平和な学校生活(午前)
(はぁ…マジかよ、フレイルデビルなんて滅多に現れないのに、よりにもよって授業中に現れやがった。)
俺はすぐさま机に伏せて自分の体内に精神を集中させる。
勉強の時以上に集中したので、すぐに先生の声や周りの雑音が聞こえなくなった。
俺は己に内在するエネルギーとソウルを融合させる。これが中々精神力を使うのだ。
(…行けそうたな。)
エネルギーとソウルの融合が完了し、俺はその混合物質を体外に放出する。
(ふぅ…なんとか上手くいったな。)
自身の肉体から離れ、空中からクラスを見渡してみると皆んなちゃんと授業に集中していて、俺や魔物のことには気付いていないようだ。
まぁ気付いていたら大問題だけどな。
今の俺の姿も幽体離脱状態なので一般人には見ることはできないのだ。
(つーか皆んな復習問題解いてるな…俺も早く戻ってやろう。)
俺はフレイルデビルめがけて突進しながら光刃を作り出し、ヤツの首を攻撃した。
しかしフレイルデビルは俺の存在にいち早く気付き、攻撃を避けようと体を反らせてしまう。
その結果元々ヤツの首元を狙った攻撃なのに的が外れて光刃は首ではなく左腕に当たってしまう。
「くそ、まずい!」
魔物の左肩はスパッと切れたのだが、フレイルデビル状態で痛みを感じないらしい。
ヤツは怯むことなく首を伸ばして俺の腕にかぶりついてきた。
「ぐっ!」
俺の左腕は魔物に食われてしまった。
(痛い!訳無いか…)
俺の方も幽体離脱状態だ。当然痛覚受容器や神経細胞といったモノもないわけで、痛みを感じることはない。
しかし俺の腕を食らったフレイルデビルは以前より少し大きくなった。
今の俺の身体はソウルとエネルギーの塊だったためにそれを食らったフレイルデビルの力が増したのであろう。
(くそったれ…あれ?これ俺の魂の一部も一緒に…)
「このヤロー!」
俺はフレイルデビルの首めがけて光刃を投げつける。
魔物は予想通り残った方の腕で首を守った。
「ニヤリ」
光刀は魔物の右腕に突き刺さった瞬間に大爆発を起こした。
光刃は俺の意志で爆発させることができるのだ。
こうして魔物は両腕を失って反撃できる状態ではなくなったので俺は心置きなくヤツの首を掴んでへし折った。
魔物はしばらくビクビク動いていたが、そのうち動かなくなった。
俺は魔物の息の根を止めた後、身体から闇エネルギーを分離させてヤツの死骸を消去した。
(俺魂食われたけど、大丈夫かな…まっいいか。)
変なところでずぼらな俺はまぁ何とかなるだろうと開き直り、自分の身体の中へと戻った。
「ふぅ…」
肉体に魂が戻り、ゆっくりと上半身を机から起き上がらせる。
俺はすぐに授業に戻ろうとしたが、幽体離脱した魂を体内に取り込んだ際、魂と身体の結びつきに誤作動が起きたようで、頭がクラッとしてめまいが生じた。
(あちゃちゃ…)
俺は片手を目に当てて、しばらく安静にする。
「よーし、今説明した事を用いて問題集109頁の問題3解いてみろ。」
「え?」
時計を見るとフレイルデビルがやってきてから、5分ほどしか経っていなかった。
(たかだか5分で問題集を6ベージも進めるか普通?すげーなこのおっちゃん。)
授業時間は後5分程度、5分の遅れを取り戻すためには他の生徒の2倍の速度で問題を解いていくしかない。
(普通の生徒なら諦めてるところだな…よーしなんかやる気出てきたぞ!やってやろーじゃねーかー!!!)
そして5分後1限の終わりを知らせるチャイムが鳴った。
「よーし今日はこれで終わりだ。乙!」
数学の教員がクラスから退出する。
(何とか間に合ったー!)
