聞いてたよ! ナラの古木でしょ? 精霊界でも話を聞いたことある!」


 こうして、三人と一柱(?)はナラの古木の元へと足を運ぶことになった。


 *


 細い山道を抜けると、不意に視界がひらけた。


 そこにあったのは、大きく枝を広げたナラの古木。幹は何百年もの時を刻んだかのように太く、苔むした根が地面を這っている。


「わあ……すごい」

 

 瑠奈が思わず声を漏らした。


 だが——。


「……なんか、元気なさそうですね」

 

 颯汰が首をかしげた。確かに、葉の色が所々くすんでいる。枝の先がしおれているものもあった。


 その瞬間だった。


 渉の胸の奥に、何かがぐっと触れる感覚があった。


『……たすけて……』


 小さく、かすれるような波動。まるで遠くから届く声のように、ぼんやりとしているのに確かに聞こえた。


「……木が、呼んでる」

 

 渉は古木にそっと手を当てた。


『くるしい……でも……まだ、ここにいたい……』


 渉は深く息をついた。


「この木、かなり弱ってる。根に何か問題があるはずだ」


「根、ですか」

 

 瑠奈がしゃがみ込んで根元をのぞき込んだ。


「確かに……土が固くなってますね。これって、水分が届きにくくなってる感じですか?」


「そう。このままだと、じわじわと弱っていく」


「根の周りの土をほぐせば、水の通りが良くなるんじゃないですか?」

 

 瑠奈の言葉に、颯汰がぱっと立ち上がった。


「それ、俺やります!」

 

 迷いなく立ち上がった颯汰は、周囲を見渡すと手頃な平たい石と、折れた頑丈な枝を拾い上げた。

 

「……俺も手伝う」

 

 渉もまた、颯汰の隣にしゃがみ込む。

 

「えっ、先輩、手が汚れますよ!」

 

「見てるだけなのも落ち着かない。それに、木の『声』を聴きながらやったほうが、正確に場所がわかるだろ」

 

 渉はそう言うと、古木の幹に片手を添え、もう片方の手で落ちていた枝を握った。

 

「……ここだ。少し奥が詰まってる」

 

「分かりました。そこ、石で少しずつ崩します」

 

 二人は呼吸を合わせ、丁寧に、根を傷つけないよう土をほぐしていく。硬くなった表層を石で削り、枝で隙間を作り、最後は指先で優しく土を寄せる。その連携は、まるで以前からそうしてきたかのようにスムーズだった。


「……颯汰、上手いな」

 

「農家の息子ですから。……でも、先輩が場所を教えてくれるから、迷わなくて済みます」

 

 渉の言葉に、颯汰は少し照れたように笑った。


 瑠奈はスマホで手早く調べながら、「ナラって乾燥に弱いんですね。土をほぐすだけでもかなり違うみたいですよ」と言った。


 フウは古木の幹に両手を当て、柔らかな精気をゆっくりと流し込んでいた。


「大丈夫。ちゃんと届いてるよ」


 渉は木に手を当てたまま、波動が少しずつ落ち着いていくのを感じていた。


(……あたたかい……)


 颯汰が土をほぐし終え、「どうですか?」と渉を見た。


「……うん。さっきより声が穏やかになった」


 瑠奈が「声……」と小さく呟き、古木をじっと見つめた。その瞳に、純粋な好奇心が宿っていた。


「ふぅ……これで大丈夫だと思う」

 

 渉の言葉に、みんながほっと息をつく。


 颯汰はぐでっと地面に座り込み、土で汚れた手を見つめた。


「……俺、農業は好きなんだよな。植物が育つの見てると、なんか落ち着くし」

 

「だから桃園を継ぐんだろ」

 

「うん。でも……ちゃんとできるか、やっぱり不安で」


 渉は颯汰の隣に腰を下ろした。


「この木も、弱りながらも諦めなかった。助けを求める声が、ちゃんと届いた」


 颯汰は少し驚いたように渉を見て、それから小さく笑った。


「……先輩、たまにいいこと言いますね」

 

「たまにか」

 

「いつもです」


 フウがくすくすと笑い、瑠奈も思わず吹き出した。


 古木は静かに枝を揺らした。風もないのに。まるで、ありがとうと言うように。


 しばらく、誰も何も言わなかった。颯汰はまだ土で汚れた手のまま、満足そうに空を見上げている。瑠奈は古木をスケッチでもするように、じっと眺めていた。フウは渉の肩に戻り、小さな声で「よかったね」とだけ言った。


「ああ」と渉は答えた。古木のことなのか、颯汰のことなのか、自分でもよくわからなかった。


 そして一同は、山道を戻り始めた。



間話3 了

次週は、いよいよ新章へ!


「第六章 砂漠の記憶」をお送りいたします。

集音路渉の前世、そこで出会うのは……。


来週金曜日公開!どうぞお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