第22話「群れから離れて暮らす理由」
湖でフラッドたちを待たせ、エイリアはひとりで森のなかを歩き回る。馬車の積み荷さえあれば薬品が作れたが今は手もとにない。ただ、効果は薄くなり時間は短くなるとしても薬草を見つけて適当に手ですり潰したものに魔力を注いで口に放り込めば、一時的な会話くらいは可能だろうと考えていた。
「あ~あ。動物たちの手も借りたいところなのに今日は持ち合わせもないしなあ」
木の根もとや葉の下、あるいは枯れている花の近くなどを探しまわる。かかった時間は三十分ほどだろうか、とうっすら額に汗をにじませる。
「幽霊草と栄陽草をすり潰して……っと」
草をぐりぐりと指で潰し、丸めてから魔力を注いで草の中に放り込む。恒例のごとく「ヴォェッ」と心底まずそうにしかめっ面をしながら噛んで飲み込んだ。
「よし。どれくらい持つかは分からないけど、たぶん大丈夫だろう」
余った草を持って湖まで戻ってくる。フラッドは退屈そうに、トロールの真横で指先に小鳥をとまらせて遊んでいた。
「なんだ、すっかり仲良くなってるじゃないか」
「ム。争いたくない者と戦うほど飢えてはおらぬしな」
鳥が飛び立とうとするのをわずかに手を挙げて邪魔しながら戻ってきたエイリアを振り返る。「それでどうだったんじゃ」と尋ねられて、エイリアは「たぶん行ける」と不思議そうにするトロールを見上げて「これを食べてくれないか」と丸薬を放り投げる。
「両方とも飲んだらやっと会話が成立するんだ、言ってやってよ」
「本当なのかのう……? まあ良い、伝えてやろう」
フラッドが話しかけて、トロールは大きな手のひらにちょこんと乗った小さない小さな丸薬を舌でべろりと舐めとるように口に含む。醜い顔をいっそう醜くして何か叫んでいるのを「クソ不味いみたいじゃ」とフラッドが笑った。
「ハハ、だろうね。さっき私も噛み潰したんだけど吐くかと思ったよ」
それからすぐに話せるかを尋ねる。トロールは首を持ち上げておおっと驚く。
『お前の言いたいこと、わかる。お前、俺の言いたいこと、わかる?』
「すごくわかる。私、君の言葉わかる」
「なんで貴様まで変な話し方になっとるんじゃ」
「……あっ、それもそうか」
恥ずかしさに頬を少し紅くして「こほん」と咳払いをする。
「じゃあ、いくらか聞いてみたいことがあるんだけど、いいかな?」
『いい。俺、なんでも答える』
「よろしい。ではまず君の名前を教えてくれる?」
『ガント。俺、みんなからそう呼ばれてた』
「いい名前だね。私はエイリア、よろしく。さて何から尋ねたものか」
暗くなってきたのもあって早めに切り上げたいエイリアは、山ほど尋ねたいことのなかから、いくつかをピックアップすることにした。最初に尋ねたのは、彼がなぜトロールでありながら群れから離れているか、だ。
『俺、動物好き。でも他の仲間、そうじゃない。捕まえて生きたまま食べる、かわいそう。そのせいで俺、みんなと仲悪くなって、群れ離れることになった』
ガントはトロールのなかでも変わり者だった。動物を愛する平和主義者で、森で共に暮らしていた仲間たちは彼の妨害によって狩りに支障が出たために争い、その末に傷ついた彼はたったひとり森に残された。そして今は果物や魚を食べて暮らしている。
『俺、人間も襲わない。でもこの体、とても空腹になる。たまにつらい』
「魔物ってみんな食い意地張ってるもんなの?」
エイリアの視線が向いたのに気付いて、フラッドが不服そうに睨む。
「ワシをこんなデカブツといっしょにするな」
「君は正直トロールよりひどいと思うよ」
「なんじゃと貴様。これでも我慢しておるのだぞ」
はいはい、と適当な返事を返して後ろでぎゃあぎゃあと騒ぐ彼女を無視し、ガントに次の質問をする。
「もうひとつ聞いておきたいんだが……最近はとても魔物が増えてると聞く。君たちのあいだでも、それはうわさになっていたりしないか?」
旅をするにあたって、念のため調べておかなければならない国王からの依頼を思い出して聞いてみると、ガントは丸太のように太い腕を組んで唸った。
『……聞く。でも、理由しらない。賢者に聞け、とても珍しい半人のドレイクだ』




