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第二十七話 ドラゴンパピーと枢機卿さま

コンスタンスが真っ白になったまま騒動の中心になります。

 姿をあらわしたのは、真っ白で、前後から若龍をギュッと押し縮めたようにチンマリした、なんとも和ませパワーにあふれた小さいドラゴンだった。


(こ、これはあれか? いわゆるドラゴンパピーというヤツか?)


 遠目で見ているだけだが、これは反則級に可愛い。サイズが小さいだけではなく、微妙にサイズ縮小の比率が均等でないのがポイントだ。母龍や若龍の優雅な美しさが全く再現されていない。パンダの子供が、妙に手足が短くて動きがぎこちなく、それが見ているこちらの心をざわつかせるのと同じである。美少女キャラの二頭身デフォルメと言えばいいだろうか。顔も中途半端に猛々しく、まるで小さい子供がせいいいっぱい虚勢を張っているように見える。




<それはあなたの子供?>


 アンネロッテが思念で若龍に尋ねると、若龍の表情が一段階優しくなったように見えた。


<ええ、一年前に初めて卵を産んだの。半年くらい前に生まれたのよ>


<可愛い子ね。女の子?>


<そう。だけど、ちょっとヤンチャなの。ちょっと目を離すとすぐにあっちこっち動き回っちゃうのよ>


<大変ね。でもあなたに似た美人になりそう>


<ありがとう。そう言ってもらってうれしい>


 ガールズトークと表現するには違和感があるが、女の子同士のなんとも和む会話だ。母龍も「二人」を目を細めてみている。




 そのとき、ドラゴンパピーが突然身震いをすると、若龍の頭から落ちた。


「あっっ!」


 ぼくはつい声に出してしまったが、龍たちを含めてその場のみなが凍りついた。パピーが落ちてくる様子がスローモーションに見える。


 突然、落下していたパピーが羽根を必死に動かし始めた。すると、落下速度が急速に弱まり、じきにパピーは必死に羽ばたきながら空中に静止した。成龍の羽ばたきは優雅でゆっくりしているが、パピーの羽ばたきはせわしなくぎこちなく、そして和む。


<あなた、まだ飛べなかったはず……>


 若龍の思念も驚きの響きを帯びている。どうやら、めでたいパピーの初飛行のようだ。


 すると、制止していたパピーが、ぎこちない羽ばたきのままぼくの方にやってきた。これは、勇者にドラゴンの友ができるイベントだったりするかもしれない。ぼくは、両手を広げてパピーを受け止めようと待ち構えた。


 パピーはぼくのところまでやってきて……横を通り過ぎた。両手を広げた姿勢のまま目でパピーを追いかけると、パピーはコンスタンスのところまで飛んでいく。そして、いきなり彼女の胸元のスイカに向かってダイブし、いちど弾んだあとで彼女に抱きついて「キューッ」とひと声鳴いた。この一連の展開の中で、コンスタンスは終始硬直して全く身動きをしない。




 コンスタンスは明らかに驚愕し、動揺している。だが、彼女以外のこの場の全員が彼女以上に驚いていた。この中でただ一人、脳内での会話に参加できなかったコンスタンスのもとに、飛べなかったはずのパピーがぎこちなく羽ばたきながらやってきて、スイカを堪能しながら甘えているのだ。女の子だというのに……いや、それはこの際関係ない。それとも、異種の女の子をして引きつけてしまうくらい、コンスタンスのスイカは超常的な破壊力を持っているのだろうか?


「驚きましたね。ドラゴンの子供は、自分を慈しんでくれる存在を本能で見つけ出すといわれていますが……」


 最初に動揺から立ち直ったアンネロッテが、思わず、という感じで呟いた。


<わたしも驚いています。わたしたちと思いを通じることが出来なかったその方に、人見知りの激しいこの子が甘えるなんて>


 母龍の思念にも気持ちの動揺が感じられる。出会ってから初めての彼女の動揺だ。


 ぼくは、両手を広げたままだったことに気づき、慌てて手を下ろした。そして、一貫してコンスタンスを避けているミステルを見ると、ポカンと口をあけたまま固まっている。彼女に対してミステルがいつも向ける刺々しさも感じられないほどだ。




 その後、パピーは母龍、若龍に交互に説得されて、ようやくコンスタンスから離れて若龍の頭上に戻った。説得とは言ったが、これは思念での意思疎通ではなく、龍族としてのコミュニケーションだったため、しばしの間、森に龍の鳴き声が響き続けた。そして、おそらくはその声に属性として備わっているスタン効果で、ぼくのメンタルのスタミナは枯渇寸前となった。


<また、その人に会わせてあげる、と言って、ようやく聞き分けてくれたわ。連れてこなければ、ひとりでも来てしまいそうな感じ>


 若龍は、ため息交じり、という感じの思念を伝えてきた。


<この子は、まだわたしたちのように、種族の違うあなたたちと話すことは出来ません。次に連れてくるときまでに、わたしとこの子で話し方をしっかり教えておきます。ですから、どうかその方にも、次に会うときまでにわたしたちと話せるようになってくれるよう、伝えてください>


 母龍はすでに動揺から立ち直って、落ちついた響きの思念を伝えながら、ぼくたちの方を見た。アンネロッテとミステルは、ほとんど同時にぼくの方を見た。


「もしかして、ぼくにそれをやれと?」


「あなた以外にだれがやるというのです?」


 アンネロッテの声のトーンは、わかりきったことを聞くな、と言っている。ミステルを見ると、その目は「自分は一切協力しない」と言っている。そして、龍たちに対して「それはできない」と伝えるだけの度胸は、すでにメンタルポイントがゼロに近づいているぼくにはない。


<わかりました>


 その一言を伝えると、龍たちは満足したようにひと声鳴いて、飛び去っていった。




「驚きましたね」


 城への道を戻りながら、アンネロッテが言った。いつもの、王女らしいプライドに満ちたいつもの声のトーンではない。ちなみに、コンスタンスは呆けた状態のまま、制約に引っ張られてボクのあとをついてきている。


「まさかそのバカ女に……」


 ミステルの声は、どこか口惜しそうだ。ひょっとして、パピーに甘えてほしかったんだろうか?


「あの子がぼくらと話が出来るようになるまで、どのくらいかかるんですか?」


「子供といえど、ドラゴンは高い知性を持っています。あのふたりが本気で教えこめば、一、二ヶ月で習得できるでしょう。しっかり頼みますよ。わたしに恥をかかせないでください」


 コンスタンスの「教育」の失敗がなぜアンネロッテの恥になるのかはわからないが、この期に及んでぼくに彼女に反駁はんばくする言葉はない。やるしかないだろう。


 ただ、パピーが本当に本能でコンスタンスを、自分を慈しんでくれる存在だと感じたのであれば、やはりコンスタンスはただの狂信者なんかではない。根っこは優しい少女なのだ。その推測は、ぼくを少し元気づけた。彼女とコミュニケーションを取る努力、もう少し頑張れそうな気がする。


お読みいただいた方へ。心からの感謝を!


ドラゴンの子供、ラノベ的、マンガ的、アニメ的には可愛いはずですが、実際に見たらどうなんでしょう? 子供は常に可愛いものですが、可愛いと思っている余裕があるかどうかがポイントでしょうね。

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