1限から頭をフル回転させたせいで非常に疲れた。
「ようシュウヤ。どうしたよ、まだ1限だぜ?なんか魂抜けたみたいな顔してるけど。」
俺が遠くの景色を眺めていると、ノゾムが話しかけてきた。
「まぁ、色々あってな…アハハ」
(実際さっき魂抜いたけどね。)
「ノゾムは数学得意だもんなー。よくまぁあのおっちゃんのベースに余裕でついていけるもんだ。」
俺がそうおちょくるとノゾムは若干イラッとしたような顔で言った。
「あのね、普段の数学の定期テスト、俺いっつも学年2位なんだけど毎回誰に負けてるか分かってる?」
「はい、ごめんなさい。」
自慢ではないが数学の定期テストにおいて俺は学年1位以外を取ったことがない。数学だけは得意なのだ。
「でもまぁ、俺とお前に大差はねぇよ。」
俺達がそんな話をしていると、教室の端の方からある人物が俺の机までやってきた。
「ちょっと!」
「は、はい。何でしょうか。」
フユミだ。
なんだかご機嫌斜めなご様子。
(なんで怒ってるの?俺なんかした?…ダメだ、この前の手紙の件以外何も思いつかない。)
「あなたさっきの数学の授業の最後の方居眠りしてたでしょ!高校生なんだからちゃんと勉強しなさいよ!」
予想に反してフユミの不機嫌は俺が授業に集中していなかったことが原因らしい。
「あぁ、ちょっと色々あってさ…あはは」
(つーか俺のこと見てたんかい!俺が幽体離脱してたのって5分くらいだよね?)
「そーやってヘラヘラして!見損なったわ、ふんっ!」
プンプンと怒ったフユミは自分の席に戻っていった。
「ありゃりゃ行っちまったよ。」
(他にも普段から居眠りしてるやつ居るのにな…)
そんな俺の光景を見て、ノゾムがニヤニヤしながら俺の肩を叩いて言った。
「お前、フユミさんに気に入られてんじゃね?」
「おいおい、そんなことあるわけねぇだろ。」
どうこうしているうちに2限の始まりを告げるチャイムが鳴った。
「おっと時間だ。じゃな!」
ノゾムが自分の席に帰って行き、1人になった俺は小さなため息をないた。
(なんだか最近疲れることが多いな。)
その後、午前中の授業を全て終えて昼休みの時間がやってきた。
「よーし食うぞー!今日はなんだか疲れたからたっくさん食うぞー!」
「なら食堂でも行くかい?今日は1年に1度の食べ放題イベントがあるらしいよ。」
「マジで!?よーし行こう。」
食堂に行くことが決定すると、何故かノゾムは「ホイ来た」と言ってフユミの席へと歩いて行った。
「え?3人で食事?」
「そうそう、今日は食堂でイベントがあるんだよ。」
2人は俺を置き去りにして何やら話し込んでいる。
俺も会話に混ざりに行こうかとも思ったが、さっきの1件でフユミは俺にイライラしているのでここは大人しくしておこう。
「なんで私なんかを誘うの?」
「いや、フユミさんに期限を直してもらおうと思って。」
ノゾムは半分ニヤついた顔でそう答えた。
「何か裏があるみたいね…それに私今日はお金持ってきてないのよ。」
「それならシュウヤに払わせればいいよ。さっきフユミさんを怒らせたお詫びでさ。…それと」
ここまで言うとノソマはそっとフユミの耳元で俵にも聞こえないような小さな声で呟いた。
「シュウヤに近づくチャンスだよ?」
その言葉を聞いた瞬間、フユミの顔が茹でタコのように赤面した。
「な、なにバカなこと言っているの!?」
シュウヤ(急に大きな声出してどうしたんだろう?)
