第14話「機嫌の取り方を考えておかなくちゃ」
カカロ村までの道のりは少しだけ遠い。数時間は馬車を走らせ、ときどき川を探しては馬を休ませて、気付けば日も暮れ始めていた。空には雲がかかり、今にも雨が降り出しそうな天気になってくると、ひとまずは逃げ込むように近くの森へ入った。
「これは三十分としないうちに降るだろうね」
「あまり降られるとかなわんのう。雨は嫌いじゃ」
「そうなの? 魔物って天気あんまり気にしてないのかと」
荷台でごろごろしながら、おおきなあくびを飛ばす。ぽつぽつと雨が降り始めたのをじっと見てフラッドはつまらなそうにした。
「種にもよると思うぞ。昔、炎をまとった竜と争ったことがあるが、雨が降り出したとたんにどこかへ行きおったわ。翼竜よりもはるかにデカいヤツでも苦手なものはあるもんらしい。ワシは薄暗いのが好きじゃないだけだがのう。どこか退屈な気持ちになる」
本降りになる前に、と川から離れた場所で馬車を停め、エイリアは御者台から飛び降りる。地面に小さな円を描いて手をかざすと、大きな先の丸まった木彫りの杖が飛び出した。「ここを中心にして結界をつくるね」と、杖の丸い頭を叩く。
「なんじゃ、えらく古めかしい杖じゃのう」
地面に柄の先が刺さると、一瞬だけふわっと巻くような風が吹いた。
「私の魔導師としての道具だよ。持ち歩くには邪魔だから、空間魔法を使って異空間を漂わせてあるのさ。で、こうして必要なときだけ取り出すわけ」
周囲を見渡せば、彼女たちの周辺だけがまったく雨に濡れていない。見上げると天候は悪いし、もちろん雨も強く降り出している。土を跳ねさせるくらいの大雨だ。
「ほお、なるほど。これは風の結界か。雨や他のものを弾いておる」
「雨が止むまではここで休憩だね。暗くなってきたし焚火でもしよう」
折れ枝などを集めて土を掻いて描いた魔法陣の上に重ねておき、魔力を注いで燃やす。フラッドも馬車から降りて、干し肉や果物の入った瓶を抱えてやってくる。
「おいおい、それ三回分くらいの食糧じゃないか」
「ワシは食べる量がそもそも違う。人間の一回分なぞスープ一杯くらいぞ?」
「だからって……はあ、いいよ。わかったわかった、好きにしなよ」
これでも我慢しているほうだ、と堂々な態度を取られてエイリアはがっかりする。偉そうに給金も出すなどとのたまったが、実際のところ懐事情は寂しいものだ。野生動物のほうがよく肥え太っているのではないかと思うような状態にもなりかねない。
(どこかで魔物でも狩って食料を確保しながら、安い給金で彼女を連れ歩く方法を考えておかないとな……せっかく手に入れた魔物の仲間なんだ、手放すなんてありえない)
干し肉をかじり、じっとフラッドを見つめる。魔物のわりには無邪気で人間に対する敵愾心のようなものも感じられず、彼女自身が言う通り野蛮さも見られない。とはいえ怒らせれば厄介だ。オーガという種族は特別な能力を持たないかわりに身体能力が異常なまでに高いことは、過去に何度も戦ってきてよく理解していた。
「……ねえ、フラッドって甘いもの好き?」
「む。果物のことなら当然好きじゃが」
「いや、クッキーとかパンケーキだよ。食べたことないの?」
「知らぬ。……聞いた覚えもないのう、美味いのか?」
「ああ、とびきり甘くてほっぺが落ちるみたいに美味い」
「まことか! ううむ、楽しみになってきたのう!」
さきほどから熟れた桃やぶどうを好んで食べているのを見て、きっと甘いものが好きなのだろうというエイリアの予想は当たった。聞いてすぐに食いついてきたので、これなら彼女の機嫌を取るのも容易かもしれないと悪い考えが頭に浮かぶ。
「雨が上がったらカカロ村に出発だ。着いたら真っ先に奢ってあげよう」




