第26話「釣りは存外楽しいもの」
まったく基礎知識のないフラッドをを打ちして自分だけ採取に向かうのは悪い気がして、ひとまずふたりで湖へ向かう。ガントのすがたは見当たらず、森は広いので違う場所にいるのだろう、とそのうち現れるのを待つことにした。
最初に行ったのはエサ探しだ。どんな魚も食いつくとはいかないだろうが、柔らかな土──特に果物や枯葉で出来上がった自然な腐葉土のある場所を探して掘り、ミミズを見つけてエイリアは平気な顔をしながら釣り針に刺す。
「貴様、気持ち悪くないのかそれは……」
「ええ? 釣りってのはこういうものさ。デカいミミズで最高だよね」
濡れることも厭わずに湖の浅い部分──膝よりも少し上くらいある深さまで──を進み、釣り竿を振るって糸を垂らす。
「いいかい。釣りってのは忍耐だ。じっと針に刺さったエサに魚が喰らいつくまでをジッと待って、糸が引っ張られたら竿を引く。針に魚が引っかかってれば大成功さ」
「ほーん……。なんか辛気臭い感じがするのう」
「だけどそれが楽しいってひとは多いんだよ。達成感もあるしね」
釣れた魚の数が多かったり、普通のサイズよりも大きいのが釣れたときの達成感はひとしおだ。釣れるだけで良いという者もいるが、はっきりと優れた釣果を得られて嬉しくない者はいないだろう。エイリア自身もあまり釣りをするほうではないが、たまに気分転換に遊ぶことがあり、フラッドにも「やってみれば楽しさが分かってくるよ」と勧める。
「まずは何でも試すことが大事だ。素手で獲るのとは違うかもよ?」
「そこまで言うならやってみるかの。この竿を持っておれば良いのか」
「そうだね。あとはさっき話した通りだ、じっくり待つといい」
フラッドに竿を渡して自分は湖から出る。ローブに包んだリンゴをひとつ齧って「それじゃあ、ちょっと薬草を探してくるから」と彼女はその場を離れた。
ひとり残され、水面が揺れるのをじっと見つめるフラッドは、素手のほうがやはり早いと思いつつもじっと耐える。そのうち釣り竿がピクッ、と動いて彼女は神経を研ぎ澄ませ、エイリアに言われた通り、糸が引っ張られるのを待つ。
手の握る感触で糸の引き具合に「今じゃな!」と釣り竿を引き上げた。
「……おろ、小さいヤツじゃのう」
手に握れるくらいのそれなりにまともなサイズの魚だったが、彼女にしてみればあまり良いものではないらしい。ただ釣れたこと自体は少し嬉しかったのか、にんまりとしていったん湖から上がり、土を深めに掘って魚を放り込んで眺めて遊ぶ。
「ほほう、なるほど。確かに素手で獲るのとは違う楽しさじゃ。なんだかもう少し大きいのが釣ってみたいのう~~! フフ、大物を釣ってエイリアめを驚かさねばな!」
魚はそのままにしておき、釣り竿を持ってさきほどミミズがとれた場所へ行く。土を掘って捕まえ針に刺して、もういちど湖へ入り、期待に胸を膨らませて糸を垂らす。今度はそう簡単に釣れる気配はなく、しかし意外にもジッと獲物が掛かるのを待った。
『お前、ここで何してる? それはなんだ?』
「ん、貴様か。なに、ちょっとした遊びじゃ」
背後から話しかけられたのに気付きながら振り返りもせず、釣り竿の握る感触を確かめて、近寄ってきたガントに言う。
「これが意外にも楽しいんじゃ。エイリアから勧められてのう」
『……そんな棒きれ使って、魚が獲れるか?』
「さっきは獲れたぞ! 貴様も見てみよ、そこに穴があるじゃろ?」
自分が魚を放り込んだ穴を指差す。ふふん、と鼻を鳴らしてとても自慢げだ。言った隙に釣り竿がぴくりと動き、「おお、かかった! ほれ、今度はさっきより断然大きいぞ!」そう叫ぶ。ガントにも見せてやろうと釣り竿を引き上げた瞬間────糸がぷつりと切れてしまった。
「……あ。いかん、借り物なのに壊れてしもうた……」




