第二十六話 聞こえぬ理由(わけ)
再び朝投稿に戻ります。
今回、昔のアンネロッテを龍が少し語ってくれます。もうちょっと詳しく書きたかったところですが、止まらなくなりそうなので、また違う機会に。
<は、はじめまして。ヨシカワ・アズマです>
ぼくは必死で伝えたい内容を頭に思い浮かべてみた。考えたことをすぐ口に出すクセのあるぼくには、意外とハードルが高い。
<アズマと呼べばよいですか? あなたもこちらの世界で戸惑うことも多いでしょうが、アンネロッテをよろしくお願いしますね>
<は、はい。しかし、よろしくも何も、アンネロッテ……様はぼくの力など必要ないような気がしていますが>
<この子は強がりで、進んで苦労を背負ってしまう子ですから、少しでもそれを肩代わりしてあげてください>
<およしください!>
みると、アンネロッテが頬を赤らめている。
<なにかあったのですね?>
興味深い話がきけるフラグだったのは明らかなので、ぼくはすかさず突っこんでみた。絶対に聞き逃せないぞ。
<百年ほど前、この森に勇者と名のる人間の一団が現れました。そのものたちは、わたしたちを魔族に操られた魔王城の番人であると言って襲いかかってきたのです>
ありゃ? 百年前の勇者一行というと、あれか? 先日森で遭遇したゴブリンもどきの元騎士のパーティーか?
<わたしだけであればなんの問題もなかったのですが、そのときはたまたま娘と一緒だったのです。彼らは娘を狙って攻撃を仕掛けてきました。わたしが娘をかばいきれなくなった瞬間、アンネロッテが突然現れて、娘を転移させたのです。娘は無傷だったのですが、アンネロッテがひどいケガを負ってしまいました>
なんと、ものすごい美談ではないか。
<も、もうおやめ下さい。昔の話です>
おお、アンネロッテが照れてる照れてる。あまり見られない光景だぞ。
<これまで、この森にあのときの一行の気配が残っていたので、娘が近づこうとしなかったのです。それが、数日前に突然気配が消えたので、改めてあなたにお礼を、と思ってやってきたのですよ。娘も一緒に来ています>
そう告げた龍が上空を見上げると、目の前の龍よりも一回り小さい、白く美しい龍が舞い降りてきた。しかし、気配が消えたっていうのは、元騎士の消滅だよな、やっぱり?
<アンネロッテ、久しぶり! 会えて嬉しい! あのときは本当にありがとう。わたしのためにあんなケガまで……>
より若々しい響きの思念が頭に飛び込んできた。
<わたしはこうして元気にしているのですから、気にしないで下さい。あなたも元気そうで、わたしも嬉しく思います>
「アズマ」
アンネロッテと若龍が旧交を温め合っているシーンを、ぼくがほっこりしながら眺めていると、うしろからコンスタンスが呼んだ。
「どしたの? コンスタンスもアンネロッテのちょっといい話に感動したの?」
ぼくは、そうだったらいいな、という思いを込めて言ったのだが、コンスタンスから返ってきた答は想定外だった。
「みな、黙って龍を見ているだけで、何をしようとしているのですか?」
「え、えっと、コンスタンス? きみには何も聞こえてない?」
「聞こえるも何も、みな黙って見合っているだけではないですか」
「ちょっと待って……」
いったいどういうことだ? 確認の必要があるな。
<あの、質問いいですか?>」
ぼくは若龍とアンネロッテの会話に割りこんだ。二頭の龍とアンネロッテがいっせいにこちらを見て、少し縮み上がったがガマンした。どこが縮み上がったかは言わない。
<こちらの女の子、コンスタンスがみなさんの思念が聞こえないそうなんです。なにが原因か、わかるでしょうか?>
瞬間、音だけではなく思念も含めて完全な沈黙が場を支配し、それを母龍が破った。
<あまりそのような例は承知していませんが、わたしたちの存在を正しく認識していないものにはわたしたちの思いの声が届かない、という話を聞いたことがあります>
<正しく認識していない、とはどういうことでしょう?>
<大した話ではありませんよ。わたしたち龍は、龍という存在以上でも以下でもありません。わたしたちの存在を正面から受け止めていれば、なんの問題もないはずなのです>
ああなるほど。あれだ。「神の使徒」とかいうヤツだ。要するに、コンスタンスは目の前の龍を、龍という存在そのままではなく、「神の使徒」とかいう存在に置き換えて認識してしまっている。そのため、龍の意思が届かないのだ。
<ありがとうございました。話の邪魔をしてすみません>
ぼくは龍たちの最大限の礼を尽くし、そしてコンスタンスと向き合った。
「コンスタンス、ぼくたちはたしかに声を出していない。だけど、アンネロッテもぼくも、そして元聖女様も頭の中で龍と会話できているんだ。だけど、きみには出来ない。なんでかわかるかい?」
「わかるも何も、そんなことが出来るはずないじゃありませんの」
「きみがどう思うかは関係なしに、出来ているものは出来ているんだ。ぼくはあの大きな龍とアンネロッテの間の因縁をついさっき聞いたよ。龍から、ね」
コンスタンスは黙り込んだ。反論のネタを探しているのかもしれない。
「ぼくに聞こえるんだから、そんなに大きな障害はない。ただ、目の前の存在に敬意を払って、見えるものそのままを受けとめればいいだけなんだよ」
「意味がわかりませんわ」
「きみは龍を『神の使徒』だと言ったね? でも、龍は自分の存在に誇りを持っている。そう呼ぶことで、きみたちは龍の誇りを傷つけているんだ。だからその声も聞こえない」
「でも……でもっ、わたしたちは敬意を込めてそう呼んで……」
「それはコンスタンスたちの都合。龍はなにものにも従属しない。だけど、使徒なんて言葉にいくら敬意を込めても、それは神に従属する存在だと言っているんだ。龍たちに対する侮辱だよ。だから龍たちも、きみとの会話を無意識に拒んでいるんだろうね」
コンスタンスはうつむいた。今度は本当に言うべき言葉を失ったらしい。結果論だけど、これは彼女の意識変革に効果があったのではなかろうか。
「本当にアズマは口だけはうまいですね。勇者などやらせておくのがもったいないくらいです」
アンネロッテがとんでもない突っ込みをしてくれた。しかも思念でだ。「口だけは」って、自覚があるからよけい傷ついてしまう。それに、「勇者」に対する低評価にビックリだ。
「詐欺師も裸足で逃げ出しそうです。微妙に話を盛ったり、聞いてもいないことをさも動かしがたい事実のように説明したり、しかもふだんよりもよっぽど舌が回ると来ています。犯罪者にならないよう気をつけてください」
ミステルのこの指摘は不本意だ。そりゃ、龍についてのラノベ的知識を多少は盛り込んださ。でも、方向は間違っていないと思う。そのことを二人に主張しようとしたそのとき、若龍の頭の上から、ミニチュアサイズの龍がひょっこり姿をあらわした。
「あ、あれは……!」
お読みいただいた方へ。本当にありがとうございます。
コンスタンスも、ショック療法ばかりでは壊れてしまうかも……。




