第23話「ひとまず村に戻るとしよう」
ガントの話では、遠くは北の大地にあるディグ山脈に孤独に住む半人のドレイクがいるという。名をロッソと言い、多くの魔物だけでなく世界中の情報を知り、決して誰とも争うことなく静かに過ごし、来るもの拒まず去るもの追わずの精神を持つ。
それは魔物だけではなく人間に対してもそうらしく、ガントは昔に仲間たちと土地を渡り歩いた頃にいちどだけ会ったことがあると話した。
「なるほどね、会ってみる価値はありそうだ」
「ならどうするのだ。すぐ向かうのかのう?」
「いや、カカロ村にはもう少し滞在するつもりだよ」
採取した薬草を乾燥させたあとで調合し、栄養剤代わりの薬をストックしてから出発するのが現状ではベストだ。
どんな土地で過ごすのもエイリアにとっては難しくないが、それも肉体的な余裕があってこそ。栄陽草や精月草を集めた大きな理由で、カカロ村を最初に選んだのもフラッドのためだけではない。持ってきた薬草を乾燥させるのに、陽光が遮られることなく豊かな風の吹く条件の良さを鑑みてのことだ。
「もっと話を聞きたいところだけど日も落ちてしまったし、あまり長く留守にすると村の人たちも心配するだろうから、そろそろ戻るとしようか」
「ム。それもそうじゃな。腹も空いたしのう!」
「君はちょっと食べ過ぎだって言ってるだろ……」
「安心せい、貴様らの量に合わせてやるとも。次からは魔物を狩る」
からから笑って言うフラッドの言葉など信用に値しない。エイリアから大きなため息が漏れた。どうせ次も必要以上の量を食べるにきまっている、と。
ひとまずガントに別れを告げて、再び風を起こす魔法によって彼女たちは森を離れた。今度は村の傍まで飛んできてキレイに着地してみせて、エイリアはどんなもんだいと言いたげにフッ、と鼻を鳴らした。
「大したことしてないじゃろ……。貴様本当に英雄のひとりか?」
「なんだよう、ちょっとくらい褒めてくれてもいいだろお!」
ぷうっと頬を膨らませて怒る。一度目の格好の悪い失敗から成功を生んだのだから褒められたい。ちゃんとできるじゃないかと言われたい。そんなどこか子供っぽさが残った大人だ。フラッドは呆れた顔で「はいはい、すごいすごい」と相手にしない。
「それよりものう、気になっておるんじゃが……」
「ん? なんだよ、言ってみたまえ」
「結界が前より強くなっておる。入れるのか、ワシは?」
近づいただけで体がピリつくような感覚に襲われて不安に駆られる。彼女が森へ出かけてしばらくのあとでエイリアがすべての結界石の修復をしたのに加えて、以前よりもわずかにではあるものの、結界を補強した──魔物の増加傾向を気にして、できるだけ被害が出ないように──のが原因だ。
それでもエイリアは胸を張った。
「問題ない。多少強くはしたが、君が今持つ魔力は魔物特有とはいえ結界石の規定を下回る弱いものだ。無能な魔導師くらい、魔物でいえばゴブリン一匹分の弱さを検知したくらいで弾いたりはしないさ。若干肌は痛むかもしれないが、それも入るときだけだよ」
これもひとつの実験さ、と遊び半分な気持ちを含む表情はなにひとつ安心できなくても、信用して進むしかない。じと目に反抗心を見せても気にすらしていないので仕方なく体に違和感を覚えながら村へと入っていく。
「あの、結構痛いけど!? ピリピリっていうかビリビリするんじゃが!?」
「気にしなくていいから、あと十数歩頑張って」
「貴様は気にしたほうが良くないか!? これ貴様のせいじゃろうが!」
「でもほら、今ある薬をより良いものにするためだよ。いいから歩く!」
「くっ、いつか絶対に恨み晴らしてやるから覚えておけよ……!」
やっとの思いで結界を抜けたときには、ぜえぜえと肩で息をするほど疲れ切っていた。汗だくで「どうじゃ」と振り返ると、エイリアはニコニコとして。
「お疲れ様。今ので薬の効果薄れたみたいだから、宿に戻る前にぐいっといこうか」




