感情の道標―9
――ガラリ。
扉の開く音と共に、赤石と青野、そして黄地が教室へと戻ってきた。
「お。やっぱり戻ってたな。もしかしたらどこか遠くに逃げたかとも思ったが」
「おまえら……まだ終業式終わってないんじゃ?」
三人は俺と白崎の席の前に並ぶようにして立ち止まった。
「ばーか。あんたがあんな大声で出て行ったから、代わりにあたしらがジロジロ見られて居てもたってもいられなかったんじゃん…………でもま、あんたのおかげでスカッとしたのは間違いないけどね」
ウインクをしてニッコリと笑って見せる青野。この三人にもやはり普通科の連中のぼやきが聞こえていたようで、三人の俺に向ける視線はどれも好意的なものだった。
「フフッ。普通科の人らの動揺した顔を思い出すだけで笑えてきますね」
「おまえはいつも笑ってんじゃねぇか…………ぷっははははは!」
白崎含め、特進クラスの全員の表情が笑いで満たされていた。転科してきた時には予想もしていなかった今のこの状況を眺め、更に笑いがこみ上げてくる。
「もう少しで俺があいつらに鉄拳制裁を食らわせてやろうか、なんて考えていたんだが、どうやら杞憂だったようだ。なかなかにかっこよかったぞ」
赤石が悪友のように肩を組んできた。時間が経つに連れ、こいつはどんどんフランクな人柄になっているような気がする。
「うっせ。おめーにかっこいいとか言われても嬉しかねぇよ」
「かっこよかった」
ぼそっと呟いた白崎の声は何を言っていたのかよく聞き取れなかった。そんな俺の心を読んだのか、白崎はもう一度同じ言葉を繰り返した。
「かっこよかったよ。黒屋」
相変わらずの無表情ではあった。しかし、微かに頬をピンク色に染めた白崎の顔は、まるで初対面の人間のようであり、俺の顔も思いがけない緊張で熱くなっていた。
「お、おう……って、なんだよ、ジロジロ見てくんじゃねぇ!」
黄地はもちろん、他二人も同じようなにやけ顔で俺を見ていた。そんな腹の立つ表情の三人に「別に俺はなんも感じてねぇよ!」と弁明したのだが、三人のにやけ顔は当分の間元の顔には戻らないでいた。
パタッパタッパタッ――ダンッ!
激しくスリッパを地面にたたきつける音。その音のした方向に我らが担任の阪無が立っていた。
「あ、あなたたち…………」
あ、やべぇ――額に青筋を浮かべている阪無を見て、他の四人にも焦りの表情が見て取れる。阪無は息を大きく吸い込み、緊張の高まった教室に勢いよく吐き出した。
「どうせなら、私も連れて行きなさぁーいっ!」
「…………はぁ」
この先生が俺たちの味方でよかったと、心の底から安堵した。




