第51話「さらに不味くなる薬」
カレンの思いついた作戦は単純だが簡単ではない。
フラッドはオーガのわりに角は大きいが体格は小さく華奢な見た目だ。これまでのように彼女に薬を飲ませるところから計画は始まる。
人間のふりをさせた彼女を連れて魔法院へ向かい、保護した娘だと偽ってエイリアは森で何が起きたのかを彼らに説明する。そこで、嫌々を装ってカレンの名を出せば、いくらエイリアが魔法院と険悪な仲で嫌われていると言えど、足を運ぶ理由にはじゅうぶんだ。
「嫌々を装うっていうか、嫌々行くけど?」
「今はそういうの重要じゃありませんわ!」
口をはさんだ瞬間に指を差されて、エイリアはぷいっと顔を背ける。
「そのあとはどうするんじゃ?」
「もちろんわたくしが結界を張り、森をしばらく守護すると伝えます」
時間を稼ぐ手段としては悪くない。ただ永遠には続かないだろう。結界を張れば森に平和は訪れるだろうが、彼らにとってはそうではない。魔物の代わりに安全を確保された森で人間が現れては元も子もないのだ。
しかしカレンの計画には、まだ続きがある。
「魔法院が調査に来ていたのなら、ここは手つかずの森ですわ。あれほど巨大な魔物が野放しになっていましたもの。なので、わたくしが手に入れます!」
リーベルタースはもともと名家だ。そのうえ英雄ともなったカレンならば森を買い取るのは難しくない。エイリアがしているように、魔法研究の一環として欲しいとでも言えば納得されるだろうし、なにより彼女の功績を考えると拒否はありえないことだ。
「いかがです、わたくしの作戦は!? もちろん完璧ですわよね!」
「そうだね。成功する確率のほうが高いと私も思う」
「でしたらそれで行きましょう。皆さまも構いませんこと?」
カレンの提案以外で良い方法を思いつく者はいない。賛成の言葉が飛び交えば、彼女も自信に満ちた様子で鼻を高くした。
「良い具合に話がまとまって良かったね。とりあえず、薬飲んどく?」
「効果がいちばん長持ちするヤツかのう……」
長持ちするものほど味は最悪だ。飲みたくないという本心はあるが、里を救うためならと決意を固める。そんな気も知らずにエイリアは「良い薬は苦いもんさ」と返して足を踏まれ、痛そうにぴょんぴょん飛び跳ねた。
「はよう薬を持ってこい。善は急げというんじゃろ?」
「ちくしょう、もっと不味くしておいてやるからな……」
「ハ、もともと腐った泥水みたいな味ではないか」
いまさら何が来ても同じことだと鼻を鳴らして馬鹿にしたフラッドだったが、エイリアが舌打ちをして去ってから十数分後に持ってきた薬品はいつもよりもドロッとした、とてつもない悪臭を放つものになっていた。手に持つ本人でさえ鼻をつまんでいる。
「……おい貴様。本当に飲めるものなんじゃろうなソレ」
「少なくとも死にはしないよ。ひたすらにまずいだけ」
「何を足したらそうなる!? 改悪にもほどがあるじゃろ!」
「フッ、安心したまえ。新しい効果も追加されてある」
道行く途中で採取しておいた薬草のなかから、何種類かを特別な方法で乾燥の過程を挟まずに効果が長持ちするように魔力を注ぎ込み、既存の薬品と混ぜ合わせたもので、味はともかく今回の作戦では成功率を高める期待があると彼女は言った。
「ムムム……致し方あるまい。里のためじゃ、腹を括ろう」
息を止め、ただひたすらに喉へ流し込む。吐き出しそうな気分をぐっと堪えて涙を流し、やっとの思いでわりと大き目な瓶の中身を空っぽにした。
それから数秒も経たないうちに彼女のからだは光に包まれ、ポンッと音がして煙があがる。角はきれいに消え、まさにひと目見れば人間そのものだ。──ただしフラッドのからだも小さくなり、幼い子供のようになっていたが。




