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万能の大魔導師~エイリア・ファシネイトのトラベルライフ~  作者: 智慧砂猫


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第80話「横から口を挟んでくるな」

 ハイディスが欲しがった魔力。与えれば魔王としての彼女が復活を果たすことだろう。壮大な夢を語った後だ、目の前のものを喉から手が出るほど求めているのは見れば分かった。これがおそらく最初で最後の機会に違いない、と。


「……うーん、どうしよっか」

「吾輩は反対である。こやつは魔王なんだぞ?」


 力を取り戻せば再び世界を支配しようとするかもしれない。ロッソは混血であるため魔界にも居場所がなく、今の穏やかな世界が居心地よく感じていた。だからか、ハイディスに対しての不信感が拭えないままだ。


「今や勇者もテュフォンによって葬られ、弱った魔導師ひとり殺せば残る英雄は回復に特化しているだけだろう! 残された我々も魔王は荷が重すぎる!」


 なんとか分かってもらおうとするも、割って入られたこと自体に不満を覚えていたエイリアは彼をぎろりと睨む。


「うるさいな。ただ付いて回って弱腰だっただけの君が、ここへ来て何様のつもりなんだ。ブリッツとの戦いでフラッドみたいに私を手伝ってくれたか? 私はハイディスを信じると決めたんだ。文句があるなら、ここで決着をつけよう」


 今のエイリアはひどく弱っている。アポフィスの呪いとも言える魔力の捕食によって、大きな瓶に水滴が数粒ほどの量しか残っていない。まともにやり合えばロッソでも殺せてしまうだろう。彼はごくりとつばを飲む。


「……吾輩はレディとて加減はせんぞ」


 魔結晶を背にするエイリアを越えて破壊を優先しようと考える。もしそれでも邪魔をするのなら、そのときは不本意だが殺すしかない、と。魔力を失った最低級の魔物と同レベルのハイディスも相手にはならない。


 だから彼の前にはフラッドが立ちはだかった。


「そこを退きたまえ、レディ。怪我では済まないぞ」

「やかましいのう、貴様は。御託を並べるのが趣味か?」


 頭をガリガリ掻いてうんざりだと眉間にしわを寄せる。


「来ないのならこちらから行くぞ、お山の大将。──ワシの後ろへ一歩も踏み入れると思うなよ。その命、ここで潰えると覚悟せよ」


 何があろうとも決してエイリアを裏切らない。フラッドが自らへ立てた誓いだ。ハイディスが嘘の夢を語り、彼女を殺そうとする……それが真実であっても構わなかった。彼女の見る目を信じていたから。


 なによりロッソがドレイクの混血でディグ山脈の支配者と呼べる強さを持っていても、絶対に勝てる自信もあった。


「と、止めなくていいのか、エイリア!?」

「いいんだよ。分かり合えないのなら叩き潰すだけだ」


 エイリアは魔結晶の傍に寄り、少ない魔力で結界を張る。


「英雄とは偉業の名に過ぎないのさ、ハイディス。私たちは〝善人〟ではなく人類の代表者として先頭に立っていただけの──ただの人間だ。誰もが想像する象徴として生きるつもりはないんだよ」


 研究に没頭し、自分の夢を追いかけるのがエイリアの時間の使い方。英雄と呼ばれようとも変わらない生き方。後ろ指をさされ続け、都合が良いときだけ人々に敬われるうんざりな毎日を送って来た彼女の答えだ。


「必要とあらば殺す。私たちの敵として立つのなら仕方ない」

「……そんな、ここまでは仲間だったのに」


「そうさ。『ここまでは』なんだよ。あれは今、ここで倒さなくちゃならない。でないと君の夢は、ただの夢で終わってしまうから」


 立ちはだかり、敵意を向けられた以上、ここで甘んじる理由はなかった。ひとつ歯痒いとするなら、自分はもう既に戦える状態ではなくフラッドに頼るしかできない点だ。「君ひとりで大丈夫か?」と尋ねると、彼女は無言で親指を立てる。


「任せたよ、フラッド。ロッソは強いが、君なら勝てる」

「ハッ! ワシを誰と心得とるんじゃ、貴様は」


 ギリギリと歯を鳴らし、腰を低く落として四つん這いになって唸り始める。角がいっそう大きくなり、彼女の体から放たれる強烈な魔力と殺気がロッソを威圧した。ひとつ違ったのは、紫紺のオーラではなく赤黒いオーラだったことだ。


 エイリアの傍に座り込んで眺めていたテュフォンが目を見開いて喜ぶ。


「なんとあれはオーガの、それも上位種か! 珍しい!」

「うん? あれってそんな珍しいもんなの?」

「英雄でも知らないことはあるんだな」


 馬鹿にされたような気がしてエイリアがムッとする。テュフォンは指をさして「あれは特殊なオーガだ」と目を細めて笑う。


「通常、オーガでも群れを担う者は紫紺のオーラを纏う〝猛獣化〟を使えるが、赤黒のオーラを纏える〝究極体〟と呼ばれる領域まで達するオーガは一握り……それゆえに上位種と称えられ、その力を持つ者は──オーガの中でも最強クラス。魔王にさえなれる器の持ち主だ」


 フラッドが一歩前に出る。その姿がハッキリと捉えられたのはエイリアとテュフォンだけ。ロッソが彼女を視認したときには、もう手遅れだ。握った拳が直撃し、衝撃が肉体を貫く。部屋全体が震え、張った結界にヒビが入った。


 たった一撃で、たった一瞬で、決着はついた。

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