第52話「自信あるときに限って失敗しそう」
「……え? なんじゃこれは。幼すぎやせんか」
困惑する本人をよそにエイリアを除いた他の者たちは、小さくなってしまったフラッドを見て「可愛い」「よくできてる」と甲高い騒ぎ声をあげる。
「ふふーん、すごいだろ。効き目も長い。君が勝手に魔力を解放しなけりゃ、誰の目にもただの子供にしか映らない。カレンくらいの天才でなければそう気付かない。それに騙すなら物分かりが良い年齢よりも感情を出しやすい子供のほうが良いと思ってね」
どんな大人も大抵は子供の泣くすがたに弱い。エイリアの持論にカレンも同意を示す。
「魔法院の人間も悪魔ではありませんわ。きっと上手く行きますわ」
「……フム、そういうもんなのかのう? ま、良いわ。では行こうぞ」
善は急げと馬車の用意をする。出発直前、エイリアは荷台で薬を作り始める。集めた薬草に加えて村でもらった砂糖などを加えてから魔力をそそぐ。
「そいつは何を作っておるんじゃ、新しい栄養薬みたいなものか」
「君のためじゃなく馬にね。今日だけでもかなり働かせているからさ」
無理をさせて馬が潰れてしまったら移動手段がなくなってしまうので、魔法薬で肉体を健康で理想的な状態にするという。小さな匙にひとすくいもして舐めさせればあっという間に元気間違いなしの薬だ。残った分は瓶に詰めておき、少量を馬に与えた。
「これで元気いっぱいだ、ひと晩くらい走れるぞ」
「ほお。ワシのもそれくらい美味そうにならんかの」
「……私が作ると全部不味くなるんだよね」
「なんでなんじゃ……貴様本当は才能ないんでは」
「やめろ。人の心を傷つけちゃダメだって親から教わらなかったのか」
むすっとした様子で荷物をまとめて御者台に乗り込み、手綱を握る。カレンたちの見送りを背に彼女たちは作戦結構のため、王都は魔法院を目指して出発した。
遠く小さくなっていく仲間たちを荷台から手を振って、やがて見えなくなるとフラッドは寂しそうに引っ込んでごろんと寝転がった。
「上手くいくとええのう」
「大丈夫、絶対に上手くいくとも」
エイリアとカレンには絶対的な勝算がある。というのも、彼女たちは自分たちが英雄という人々からの信頼を得る立場にあり、その発言のひとつずつにどれだけの影響力があるかを理解している。荒事を好まないフラッドたち少数の魔物を守るくらいなら難しくはない。たとえ片方の魔法院との関係が最悪だったとしても。
「そうだ、フラッド。君に具体的な話もしておかないとな」
「ム。魔法院とやらに入ったあとの話か?」
「ああ。彼らに悟られないために君にも相応の振舞いをしてもらう」
魔導師たちは些細なことも気にしがちだ。部屋にほこりひとつ舞っても癪に障るような者さえいる。フラッドに違和感を抱かれてしまうのは避けたかった。
「いいかい、まず魔法院に着いたら、君は幼い女の子のフリをしてもらうのは分かっているとして……その話し方。爺さん婆さんじゃないんだから、もっと可愛い感じで頼むよ。あと、下らないとか、コイツ馬鹿だなと思っても露骨に態度に出さないで」
幼い少女が退屈なジョークを鼻で笑う場面など想像もしたくないとエイリアは苦笑する。──が、フラッドなら決してありえない話ではない。魔物に常識が通じるかどうかなど曖昧だ。先だって忠告しておけば理解はできなくても対応はしてくれるだろう。
「……フ、ようは小娘になれという話じゃろ」
「そんなところ。だけど油断するなよ、相手が馬鹿でも」
「わかっておる! まあ見ておれ、ワシの凄さをな」




