第25話「ちょっと森へ遊びに」
午前のうちから森へ出かける。エイリアはまた自分のローブを持ち、フラッドは宿の主人から「魚を獲るならこれをお貸ししますよ」と手製の釣り竿を渡されて、意味は分からなかったが興味津々にして嬉しそうだった。
「君、釣りなんて知らないのによく借りたね?」
「なんぞ面白そうだったのでな。貴様は知っておるのか」
「もちろん。というか、人間は知らないほうが珍しいんじゃないかな」
「ほお……。魚はすべて手で獲るものじゃと思っておったわ」
オーガにとって、泳ぐ魚を素手で捕まえるのは当たり前のことで、人間ならばどれくらいかと問えばカタツムリを捕まえるくらいと彼女は答えた。魔物である以上は多くがそうだろう。エイリアもそう思っていて、なにも不思議には感じず頷いて返す。
「いいよなあ、それくらいできたら楽そうだ」
「貴様にもできるじゃろ。ワシに負けん膂力しておったろ」
「君が弱ってたからだ。さすがにオーガに勝てたら人間やめてるよ」
森のなかを歩いて、ふと頭上を見上げてエイリアが「あ」と話すのを中断する。いっしょに見上げたフラッドが、その視線の先にある紅い果実に気付く。
「なんじゃ、あれが欲しいのか?」
「自生してる爆裂リンゴだね。美味しいんだよな」
「……? 聞くだけだと危険しか感じぬが」
「まあね。でもすごく美味しいんだよ。……それっ!」
杖を取り出して、詠唱なしに簡単な風魔法を使って木に生ったリンゴを落とす。手に取ったのは、普通とは少し違い、枝の部分と底がそれぞれ真っ黒に染まっていて、手に持つといささか熱を感じられる。耳を澄ませると泡の弾けるような音がした。
「コイツは普通のリンゴとは違って、かじると口のなかで果汁がしゅわーっと弾ける炭酸みたいなモノなんだよ。だから害はないし、赤色が鮮やかなモノほど味が濃厚で甘みと酸味のバランスがとれていて美味しいとされてるのさ。私の森でも採れる」
木になっている他の実も二、三個と取ってローブで包む。エイリアの好きな果物のひとつで、とても満足そうにほくほくしている。
「ワシは果実とかあんまり食べないからのう。どれ、ひとつ」
「お、いいよ。ほら食べてみて、きっと美味しい」
「……んぐ。ほお、これはたしかに……」
魔物は雑食だが、なかでもオーガはもともと人間に近い種族なこともあってか多くのモノを口にする機会がある。フラッドも例に漏れることなく、調理などに関しては曖昧でも果実の味の良さと手軽さはよく知っている。爆裂リンゴは彼女の記憶するなかでも上等なモノだと感じたらしい。
目を輝かせて「もうひとつ」と要求したが、エイリアは「だめ」と食い気味だった。
「むう、なぜ! もうひとつくらい良かろう!? まだあるではないか!」
並ぶ木々を指差して吠えるが、エイリアの考えは変わらない。
「ここにいる動物たちや村で暮らす人々のものだ。君を甘やかしていたら次から次へと際限なく貪るのなんて、翼竜の件で分かりきってるからな」
「うぐっ、否定できぬ……。自分で採るのもだめかのう?」
「魚で我慢してくれ。節度を守ったうえで、だけど」
「……仕方ないのう、今回は諦めるとしよう」
あまりにもがっかりしているのが哀れに見えたが、森では甘やかすことをせず『帰ったらひとつくらいあげよう』と今は黙っておくことにした。
「ま、いいじゃないか。ひとまず釣りでも楽しんでみたら」
「おお、そうであった。釣り竿とやらを借りたのだから使ってみねばな!」
いっきに元気を取り戻す無邪気さは、なんとなくエイリアも笑顔になれた。だが、すぐにもうひとつの問題に気付いて彼女は「ところで、それエサはどうするんだい?」と尋ねる。フラッドはなにも分かっていない様子で首を傾げた。
「これは、針を投げ込んで引っ掛けるだけではないのか?」
「あながち間違ってないけど間違ってるんだよなあ……」




