エピローグ 残響
◆渉視点◆
――ひどく遠い場所から、誰かの声が響いていた。
(……誰……?)
音が波のように寄せては返し、掴もうとすると指の間からすり抜けていく。
意識の輪郭は溶け、ただ暗闇だけが、じっとりと額に貼りついて離れない。
呼吸が苦しい。
胸の奥に、冷たくて重い石が置かれているみたいだ。
それでも――ぼんやりとした感覚の底に、ひとつだけ確かなものがあった。
(誰かが……泣いてる……?)
その悲しみの気配を追おうとした瞬間、暗闇の奥で、白銀の光が爆ぜた。
それは言葉ではなく、悠久の時を内包する巨大な記憶。
(これは……僕の……?)
凍てついた白銀の玉座。
世界を照らすほどに巨大な、命の樹。
そして、その根元で「誰か」を抱きしめる自分。
指先から伝わる喜びと、それを上回る底なしの悲しみ。そして、世界そのものに拒絶されたかのような、途方もない孤独感。
『――どうか、永遠の安らかな眠りを……』
別れを告げる静かな声が、胸の核心を鋭く突き刺した。
その言葉と共に、身体の中心が白銀の波動で焼き尽くされるような劇痛に襲われる。
記憶が、砕ける。
痛みに喘ぎながら、渉は悟った。
これは自分の経験ではない。遠い昔に交わされた、誰かの「願い」の残響なのだと。
その直後。
不意に、閉ざされた視界に強烈な光が差し込んだ。
まぶしくて、反射的に心臓が跳ねる。
光の向こう側に、誰かの温かな体温を感じた気がした。
第六章へ続く
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第五章は、これにて終わりです。
第六章の前に、次週は間話をお送ります。
来週金曜日に公開いたします。
どうぞお楽しみに!




