第二十話 森へ
初めて行動をともにするキャラとの道行きです。どういう展開になるか、作者も楽しみです。
「アズマさんは少しは強くなったのですか?」
森への道を歩いていると、ピノがニコニコしながら尋ねてくる。こうやって改めて見ると、小学校の高学年か、中学に入ったばかりの女の子、という感じだ。美少女ではあるのだが、多分にロリが入っている。そのあたり、いちおうぼくの攻略対象外なので、わりと落ちついて話ができる。
「頑張ってはいるんだけどね。師匠たちがちょっと気合いを入れると、もうボロきれのようにたたきのめされちゃうよ」
「たまにアンドロメダさんとは、拳闘の真似事したりしますけど、勝ったり負けたり半々くらいですよ。きっと、武器を持つとものすごく強くなるんでしょうねぇ」
子供子供したピノ相手では、きっとアンドロメダ師匠も本気を出せないんだろうな。脳のすみずみまで筋肉だと思っていた師匠だが、やはり大人だ。
「そうだ、回復薬が必要なら、いつでも言ってくださいね! たっぷりありますから! いまもほら、ちゃんと準備してます!」
彼女は満面の笑みを浮かべながら、うしろに背負ったカバンを開けてみせる。液体が入っているとおぼしき器が何本か。危険物だ。ぜひとも、ハザードシンボルをつけておいて欲しい。そう、あの羽根が三つのやつだ。
「そういえば、ピノは戦うとき、武器はなにを使ってるの? 見たところ、なにも持っていないけど」
まあ、武器があっても、あまり使いこなしそうなイメージはない。武器に振りまわされそうな感じだ。そして、特製の回復薬となれば、これはいわゆる「薬師」なのだろう。コンスタンスの回復が使えなかったときでもなんとかなるように、アンネロッテが気を回してくれたのだろう。
「武器なんて使ったことないです。動きにくくて邪魔なだけですよ」
「そっか。なにかあったらぼくが前に出るから、心配しないでいいよ」
ぼくは胸を叩くようなポーズでピノに言った。
「どう聞いたらそういう結論になるのかしら……」
後ろでコンスタンスがつぶやいたが、意味が不明だ。
森の周辺部をこえて木が密集したエリアに入りかかったとき、おそらくはハグレの魔獣が飛び出してきた。四つ足で、牛が醜くいびつにゆがんだような獣だった。ちょっとひるんだぼくだが、戦わないピノと魔獣の間に身体を入れるべく動いた。
「あぶな……」
すべてを言うことはできなかった。ぼくが動くよりもっと素早い動作で飛び出したピノは、あらゆる動物に共通するであろう、脳を効果的に揺らすポイントに四発ほど正確にパンチをたたき込み、大きなジャンプから動きの止まった魔獣の脳天に肘を打ち下ろしてとどめを刺した。
「え、なに……?」
「アンドロメダさまは、ピノさんは天才だ、とおっしゃってましたよ。武器を持たない戦いなら、ピノさんに勝てるものはそういないだろうと」
聞いてないよ!
「ダンガさんは、彼女に持たせる武器はない、と断言していらっしゃいます。どのような武器も、彼女の戦闘力を下げてしまうそうです。それほどまでに、素手の戦いに理想的な筋肉の質と形をしていると」
「なんですか、その『戦うために生まれてきた』的な存在は!」
「まさにその通りなのだそうです。さきほど彼女も言ってましたけど、作られたものである武器は、生きた武器そのものである彼女の邪魔にしかならないようです」
「そういう意味だったの!?」
ぼくは絶句した。
「そういう意味にしかとれませんでしたわ」
またしてもコンスタンスがつぶやいた。
ときおり出てくる魔獣を、あるときはぼくが、あるときはピノがしとめながら、森の中心部に向かって進んでいたぼくたちは、少し開けたところを見つけて食事を兼ねた休憩を取ることにした。
「そういえば、フランカさんはアンネロッテ様とは長いんですか?」
アンネロッテのそばには、ミステルとフランカさんがいつも控えているわけだが、アンネロッテに惚れ込んでるオーラを出しまくっているミステルに比べ、フランカさんはもっと自然体に感じるのだ。
「長いといえば長いですね。アンネロッテ様が生まれてからずっとおそばに仕えていますから」
「というと何年くらい……すみません、取り消します」
いつも穏やか、というか感情の揺れをほとんど見せないフランカさんが、言いかけたぼくに鋭い視線を飛ばした。魔族の世界でも、やはり女性の年齢の話は御法度らしい。
「そ、それまでは何をしていたのですか?」
「わたしはもともと、アンネロッテ様のお母様であるローズマリーさまの配下でした」
「配下? 侍女とかお側仕えでなく?」
「わたしは……そうですね、アンネロッテ様にとってのアルテミスさんのような立場でした」
「え? というと魔法の指南役とか? フランカさんがそのままアンネロッテ様の魔法指南になればよかったのでは?」
「わたしはあくまで、アンネロッテ様のご成長を助けるようにローズマリー様から命じられていましたから、魔法だけに意識を向けているわけにはいきません。ですので、魔法についてはアルテミスさんにお願いしました」
アルテミス師匠はすごいが、アンネロッテのお母さんの師匠だったフランカさんも、じつは相当なのではないだろうか?
「そうはいっても、アンネロッテ様はなんだかんだで道理をわきまえた人だし、成長を助けるといっても、さほど苦労はなかったんじゃないですか?」
そう水を向けると、フランカさんはクスッと笑った。
「道理をわきまえるようになるまでには、それなりに苦労はあるものです」
アンネロッテにもヤンチャだった時期があるということか。
「アズマさん」
「その苦労話を聞かせてもらうわけにはいきませんか?」
「アズマさん」
「主人の至らなかったエピソードなど、他人に話すものではありません」
至らなかったエピソードがあるということだ。それも、この感じだと、けっこうたくさん。そのうち、なんとか聞き出したいものだ。
「アズマ! 無視するのはやめてください!」
ついにぼくの背後でコンスタンスがぶち切れた。
お読みいただき、どうもありがとうございました。
キレたコンスタンスはなにを言いだすのでしょうか?!




