第27話「ないなら作ればいい」
糸が切れしまっては釣りを続けるなど不可能だ。早々に釣り竿を地面に放り出して素潜りを始め、ガントがほとりでそれを見守る形となったのだが、しばらくして戻ってきたエイリアにはまったく状況が理解できず「えっ、なんで?」と声が自然に出た。
傍には掘られた大きな窪みがあって、魚が一匹だけ息絶えている。
「釣れたのこれだけ? っていうかどうして竿が……」
水面に上がってきたフラッドが彼女を見つけて「お、よく戻ったな!」と眩しい笑顔を見せる。悪びれた様子さえないので、さすがに呆れて「何やってんだよ、君は」と文句のひとつでも続けて垂れてやろうかという気持ちになった。
「いや、悪気はなかったんじゃ。ただ何か大きな魚が掛かったらしくて、糸がぷつりと。だから素潜りをしておったんじゃ、思った以上に獲れぬが……」
「そりゃそうさ、今の君は薬で魔力を抑えてるんだから」
オーガの基本的に高いとされている身体能力は、体内を循環する強い魔力によって賄われている。彼らは自分たちの構造を理解していないがゆえに、戦って傷つけば傷つくほど弱り、他の魔物と大差ない程度まで落ちていく。
エイリアはかつて倒した複数のオーガから、そういった根本的な部分を理解してフラッドに薬品を投与しているので、当然彼女が普段通りの狩りを行うのは難しい。
「むむ。ではやはり釣るしかないのかのう……?」
「それがいちばんだね。無理に魔力を解放すれば実力は発揮できるだろうけど、そんなことをしたら薬の効果が切れてしまうし、予備を持ってきてないだろ」
結局、釣り竿を修理する以外の方法で魚を獲る手段は彼女にない。かといって針と糸がなければ修理のしようもない。大人しく持って帰るしかないのかと諦めそうなすがたに「まあ、そのへんにあるもので適当に作るのも難しくはないだろうけど」とエイリアは自分の魔法なら可能であることを伝えた。
「細長い蔓と、枝を削って針の代わりにしよう。餌はさっきのミミズでいい」
風魔法を巧みに操って切り刻んで加工し保護を掛けて頑丈にした元の釣り竿よりもしっかり丈夫なものをつくる。「コンラッドさんにも一本作っておくから、君はそれで試してみて」とフラッドに渡して、二本目の制作に取り掛かる。
「はあ~、すごいのう。こんなもんまで作れるんじゃなあ」
「これくらいはね。なんだったら簡易的な小屋だってできる」
トロールの住めるような家は無理だけど、とけらけら笑う。薬の効果は切れているので、ガントは彼女が何を言っているのか分からず不思議そうな顔をしたが、フラッドの通訳を挟んで聞いたときには、すこし可笑しそうにしていた。
「さあ! それならさっそく釣りじゃ、釣り!」
すっかりミミズを触るのにも抵抗感なく針に刺して湖に突っ込んでいく野性的な背中を見つめながら、二本目の釣り竿の出来をガントといっしょに確かめる。「中々いいだろ?」と親指を立てると、彼も大きな親指を立てて返す。
「にしても広い湖だなあ。でっかいヌシとかいたりして」
言った傍から、だった。巨大な影。湖から飛び出してきた何かが底の泥を跳ねさせながら、巨大な口を開いて釣り竿を振ろうとしたフラッドをぱくりと食べて大きなひれをばたつかせて手のように動かし、湖へ引っ込んでいく。あまりに突然の出来事すぎて、笑った表情が張り付いたままエイリアは固まっていた。
「……え? あれなに? 本当にいるの?」
ガントに指差しで尋ねる。彼はぶんぶんと首を横に振った。そしてようやく状況を理解したとき、エイリアはすぐに杖を取り出して大慌てに湖へバシャバシャと突っ込んだ。