突然のフユミの大声に周りの生徒達も怯えたような反応をする。
「あっ…」
フユミはしまった…とでも言いたげな表情を浮かべてノゾムの手を引っ張りながらクラスから出て行ってしまう。
「2人でどこ行くんだ?」
(ノゾムがフユミに告白でもしたのかな…)
〜誰もいない階段〜
フユミは壁にノゾムを押しつけて強めの壁ドンをした。
「さっきはよくも皆んなが居る前でふざけたこと言ってくれたわね。」
「いやいやいや、誰も聞いてないって。」
「笑い事じゃないわよ…」
フユミはヘラヘラと笑うノゾムの胸ぐらを掴みながら恐ろしく低いトーンでそう言った。
「んぐ、ごめんなさい…許して」
ノゾムが謝罪を入れるとフユミは「たくっ」と言ってノゾムを放した。
「はぁはぁ…でもさ、なんでフユミさんはツンデレを演じてるの?」
「それはシュウ、、、って何言わせるのよ!」
フユミはとっさに自分の発言を取り消そうとしたが、ノゾムは今の短い文脈からフユミの本心を読み取ってしまう。
「そっか、シュウヤはツンデレが好きなのかぁ。」
「なっ…」
ノゾムの一言にフユミは言葉を失ってしまった。
その態度こそがノゾムの考えが正しいことを証明してしまっているのでもう誤魔化すことはできない。
「いつから気付いてたのよ…」
「んー、入学の3ヶ月後くらいからなんとなーく?」
「そんなに前から!?あわわわわわわわ」
フユミは両手を顔に当てて真っ赤に赤面した。
(可愛いな。)
「で、どうする?もしかしたら面白がった俺が口を滑らせちゃうかもよ?」
「わかった行く、行くわよ!」
(この悪魔!)
「そうこなくっちゃ!」
(僕は天使だよ。)
5分ほどして2人は教室に帰ってきた。
「ごめん、お待たせー。」
「…」
何故かノゾムはフユミを連れて俺の席までやってきた。
「お、おう…フユミも一緒に行くのか?」
「ぇ…」
(ちょ、ちょっと!話つけてきたんじゃないの!?)
「そ、そうなんだよ!お前さっきフユミさん怒らせちゃっただろ?飯でも奢って仲直りしな。」
(順序が逆だったな…)
「あっそう言うこと…それじゃあ早く言って席を確保しようぜ。」
(2人の会話を全く聴いていなかったので、訳がわからないが、まぉいいか。)
こうして俺達3人は食堂へとやってきた。
「これはすごいなぉ。」
「席残ってるかしら。」
食堂には既に多くの生徒が食事を楽しんでおり、そこはまるでパーティー会場のように盛り上がっていた。
「じゃあ俺は空いてる席を探してくるから2人は先に注文を済ませておいて。」
そう言ってノゾムは席取りをしに旅立って行ったので、俺達は先に注文を済ませることにした。
「あったあった本日限定全品食べ放題券、フユミもこれでいいか?」
「えぇ。」
(シュウヤ君と2人っきりだなんて緊張するなぁ。もう!ノゾム君め、これを狙ったな。)
フユミは低いトーンで素っ気なく返してきた。
(やっぱりまだ怒ってるんだろうな。)
俺達は気まずい雰囲気のまま調理師のおばちゃんの元へとやってきた。
「いらっしゃい!」
「どうもっす。」
(相変わらず元気な人だな。)
この人の料理はどれも美味いので毎回い何を注文するか悩んでしまう。
「えーと、カレーライスで。」
「私はサケのホイル焼き定食でお願いします。」
「はいよ!ちょっと待ってておくんな!」
こうして訪れた待ち時間に俺はフユミに謝罪を入れておくことにする。
「なぁフユミ、さっきはごめんな、不快な思いさせちまって。」
「突然どうしたの?」
フユミは何のこと?とでも言いたげな反応をしてくる。
「本当はさ、なんで俺だけがこんなに怒られるんだ?って疑問に思ってた。」
「そう。」
「でも本当は居眠りしてたわけじゃないんだ。詳しくは説明できないけど。」
「別にもういいわよ、気にしてないから。」
フユミは俺から顔をそらせてそう言った。
きっとわかってくれたのであろう。
「わりーな。」
「ふん。」
(本当は私達を守るために戦ってくれてたんだよね…性格の悪い女を演じるためにあんなこと言っちゃったけど、胸が痛いなぁ。)
俺達の間に再び沈黙が流れる。
「はいお待ち!カレーライスとサケのホイル焼き定食ね。」
「「ありがとうございます。」」
どうこうしている間に料理が出来上がったので俺達はオボンを持ってノゾムを探した。
「おーい!2人ともこっちこっち!」
「お待たせ。席録れだんだな。」
「あぁ、中々いい席だろ?じゃ俺も注文してくるよ。」
ノゾムは丸い形の3人テーブルをとっていてくれた。
「よいしよっと。」
「…」
俺達は席につき、ノゾムの帰りをじっと待つ。
(なんかめっちゃ気まずいんだけど、ノゾム早く帰ってきて〜。)
(せっかくの機会だし、シュウヤ君と何かお話したいな…)
とても気まずそうにするシュウヤと中々前に進めずにモジモジとしているフユミ
「クスクスクス」
そんな2人を柱の陰からじっと見つめる男
(あのヤロー、あれで隠れたつもりかよ。)
(おっとシュウヤにはバレてるみたいだね。)
俺は少し呆れた顔でノゾムを睨みつけてさっさと注文して来いと訴える。
(ハイハイ、買って参りますよ。)
ノゾムは今度こそおばちゃんの元へと歩いて行った。
(ふぅ…人で遊びやがって)
「ねぇ…」
「は、はい!」
今まで沈黙を貫き通していたフユミから突然話しかけられた。
とても気まずい状況下で不意打ちを喰らったためについ声が裏返ってしまった。
「この前埋め合わせしてくれるって言ってたけど、何をしてくれるのかしら?」
「あ、あぁ駅前に出来たクレープ屋さんってのはどうだ?」
「え!?あの美味しいって評判のハッピークレープっていうお店?」
フユミは目を輝かせて話に食いついてきた。
「お、おうそこで好きなクレープをご馳走するつもりだ。」
「じゃあその後駅内にあるゲームセンターに行きたい!」
(人が変わったようにグイグイくるなぁ…)
「了解。じゃあ今度の日曜日、朝9時からでいいか?」
「うん!」
フユミはとても嬉しそうにしてくれてる。
どうやら機嫌を治してくれたようで何よりだ。
「よっ!お待たせー。楽しそうですなお2人さん!」
俺達が話に盛り上がっていると、いつのまにか料理を持ったノゾムが帰ってきていた。
ノゾムは机にオボンを置くと、すぐさまの元へとやってきて肘を押しつけてくる。
「よーシュウヤ、話聞こえたぜ、デートなんて羨ましいぞ、このこの!」
「デートってお前なぁ…」
「ノゾム君、早く席に座っていただけるかしら。」
フユミは恐ろしく冷たい目でノゾムを睨み付けていた。
「はい…」
「あはは…」
あまりの怖さにこちらの背筋まで凍ってしまう。
「と、とりあえず!皆んな揃ったところで」
「「「いただきます。」」」
気を取り直して俺達は昼飯を頬張った。
〜40分後〜
「「「ご馳走さまでした。」」」
「ふぅ〜食べた食べた。」
結果として俺はカレーライスにラーメン、チャーハン、唐揚げ、天丼と食べに食べまくった。
「お前…ほんとよく食べるよな。」
「普段から運動量は多いし、いつもはオニギリ2個とかだからこういう日くらいは食べとかないと。」
それにノゾムの方もカレーライスに親子丼、麻婆豆腐にカキフライと結構食べている方だ。
すると俺達の完食した皿の「ょうを見て、フユミはどう驚いたような顔で問いかけてくきた。
「男の子って皆んなそんなに食べるの?」
「人によるね、俺らは結構食べる方。」
「そう言うフユミはあんまり食べてないな。」
・サケのホイル焼き定食
・フルーツの盛り合わせ
「私はこれで十分なのよ。」
「そっか。」
よくよく考えてみれば、女の子は体重などをよく気にする生き物なのでフユミのアレも中々食べた方なのかもしれない。
「それにしても美味しかったなぁ。これで午後も頑張れるぜ。」
「そういえば、5限は体育だったわよね。急ぎましょ!」
「そうだな。」
そうして俺達は急いで食堂から退出した。
お疲れ様です。
ここ最近編集ばかりでストーリー進めずに申し訳ありません。
今回の部分も編集していったら長くなってしまったので午前と午後に分けることにしました。
午後のかいも編集が終わり次第投稿いたしますのでよろしくお願いします。
(ぶっちゃけ言うと終わりが見えない笑笑)