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第二十三話 葬送

さて、だれの「葬送」でありましょうか?

「ピノ! 少しの間、そいつを抑えてて!」


「了解なのです!」


 フランカさんは素早い詠唱でピノに魔法をかける。身体強化か、運動能力強化か、その両方か。ピノが先ほどよりもさらに素早い動きで、騎士のなれの果てを牽制する。ダメージを与える攻撃ではなく、位置どりによってパンチとキックを使い分けながら、とにかくヒットアンドアウェイを繰り返す。表情など読めるはずもない相手から、徐々にいらだちに似たオーラを感じるようになってきた。 




「終わりましたわ!」


 目を閉じて剣に手をかざしたまま詠唱を続けていたコンスタンスが小さく叫ぶ。


「待ってました!」


「多少は聖属性の力が付加されておりますが、剣の格が上がったわけではありませんので、過信なさいませんよう!」


「ありがとう、コンスタンス! ぼくのうしろから離れないで!」


 とにかく感謝を伝え、ぼくは剣を受け取って相手に向き合う。やらなきゃいけないことは、相手の動きを止めること。そして、相手の注意を自分に引きつけることだ。そして、ピノの遊撃とフランカさんの魔法のための間を作る。ピノとフランカさんの二人だけではジリ貧になるしかなかったこちらが、初めて攻めに回れる。


 本当は、この段階でもまだ、コンスタンスの行動を疑うべきなのかもしれない。ここで逃げずに踏みとどまることで、犠牲は逆にふえるのかもしれない。だが、ここでコンスタンスを信じなければ、歩み寄る機会は二度と訪れない気がした。




「ウォオオオオオーッ!」


 ぼくは一直線に斬り込んでいった。ガシャッと大きな音とともに剣がぶつかり合う。先ほどのような異音はしない。じゅうぶんに強化されているようだ。これならば、力技で相手の気をぼくに引きつけることは出来そうだ。




 何度か剣を打ち合わせ、ヤツの気が完全にぼくの方に向いたところで、それを感じとったピノが少し距離をとって、力の乗った蹴りをヤツの首筋にたたき込む。ヤツは大きくグラついた。


 どうやら、森での長い時間はヤツの感覚を鈍らせたようだ。勇者に同行するほどの騎士が、ぼく程度の敵を相手にしながらスキを作るはずはない。「スキを突く」という発想のない戦いしか、森の中ではしてこなかったのだろう。だとすれば、ぼくたちはこのパターンを繰り返せばいい。そうすれば、決め手はこちらにある。


「離れてください!」


 きた。ピノはうしろに飛び退き、ぼくはコンスタンスに飛びかかるようにして一緒に地面に伏せる。


「ギャアアアアッ!」


 地の底から響き渡るような叫び声に振り返ると、ヤツが火を吹いていた。いや、身体の内側から燃やされていた。そして、口を押さえて倒れ込むとそのまま日をちろちろと見せながらのたうち回り、やがて動きを止めた。


「フ、フランカさん、いったい何を?」


 少なくとも、ふつうに火の玉をぶつけるとか、そういうものではないはずだ。最後までヤツは火を吹いていた。


「身体の表面はこの百年でずいぶんと強化されているはずですから、内側から燃やそうと。さいわい、あの男はバカみたいに口を開けっ放しでしたので、喉の奥に圧縮された火種を作って魔力で破裂させてみました。うまくいったようですね」


「うまくいった」とか、自信はなかったかのような言いかただが、そのアイデアといい、精度といい、まさに王族の魔法の師というにふさわしい。おそらく、アルテミス師匠も同様のことはやってのけるのだろうが、ひょっとしてあの人は、ぼくにそのレベルのことを期待していたりしないだろうな? 絶対に無理だから!




「ど、どこに手を置いているのです! 早くどいてくださいな!」


 背後からコンスタンスの金切り声が聞こえてきた。そう言われても、いまのぼくは、さきほど背後で起こったことを確認するために、片手を地面について振り返っているという姿勢のままだ。どくもなにも……そういえば、地面が妙に柔らかくあたたかい。ニギニギしてみると、適度な弾力が返ってきた。


「だから早く!」


 再びコンスタンスが叫び声を上げる。このときには、もうなにが起こっているか、ぼくにもうすうす……いや、はっきりとわかっている。スイカだ。スイカに違いない。しかし、ここで慌ててはいけない。慌てて飛び退いて謝ったりしては、なめられてしまう。


 ぼくはもういちどニギニギすると、ゆっくりと立ち上がった。そして、わざとらしくコンスタンスに謝ってみせるために振り向いた。そこには、もちろんコンスタンスがいて、顔を真っ赤にしてブルブル震えていたが、フランカさんとピノも並んでジッとこちらを見ていた。


「最低ですね、アズマさん」


「アズマさん、スケベなんだぁ。ロレッタさんに教えてあげなくちゃ! 喜ぶぞぉ!」


「え、ちょ、ちょっと! 誤解だ! これはたまたま……! それに、ロレッタさんが喜ぶって、なに!?」


「ロレッタさんは男の精が大好物なのです。いちど取り込み始めると、歯止めがきかなくなって何人か干物のようにしてしまったので、以降は自制しているようですが……」


 こわっ! ファンタジー的にはサキュバスみたいな感じ? 小説やゲームで出てくる限りはエロ担当の名バイプレイヤーだが、自分が当事者になると、結末が恐ろしくも恥ずかしくて耐えられない。いかなる犠牲を払っても、ピノに口止めをしておこう。




「アズマさん、少しの間、魔法を使わせてください」


 立ち上がったコンスタンスが、少し沈んだ声で言った。いきなりの強敵を退けたうわついたムードが少し落ちつく。


「いちおう訊くけど、なんで?」


「聖なる炎で、その方を弔います。もしかつての勇者一行の方であれば、せめて最後は祝福を、と……」


 ああ。落ちついてしまえば、やはり最後まで割り切ることは出来ないよね。教団が送り出した勇者一行のなれの果てを見て心が動かないようなら、それはそれで人として終わっていると言えるだろう。


「わたしがそう推理しただけで、ただの化け物かもしれませんよ?」


 フランカさんがいちおうクギを刺す。本気ではないだろうけど。


「それならそれでもかまいません。わたしが初めてこの手を汚した記憶を、わたしは心にとどめておかなければなりません」


 なんか、急にコンスタンスがまともなことを言いだした。というか、もともとネジが足りないか多すぎたかで歪んじゃってただけで、それ以外はまっとうな感性を持った子なのかもしれない。ぼくは黙って頷いて、コンスタンスの制約を解除した。


 コンスタンスが騎士のなれの果てに向かって手をかざし、なにごとか呟くと、死体は青い炎に包まれた。そばで燃えているにもかかわらず、熱は感じない。ぼくらは自然と、その炎に目を吸い寄せられた。


 炎は徐々に小さくなり、それにつれて、死体は少しずつ光となって消滅していく。そのさまは、たしかに神秘的といっても良かった。このような光景を最後にぼくらに見せる彼は、やはり選ばれた存在だったということなのだろうか? それはわからないし、考えても意味はない。ただ、コンスタンスは身じろぎもせずに光を見送っていた。


 

お読みいただいた方へ。心からの感謝を!


まだまだ、コンスタンスも吹っ切れたとは言えないような気もしますね。

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