第57話「自己流、これぞ魔法の扱い方」
フラッドが驚く。エイリアが決闘などと面倒そうなことを挑まれて、真正面から堂々と受けるなど、とても理由が分からなかった。しかし彼女はやる気に満ちている。
「いいだろう、エイリア・ファシネイト。ではついてくるがいい」
ディアトルトに連れられ、エイリアたちは数名の魔導師に囲まれながらまた移動する。次にやってきたのは、魔法院のなかにある広い訓練場だ。魔力のコントロールを覚え、互いに腕を磨き合う、対魔物を想定した戦闘訓練を行う場所だ。
「ルールは魔力制限戦。こちらはふたりの魔導師をお前にぶつけよう」
対面する形で距離を取り、会議に出席していた魔導師──フラッドが見たかぎりそれなりの実力がありそうな──が、前に出る。構図は二対一となる。ディアトルトを含むほかの魔導師たちは、決闘する彼らを包むようにドーム状の結界を張った。
「エイリア、魔力制限戦とはなんじゃ?」
「ああ、この結界のなかでは出力できる魔力の量が決まってるんだよ」
愛用の杖を取り出し、しっかり握りしめる。魔力の高まりは弱く、本来発揮されるべきエイリアの実力の半分も出せていない。にも拘わらず相手はふたりいて、フラッドは心配そうに彼女を見つめた。
「そう暗い顏をしなくていい。本気は出せなくても相手がふたりなのには理由がある。──それは体内に貯蔵されている魔力の保有量だ。彼らが私を相手に魔力を枯渇させないためには早期的な決着が必要だ。ほかに勝てる方法がひとつもないからね」
仮に最も強いディアトルトが出ても結果はそう変わらない。彼らにとってエイリアとは憎き魔導師である以前に、世界を救うに至った大英雄──あるいは怪物だ。
「安心しろ、彼らが私に勝てる確率は万にひとつもないよ。この決闘は茶番だ」
絶対的自信は、ディアトルトの開始宣言からすぐに証明される。
対する魔導師は魔法院内でも実力者で、息の揃ったふたりだ。互いの邪魔をしない属性魔法の連携で隙のない攻撃を出していく。相手がけがをするかどうかなどお構いなしの決闘に、エイリアは結界のそとに立つフラッドへ「見ててね」と言って攻撃に背を向ける。
「さ、英雄の名が伊達ではないことを教えてあげよう」
魔導師たちが放った魔法による炎と氷の連撃は、ただのひとつもエイリアに当たらない。すべてが届く前に、突然ぐいっと方向を曲げ、互いに衝突して消える。
相手に向いたエイリアは杖をくるりと手で回して、にやりとした。
「詠唱なしの魔法の威力はたかが知れてる。さすがにコントロールは正確だけど、私には遠く及ばない。──見せてあげよう、詠唱無しの魔法とはこう扱うんだ」
複数の魔法陣が宙に浮かび上がる。それぞれ属性が異なり、炎、氷、雷の球体が複数飛び出してふたりの魔導師へ同時に襲い掛かる。本来、複数の属性を同時に操ることは至難の業だが、エイリアはそれを軽々とやってみせたうえ、彼らがふたりなら三人分の魔法を、もし三人なら四人分の魔法を使うつもりだった。
「くっ、なんてやつだ! 本当に魔力制限下にあってこれなのか!?」
「我々が防戦を強いられるなんて……たったひとりに……?」
頭上から降り注ぐ属性魔法を魔力で作った壁によって防ぐ。しかし猛攻は続き、今の状況のままでは魔力が枯渇してしまうのはどちらか明白だ。エイリアは涼しい顏をしながら杖を構え、ちらと視線を彼らの足下に落とす。
「君たち、足下がお留守だけど大丈夫かな?──アースクエイク」
「っ……! なめるなよ、エイリア! サンダーストライク!」
地面が揺れ、ひとりが態勢を崩したが、とっさに反応したもうひとりは上手く風の魔法で浮きあがり、降り注ぐ魔法の範囲から出て、一直線に出る雷撃を放つ。この隙を狙っていたとでも言いだしそうなしたり顏をみせた男に、エイリアは一歩も動かず。
「いい夢は見れたか? 君たちの負けだ」
雷撃は彼女を貫く。しかし傷は瞬く間にふさがり、痛みに悶える様子もなく同じ雷撃で返して男の肩を撃ち抜き、彼女は杖を地面に突き立てた。
「ば、ばかな。白魔法は……使えないはずじゃ……!?」
「もちろん使えないよ。これは時空系の魔法だよ」
杖が異空間にしまわれるのに、すうっと消えていく。
「私は白魔法以外のすべての魔法が扱える。当然、自分の時間をすこし巻き戻すくらいわけないのさ。魔力の消耗量は大きいが、今の君たちを相手にするならじゅうぶん使う余地があったからね。……お疲れ様、ひさしぶりに楽しかったよ」




