第18話「またひとつ新しい知識を得た」
フラッドもすべて知っているわけではない。ただ伝え聞いただけのこと。自然界で突如発生した種である魔物を喰らい、突然変異的に力を得た人間が起源とされている。彼らは魔物を喰らえば喰らうほど強くなる種、オーガと呼ばれる存在になり、数こそ少ないものの遠い昔からひそかに存在し続けて、今に至る。──というのが彼女の話だ。
「ワシらは強くなるたびに角も成長する。貴様も見たであろう、あの立派な角を」
「ああ、なかなか大きかったね。あれはオーガだとどれくらい?」
「かなりのモノじゃな! 自慢できるほどのサイズになる!」
「へえ~、じゃあ君はオーガでも強いほうってわけだ。すごいね、なかなか」
「そうなるのう。いやはや、分かってもらえるのは嬉しいものじゃ」
身内よりも他人に認められるほうが実感が湧くのか、頬をうっすら紅くして照れていた。今は薬の効果で消えているが、もしすがたを元に戻す機会があるなら角を触らせても良いと彼女は言う。オーガという種が友好の証として示す行為のひとつらしい。
「面白い種族だね。……そういえば聞きそびれていたんだが、君はいったいどうして森に? オーガってのは集団で生活していると聞いたことがあるけど」
フラッドがばつの悪そうな顔で頬を掻く。
「……ちょっと外に出てみたくてな。そうしたら道に迷ってしもうて」
彼女が暮らしていた場所はとても静かで緑豊かな森の中だ。魔物も多く人間も立ち寄らないので、ひっそりと暮らすにはちょうど良い場所だったが、どうしても森の外への興味が止まらず、百年以上を抱えた気持ちに正直になろう! と仲間に黙って飛び出し、好奇心に引きずられるようにしてさまよっているうち、迷って帰れなくなってしまった。
「挙句に強い魔物との争いで傷つき、森で休んでいたところを貴様に見つかって傷を治してもらったというわけじゃ。……まこと恥さらしで仲間に向ける顔がない」
うなだれる彼女をよそに、エイリアは壁にもたれかかって腕を組んで考える。
(……オーガは魔物のなかでも強い種だ。フラッドの角が大きいほうなら相当な実力のはずだけど、そんな相手を手こずらせるほどの魔物が王都の近くに出たのか? 戦ったとなれば誰も気づかないのは不自然だが……)
かつて勇者と共に戦ったオーガたちを思い出せば、たしかに体は巨大でもフラッドほど立派な角を持つ者はいなかった。それでも魔王の配下として道を阻んでいたのを考えるとまだまだ世界には脅威が残ったままだ。勇者たちが旅の途中で倒れてしまったと言われても、じゅうぶん納得ができた。
「ねえねえ。君が戦った魔物ってのは、どんなやつだったの?」
「ム。それがよくわからんのだ、いきなり襲われてのう。気配も音もなかった」
「え? じゃあふいうちを受けて逃げたってところ?」
「抵抗はしたとも。だが無様にも傷だらけにされてしもうてなあ」
聞けば聞くほど興味がわいた。そんな魔物がいるならぜひ見てみたい、と。その根幹にあるのは『情のない魔物ならバラバラにして調べてもいいよね』と、やや無自覚な狂気に満ちた何かだったが。
「むう、それより腹が空いてきたのじゃが」
ぐうう。大きな腹の虫が鳴って、エイリアはげんなりした顔を向ける。
「君、あれだけ翼竜の肉を食べておいてまだ足りないのか……?」
「フッ……存外成長期とやらかもしれんぞ。もっと食べさせよ」
「なるほど成長期……って、そんなわけないだろ。私を破産させる気か」
「そのときは魔物でも食えば良い。貴様もオーガになれるやもしれんぞ?」
「お断りだよ。……はあ、仕方ない。少しくらいは贅沢できるかな」
腰に下げた小さい紫色の巾着のなかに銀貨が数枚あるのを確かめて、今からこれが消えてなくなるのか、としょんぼりした。




