第29話「懐かしいものを見つけた」
今回の件でフラッドにはまったく非がない。そもそも森に住んでいたガントでさえ知らなかった湖のヌシに喰われれば、誰だって命の危機は感じるものだ。大急ぎでカカロ村まで戻り、宿のちかくに停めてあった馬車の荷台から予備の薬が入った瓶をふたつ抱えた。
「おや、エイリアさん。なにをされているのですか?」
宿の主人、コンラッドが空いた時間にコーヒーを飲んで陽に当たっている。エイリアは適当に「ちょっと忘れ物をね」と返事して、思い出したように彼へ手製の釣り竿を渡す。
「おや、これは立派ですね。どうされたんです?」
「実は借りた竿を連れが壊しちゃってね。思ったより大物がいてさ」
「あ、そうなんですか! 気を遣っていただいて」
「いやいや。こちらも壊してしまって申し訳ない」
おわびのしるしとして作ったもので気に入ってもらえるかは分からなかったが、コンラッドが目をきらきらさせているのを見れば、どういった気持ちなのかはすぐわかる。ひとまず安心したところで「じゃあ、また森のほうへ行ってくるね」と別れた。
(よしよし、あとは薬を届けて終わりだな。魚を捌くとか言ってたから、食べてから薬を飲ませたほうがいいか。それとも食べる前に飲ませたほうがいいか……)
味がひどくて吐き気すら催すような薬だ。もし食べたあとに飲んだりでもして、いろいろなものを吐き出してしまったらどうしようか、と考える。見た目にはちっとも腹部に張りもなく、吸収率が高いのなら食後のほうがいいかもしれない。もし食べる前に飲めば、その後の食事など楽しむどころではなさそうだと迷う。
結局答えは出ないままふたりのところに戻り、本人に託す。
「────と、いうわけで、だ。どっちがいい?」
「どっちもイヤじゃ。休憩してからで良かろうが」
自慢の角を撫でながら、ふいっと顔をそむける。
「でもねえ、まんがいちにも誰かが君のすがたを見たら、まあ、うん。君はいいんだけど、私がいっしょにいるとマズイっていうか。バレたら英雄から悪の親玉にジョブチェンジしなくちゃならないだろう? 正直、それは勘弁したいかな」
「……ふう、仕方ないのう。では喰う前に飲む。吐くからの」
「えっ、吐くの? こう、急速な体内消化とかしてないの?」
「前も言うたが知らぬ。ただ、気分が悪いときは食べたものが全部出る」
「いったいその体のどこに溜まってるんだ……」
ますます分からない謎の多き魔物の生態には首を傾げざるを得ない。同時に興味を惹かれて、いますぐにでも体の中身を見てみたい気持ちに襲われたが、なんとか堪えた。
「それより魚を捌いたのだが、こんなものが出てきたので貴様に見せてやろうと思ってな。ほれ、宝玉だ。人間はこういうものに価値を見出すのじゃろう?」
「へえ、やっぱ湖のヌシともなると面白いものを呑み込んで────」
投げ渡されたのは深碧色の美しい宝玉だ。単純な丸型ではなく、加工されていて何かにはめ込まれていたような傷跡がある。エイリアはそれを見て固まってしまう。
「おっ、なんじゃ。あまりに大きな宝玉だから見惚れてしもうたか? フッフ、たしかにオーガにもそういう飾りを持つ文化はあるぞ。首にかけるヤツで……どうした?」
自慢話のひとつでもしてやろうと思っていたフラッドだったが、様子のおかしいのを見て言葉を途切れさせる。心配そうにする彼女に対して、エイリアは言った。
「これは宝玉ではなくて魔石だよ。あまりにきれいで巨大で世界にふたつとない────四英雄のひとり、僧侶カレンが持つ癒しの杖に嵌め込まれていたものだ」




