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第二十九話 龍と教義

前回の流れで、教義に軽く深入り(なんのこっちゃ?)してしまいます。ミステルが、はじめてもと教会関係者らしいところを見せてくれたり。

「で、突然何ですか? わたしにはそのバカ女と話すことなどなにもないのですが?」


 ミステルは本当に不機嫌そうな顔で吐き捨てるようにそう言った。ぼくの後ろでは、コンスタンスがピクッと身体をこわばらせる気配がした。




 コンスタンスとの話が教会の教義の話に入りこんでしまい(というか、ぼくが自分でそっちに持って行ってしまったのだが)、ぼくはミステルの助力を仰ぐことにしたわけだが、これが結構しんどかった。夕食後のアンネロッテのくつろぎタイムを、そのそばでたっぷり彼女を心で愛でながら過ごすつもりだったミステルは、当然ながらぼくの頼みをバッサリと斬り捨てた。そのとりつく島のなさったら、準備が整った死刑執行人に執行を待ってくれるよう頼む方がまだ可能性がありそうなものだったが、アンネロッテのとりなしで、とりあえず話だけは聞いてくれることになったのである。




「ちょっと教会の教義のことで確かめたいことがあってさ」


「それならそのバカ女に聞けばすむことでは? その女から教義を取ったら、それこそその腹立たしいほどバカでかい胸くらいしか残りませんよ?」


 どうやら、ミステルはことさらにコンスタンスのスイカがお気に召さないようだ。


「いや、それだと話し合いにならないじゃない? ぼくは教会の教義なんてこれっぽっちも知らないんだもの。『こうなんだ』といわれちゃったら反論のしようがないんだ。で、ミステルにそのあたりの助力を願おうと」


 ミステルは大きくひとつため息をつくと、氷のような視線をコンスタンスに向けた。


「どうせ、先日の件でしょう? そのバカ女が龍が神の使徒だと言い張っているとか、そのあたりの話ではないのですか? 確かに教義上は、龍は神を守護し、神の意思を地上に伝える四聖獣のひとつとして数えられていますよ。ただ、それが神が造った天上の存在なのか、地上から神が自分の代理者として選び出したものなのか、神学者の間で長く議論になっていて結論は出ていません……何ですか、アズマさん?」


「いや、本当にもとは教会の中心部にいたんだな、と……」


 だって、回復以外で彼女の聖女らしいところなんかほとんど見ていないし。アンネロッテに粘着しているダメなタイプの人としての側面しか知らないもの。


「話を聞く気がないならサッサと出て行ってください」


「待って、待って。冗談です。さすがミステル様です。続けてください!」


「ったく……。神が自分の代理として自分の意思を人間に伝えるとき、龍は地上に降り立って厳選された正しきものに語りかける、というのが、龍に関わる教義のおおざっぱな内容です」


「その厳選された正しきもの、というのが……」


「聖女です。心正しく清らかな乙女にしか龍はその心を開かない、と言われています」


 心正しく清らか……。誰のことだ? 


「アズマさん、なにか言いたいことがあるのですか?」


「いや、ありません! ミステルがすごい人だったんだな、って思っただけです! でも、ミステルが知っている範囲で、聖女が龍と直接接触した例ってあるの? 聖女になる教育を受ける過程で、そういう話も出たんじゃない?」


「龍が直接人間の前に姿をあらわすのは、世界に真の危機が迫った時だけだと言われています。それ以外の場合は、教主に乗り移って、教主経由で意思を伝えるとか」


「えーと、それって……」


「もともとの教義にはそのような教えはありません。龍に関わる教義は何度か修正されていますが、たぶん、どこかの段階で聖女を自分のお手つきにしたい教主がねじ込んだ屁理屈でしょうね。実際、過去に何人かの聖女が『清い心を失った』という理由で突然教会を追放された例がありますが、教主がその女に飽きたんでしょう」


 うわ、ストレートに表現したな。でも、これはおそらく正解だろう。


「聖女様、そのおっしゃり方はいくら聖女様でも見過ごすことは出来ません! 神のご意思を正しく受けとることが出来ないのなら、その人は聖女の資格はありません。教会を離れていただくのが当たり前ではありませんか!」


 ミステルがコンスタンスを見る目が、氷からドライアイスになった。


「わたしは聖女ではないと何度言ったらわかるのですか? いまのわたしはアンネロッテ様のひとりの侍女です。教義を後生大事に守り続ける必要も義務も責任もありません。そして、あなたにそんなことを言われる筋合いもありません」


「しかし……」




 激しくも非生産的な言い合いにミステルとコンスタンスが突入しそうになったところで、ぼくは割ってはいることにした。よけいな時間は食いたくなかったし、少し気になることもあった。


「まあまあ、その話はまた後日ということで。でさ、ミステル、その教主と龍の関係の話が教義に組み込まれたのはいつごろの話なわけ?」


「百年ほど前ですね。ダーマト様に勇者一行は敗れましたが、その中でひとりの僧侶がなんとか生きのびてピルシェに戻ってきました。その僧侶は、目的は果たせなかったものの、人間の刃を魔王に届かせる直前まで持っていった功績とやらで出世し、のちに教主になっています。その頃だったはずです」


 うわお。


「当然、彼は龍と戦った中にもいたわけだよね?」


「もちろん」


 つまりこれは、教義とやらの全くダメダメな部分なわけだ。勇者がダーマト様に倒される中、どうやってその生臭なまぐさ僧侶が生きのびたかはわからない。だが、彼はダーマト様との戦いに先立つ龍との戦いの中で、念を通した龍の言葉を聞いたのだろう。それを、彼は自分の欲望のために利用した。そして、「神の使徒」というトラップを潜ませて、色眼鏡を通さずに人間が龍を見ることを予防したわけだ。そのあたりは、ずいぶん頭の回るヤツだったとは思う。つまり、コンスタンスはみごとにその僧侶の思惑にはまってしまったということになる。


「それ以前は龍はどういう存在だったかわかる?」


「聖獣とはされていました。ただ、神を守護するだけの存在だったはずです。神は自分の意思を自分で伝えるとされていたはずですし」


「そのあたりを除いて、教義の中で龍が神の使徒でなければ成り立たない部分って?」


「使徒自体が神にハクをつけるためにあるような存在ですからね。極端な話、龍に関する記述を全部無視しても、新しい矛盾なんてほとんど出てこないでしょう」


 龍がいようがいまいが矛盾はあると言っているようなものだが、それはいいとしよう。だが、龍がどういう存在かは論争があって、そのあたりをすべて棚上げしても教義に大きな影響はないわけだ。


 ぼくとミステルは、ほとんど同時にコンスタンスを見た。顔色を蒼白にした彼女は、ただ立ち尽くしていた。


お読みいただいた方へ。心からの感謝を!

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