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万能の大魔導師~エイリア・ファシネイトのトラベルライフ~  作者: 智慧砂猫


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第58話「仲が良いって、こういうことかな」

 決闘の結果はエイリアの圧勝に終わった。さすがに勝てる見込みもないと思ったのか、次なる手段も立てずにディアトルトは終了の宣言をする。あっさりと引き下がったのは、彼女ではなくカレンの顔を立てる意味でもあったのだろう。


「……おぬしの勝利だ、エイリア。好きにするがいい」

「ふん、そりゃどうも。あと、部下のしつけもしっかりね」


 お手上げといったふうに肩を竦めて馬鹿にする。


「魔力制限戦で私に手も足も出ないくせに態度だけはでかいと来てる。こんな連中は使い物にならないってことをよく覚えておきたまえ、いつか君の足を引っ張るぞ」


 くっくっ、と可笑しそうにフラッドの手を引いて立ち去ろうとする。ディアトルトが背中に向かって「覚えていろ」と憎しみを込めて放っても、彼女は堂々「好きにしなよ、いつでも返り討ちにしてやるから」そう返した。


「のう、エイリア。これからどうするんじゃ。帰るのか?」

「まずは国王陛下にご挨拶だよ。誓約書をもらうんだ」

「……せいやく、しょ? とはどういうものじゃ」


「まあ、約束の証明みたいなのだね。『私はあなたと誓いを交わしました』っていう。それがあれば言った言わないで揉めることもないし、国王陛下の直筆であれば、ほかの誰もが文句のつけようもなくなる。いちばん偉いひとだから」


 納得してフラッドはうんうん頷き、小さなからだでテクテクと一生懸命エイリアの歩幅に合わせて歩く。


「大丈夫、おんぶしてあげようか?」


 申し訳なく思って提案すると彼女はおおいに喜んだ。


「ぬっ、それは素晴らしい! ではさっそく」


 ひょいと背中に飛び乗ってぶら下がり、エイリアが後ろ手に彼女のからだを支えた。「懐かしいのう、実に温かい」と心から嬉しそうに優しい声をした。


「なんだよ、私が親みたいに思ったりした?」

「うむ……もう死んでからどれほど経つか分からぬ」


 フラッドの親は同族との争いで死んだ。遠い昔、おぼろげにしかない記憶ではあったが、その温かな背中の感触はいまだに覚えているという。


「……なんかごめん、聞いて悪かったね」

「良い! 童心に帰った気持ちじゃ!」


 進め進めと背中ではしゃぐ。気分は馬を駆る勇猛な戦士だ。


「はは、元気だな。だけど、適当なところで降りてくれよ?」

「むむっ。貴様はそんなにやわではなかろう」

「それもそうなんだけどさ。王宮までこれで行くのは恥ずかしい」

「ふはっ! それもそうだのう~!」


 あまりの楽しさにそれも良いとは思ったが、エイリアの機嫌を損ねてしまっては町で遊ぶことは叶わない。もう少し遊びたい気持ちはあったが、魔法院のなかではしゃぐに留めて、外に出たらすぐ彼女の背から降りて手をつなぐ。


「これなら問題ないじゃろう。さあ行こう!」

「……まあ、これくらいならいいかな」


 思ったよりも子供っぽい一面があるんだな、とエイリアもどこか楽しそうだ。誰かにこんなふうに笑顔を向けてもらったのは、いったいどれくらいぶりだろうか。彼女から感じられる自分へ向いた信頼に気分を良くした。


「ねえ、フラッド。全部用事が済んだら食べてみたいものとかある?」

「うーむ? それはたとえばどんなものじゃ」

「そうだな。甘いものとか辛いものとか……」

「では辛いモノだな! 甘いモノは食べ飽きた」

「あのリンゴで満足したってわけだね。いいよ、探そう」


 ふたりでのんびり歩きながら、大きな城をエイリアが指さした。


「あれが王様の住んでる場所だよ。たしかグランなんとかっていう名前があったような気がするんだけど、忘れちゃったな」


「ほー、住処に名前なんぞあるのか。人間とは不思議よのう」

「たしかにね。それより次もしっかりした演技頼むよ」

「ふん、任せておけ。ワシにかかれば────」


 こほっ。とフラッドが咳をする。ふたりして目をむいて驚く。

 彼女のてのひらは、べっとりと赤黒い血に汚れた。

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