第30話「薬を無理やり飲ませるような仲でした」
露ほどの懐かしさ。かつては共に旅をした仲間の遺品だと分かるとエイリアの表情には寂しさも映り、「僧侶カレンは偉大な子だった」と語った。
「彼女は私と真逆の才能でね、白魔法以外のなにもかもを扱えなかった。だから私の薬を使って、一時的だが魔力量を増やしていたんだ。この魔石は、そんな彼女の魔力にだけ反応して癒しの力を増幅させたんだよ。パーティの重要な回復役を担っていた」
ごろんと魔石を地面に転がして押さえつける。仄かに光を帯びた。
「ム。反応しないのではなかったのか?」
「ああ、してないよ。ただ、こいつには自動的にあるものが記録される」
手を放すと魔石がふわりと宙に浮く。何度か発光したあとで、誰かの声が聞こえる。『だ、だれか……助けて……!』悲痛な声を聴いて、エイリアは表情をゆがめた。
「カレンはたぶん無意識だったかもしれないが最後に音声記録を残していたらしい。まったく最悪だよな、こんなかたちで友人の最期を耳にするなんて」
音声記録は短く、一瞬だけ何か叫ぼうとしているのが聞こえたが、そこでぷつりと途絶える。これ以上は聞く必要もないと彼女は魔石が落下するのを手で受け止めて、思いっきり湖へと放り投げた。
「あ、おい! 良いのか、友人の形見だったのでは」
「ええ? まあ友人ではあったけど……私は追放された身だしなあ」
金ヅル扱いしたのが主な原因だが、それはそれとしてカレンからは大して好かれておらず、毎回危険地帯に足を踏み入れるたびに『この薬を飲んでみておくれよ、新作だ!』と嫌がる彼女に何度も無理やり飲ませた結果、エイリアが追放されるときのホッとしたような表情を思い出して苦笑いをする。
「私はパーティを大事にしていたつもりだったんだけど……ハハ、残念」
「貴様の言う大事とは〝実験材料として〟じゃないのかのう」
「半分正解。正しくは金ヅルだ、金ヅル。彼らは私の財布代わりだった」
「本当にどこまでもナメくさっとるヤツじゃな」
あまりにも堂々としているので、呆れてそれ以上言葉も出てこない。なにを言ったところでエイリアは悪びれもしないし、それを自己流の正義として捉えている。
「それで彼らは魔王討伐のあとも生き残ってられたんだよ? 感謝されこそすれ、憎まれる筋合いはないな。だから見てみたまえよ、結果的にここでひとり死んでる」
原因は分からない。湖のヌシに襲われたのはフラッドやエイリアが油断していたのと同じなのだろう。他の仲間が気付かなかったのも、もしかしたら水浴びでもするのに彼らと離れていたからかもしれないと推測した。
「残念だとは思うし、ちょっとは寂しさもあるけど……死んだ人間は生き返らない。現実は現実として受け止めて、さっさと次に行くのが最善だよ」
踵を返して「疲れちゃったから帰る」と背を向ける。フラッドは肩を竦めた。
「嘘が下手なヤツだのう。結構キテるぞ、アレは」
隣で様子を見ていたガントも腕を組んで、うんうん頷く。本当にそこまで薄っぺらな感情の持ち主なら、最初から油断して喰われた自分を慌てて湖に踏み込んでまで助けようとはしないはずだ、とフラッドはエイリアの良い部分にも気付いている。
『でも、あいつたぶん、ほんとのこと言わない』
「分かっておる。……だが、問い詰めぬほうが良いこともある」
あわれな背中を追い掛けて「さあ、ワシも帰るかのう」と一歩踏み出したところで「あの、もし」と声を掛けられて立ち止った。フラッドが振り返ったところにはショートの銀髪をした、ぼろきれで肌を隠している女性がいる。
どうやらフラッドを後ろから見たときに人間と勘違いしたらしく「ひいっ」と短い悲鳴を上げられて、彼女はとても不満そうに目を細めた。
「おい貴様。勝手に怯えるのはやめろ、失礼であろう。危害を加えるつもりはない、何の用で声を掛けたか言うてみよ。……事と次第によっては殺すがな」




