第50話「オーガの里を救う方法を考える」
ほんの数秒。言葉を失い、ゆっくりと振り返る。
「……おかしいなあ。疲れてるのかな、カレンの幻覚が見える」
「幻覚じゃありませんわよ。ちゃんとここにいます」
「ははっ、声まで聞こえる。薬品の実験を重ねたせいだ」
「薬品の実験をしたのはどちらかと言えば、わたくしのほうでは?」
「それはそう……じゃなくて! なんでここに来てんのさ!?」
カレンを思っての行動を取って、わざわざ冷たく突き放したにも関わらず戻ってきてしまったのを叱るように言ったが、彼女は胸を張って堂々とした態度で返す。
「わたくしが『帰ります』なんてひと言でも言いましたか?」
記憶を戻してさきほどの出来事を頭のなかで繰り返し、エイリアは肩を落とす。
「……言ってない。でも戻って来たって君には損しか」
「もちろん、ありませんわ。でも乗りかかった船ですもの」
遮って答えたカレンは、やんわりと微笑みを浮かべる。
「ここまで来て見て見ぬふりはできませんわ、エイリア。わたくしは彼らの優しさを知ってしまった。傷ついて欲しくないものを守り、傷ついたものを癒すのが白魔導師の英雄たるカレン・リーベルタースの役目。種による格差をつけては名折れもはなはだしい。違いますか、エイリア・ファシネイト。あなたならいかが?」
そう問われて、エイリアは沈黙する。だが瞳には驚きと同意を宿していた。『自分がもし逆であれば引き返したか?』決まっている。カレンと同じことをしたはずだ、と。
わずかな違いがあるとするのなら、エイリアは自身が英雄でなかったとしても彼らオーガという種の存続に尽力したであろうということだけだ。
「なんじゃ、よう分からんが話は纏まったと考えて良いかのう?」
「……ああ。それでいい。カレンの言う通りだった」
肩をすくめて首を横に振り、いつもの自分らしい振舞いをしてみせたエイリアは、カレンへ一瞬だけ、悟られないようなせん望のまなざしを向けた。
「さ、それでは今後をどうするか考えよう」
第一に候補に挙がったのは里の場所を移すことだ。魔導師たちが戻ってきたりでもして見つかれば、彼らの未来は途絶えるも同然だ。エイリアほどでなくとも腕の立つ魔導師たちはいくらでもいる。フラッドがどれほどの強さを持っていたとしても、全面的な闘争となったときには甚大な被害が出てしまうだろう。
しかし、彼らも派閥の違う同族との争いから退き、ようやく今の場所を手に入れた。他に行くあてもないまま彷徨ったとしたら、それも誰かの目に留まる危険がある。
「どうしたもんかな。この里にいる魔術の使えるオーガでも、結界の出来を見る限りたかが知れているし魔導師たちから逃げのびるのは難しいよね……」
「貴様ならば新たな結界を張れるのではないのか?」
「私は旅を続けないといけないんだよ、分かるだろ」
彼女の使命は魔王亡きあとも続く魔物発生の原因を調べ上げることだ。それに加えて彼女自身が研究を続けるためには、いつまでも里に居残り続けるわけにはいかない。永遠に続くほどの結界を本人不在で張り続けるには、それなりの準備期間が必要になってしまう。非効率的だとエイリアは首を横に振る。
「でしたらわたくしが残りましょう。白魔法にも結界を張る術はあります」
「君、魔導師たちに生きてるってバレてるじゃないか。どうするんだ?」
「そのことでしたら、わたくしにとてもいい考えがありますわ!」
自信たっぷりに彼女はフラッドを指差した。
「フラッドを連れて魔法院に向かうのです、エイリア!」




