第二十一話 齟齬(そご)
アズマとコンスタンスが、初めてじっくり話します。
「なにか用、コンスタンス?」
コンスタンスがぼくを呼んでいるのは、途中から気づいてはいた。おもしろいから放置していたのだが,意外と早くガマンがきかなくなったようだ。
「用がなければ声などかけません! 少しのあいだ、拘束を解除してくださらないかしら?」
「えー、ダメだよ。そのまま逃げたりしちゃうかもしれないし。ぼくの指示でしか魔法を使えないから、たぶん、コンスタンスの戦闘力じゃ、森から出られないよ?」
「そんなことは言われなくても十分わかっています! 少しのあいだ解除してくだされば、すぐに戻って参ります!」
「そう聞いて信じられるような信頼関係って、ぼくたちの間にはないじゃん? だからこそ四六時中一緒にいるわけだし」
コンスタンスの表情は、徐々に切羽詰まった感を増している。これはひょっとして、あれだろうか?
「ひょっとして生理現象? 大丈夫だよ。いつもぼくがそばにいても平気じゃない」
じっさい、ふだんは生理現象も含め、つねに至近距離で生活しているのだ。自分が女の子とこんな距離感で生活する日が来るなど夢にも思わなかったが、それ以外の環境が過酷な上に、相手の好感度がゼロというかマイナス状態なので、甘ったるい感覚を味わうことはできていない。
「部屋のご不浄には扉があります! ここにはなにもないじゃありませんの!」
ついにコンスタンスは声を抑える努力を放棄した。ご不浄と来たか。
コンスタンスが切れたからと言って、そうそう拘束を解除するわけにはいかない。フランカやピノのいる場所から少し離れたところに、ぼくの目をうまく遮る茂みを見つけたので、そこですませてもらうことにした。
「アズマ、あなたは人間でなく魔族の側に立って戦うことに、なんの疑問も持たないのですか?」
彼女が自然に呼ばれなくなるのをボーッと待っていると,木立の向こうからいきなりコンスタンスが話しかけてきた。もう済んだのだろうか?
「いきなりどうしたの?」
「わたくしには理解できないのです。あなたには拘束の術はかけていない、とあの女は言っていました。それが本当なら、なぜあなたは魔族のもとを去らないのですか?」
環境が変わったせいか、妙な問題提起をしてきたものだ。これまでは、話をしても「解放しろ」「自分を帰せ」を繰り返すだけだったんだよね。
「待遇は悪くないし、自分に力がついていくのを感じるのも楽しいことだとわかったし、いまのところ、ここを出ていく理由がないよ」
「理由って、人間であるあなたは、わたしたち人間とともにあるのがあたりまえではないですか?」
「本当にそう思うの?」
「え? どういうことですの?」
「コンスタンスたちが、召喚する勇者が自分たちと同じ人間だと思っているのなら、呼び出す瞬間から拘束の術式なんてかける必要ないんじゃないかな?」
「そ、それは……過去に召喚されたとたんに力まかせに暴れ出し、教会に大きな被害を出した例があって……」
「きみたちが、勇者はきみたちがいう人間ではない、と思ってるからじゃないの?」
「そ、そんなことは……」
「ぼくは、別にきみたちがそう考えても不思議はないと思うけどね。ぼくたちの世界には魔法なんかないし、魔獣なんてどこを探してもいない。魔族と言われる存在もいない。こことは世界の成り立ちが違うんだ。たまたま似たような姿かたちをして、たまたま同じような思考能力を持っていて、同じように『人間』と呼ばれちゃってはいるけど、そもそもは全然違う存在なんじゃないの?」
まあ、「人間」という呼び方が共通しているのは、目に見えない大きな力の都合なんだろうけど。
「でも、世界が違ってもそれだけの共通点があるのですから、それはまさに、『人間』という存在をお作りになった神の思し召しなのでは?」
とりあえずそんな存在はいない。いるのは管理者だけだが、それをここでいくら言っても無意味だろう。ただ、共通点を言うのなら、アンネロッテやアンドロメダ師匠たちとぼくだって、コンスタンスたちより「ほんの少し」共通点が少ないだけだ。
「それはきみたちが考える理屈だよ。ぼく自身は、自分がこの世界での人間でも魔族でもない、異質な存在だと思う。それに、コンスタンスが使う聖魔法は、普通の人には使えないんだろ? それをきみたちは、『普通とは違う特別な人間』といってるけど、単純にきみだって『人間じゃない』のかもしれないよ?」
「無礼なことをいわないでくださいっ! 闇に落ちますよ!」
「無礼ね……まあ、どうでもいいや。異質な存在だからこそ、ここに召喚されてしまったときに特殊な力を授かったりするんじゃないかな? きみたちだって、自分たちとなんら変わらないただの人間にすがるために召喚の儀式をするわけじゃないだろ?」
普通の人間が召喚されてしまった、いや、正確にはそう思われてしまったためにひどい目にあう話はいくつか読んだしな。
「それは……」
「大事な点はさ、ぼくはきみともアンネロッテとも異質な存在で、たまたまこの世界に送りこまれただけだということなんだよ。だから、ぼくは自分の生きたいように生きる。召喚主だからアンネロッテの力になるわけでもないし、『人間だから』コンスタンスたちの味方をすることもしない」
「それでは、今はなぜここにいるのです?」
「きみたちの世界よりもこっちの世界のほうが、ぼくにとっては公平な世界に見える。ぼくは、自分が居心地がいいと感じるところにいる」
「公平、とは?」
「意思のある存在を、その意思を尊重して接するか、道具として扱うか、その違いだよ」
これ以上は、たぶんいまここで話してもムダだ。今日の会話でなにかを感じてくれると、このさき展開も違ってくるかもしれないけど。
「じゃ、戻ろうか」
ぼくは立ち上がった。茂みのむこうに、まだ下半身を出したままのコンスタンスが見えた。引き続いて、フランカとピノがあわてて駆けつけてくるほどの甲高い叫び声が、あたりに響き渡った。彼女からぼくが受けた攻撃で、もっとも破壊力の大きな一撃だったかもしれない。
お読みいただいた方へ。心からの感謝を!
じっくり話しましたが、かみ合いませんね~。どうなっていくのでしょう?




