暴走する闇の力
「うわあああ!」
ノゾムの死を前にシュウヤの心は強い怒りと憎しみに囚われてしまう。
(何故だ!何故ノゾムが犠牲になった!)
するとシュウヤの体内深層部に封じ込められた闇の創造主がシュウヤに問いかける。
<そんなにこの世界が憎いかい?>
(憎い…親友を死に追いやったこの世の全てが憎い!)
<なら全てを壊してしまえばいい。>
怒りや憎しみといった負の感情を好物とする闇の創造主は間接的に破壊や殺戮といった行為も好んだ。
しかし今はシュウヤの体内に封印されているので、代りにシュウヤを闇に引きずり込もうとする。
<君が望むのなら僕の力を分けてあげよう。>
(欲しい…奴を、親友を殺した魔物を消し去るだけの力が欲しい!)
シュウヤが闇の力を求めた瞬間、闇の創造主を封じ込めていた扉の封印が弱まった。
<伝わってきたよ君の思い。約束通り僕の力を少しだけ分けあげよう。>
闇の創造主は封印が弱まって少しだけ開いた扉の隙間から自身のエネルギーをシュウヤの体内に放出した。
<さぁ、好きなだけ暴れなよ。>
闇の創造主から分け与えられたエネルギー量は普段シュウヤがコントロールしている闇エネルギーより遥かに強いものだった。
それはシュウヤが抑え込めるエネルギー量をも超えていたため体内で許容できなくなり、闇エネルギーが下界に漏れ出した。
やがてその闇エネルギーはシュウヤの全身を覆い尽くし、黒いオーラとなって完成する。
<ふふふ、よくできました。それじゃあ闇に落ちたご褒美をあげよう。>
闇の創造主は新たに己のエネルギーを下界に放出させた。
そのエネルギーはノゾムの体内に入り込み、彼の身体を蝕んでいた魔物の闇エネルギーを消滅させた。
その後闇エネルギーは物質を闇に沈める効力を失い、ただのエネルギー塊に変質する。
それはノゾムの平滑筋や神経細胞、内臓などを栄養し、生体機能を保持する役割を担った。
「ん、んん…」
<これで君の望むものは全て与えたよ、さぁ僕を楽しませて!>
「…」
シュウヤはまるで暴走したE初号機のような歩き方で一歩、また一歩と魔物に歩み寄る。
シュウヤの突然の凶変に魔物は動揺を隠せずにいたが、その内やけになって両の腕に氷のエネルギーを集めた。
かなりの力を込めたようで氷のエネルギーはみるみるうちに巨大化する。
そうして作り出された巨大な氷刀を手に魔物はシュウヤに斬りかかる。
「…」
シュウヤはその攻撃をかわそうともせずにスッと片手を前に突き出し、魔物の一太刀を難なく受け止めた。
今のシュウヤは心身共に闇に包まれているので、闇エネルギーをその身に宿しているのではなく、彼自身が闇エネルギーとして機能する。
したがって光と闇以外の能力はシュウヤに触れた瞬間に消滅する。
魔物が渾身の力で作り出した巨大な氷刀もシュウヤに受け止められた瞬間闇に包まれ、形を失って消滅した。
魔物は氷刀という武器を壊されてエネルギー攻撃は通用しないと本能で察し、すぐさま物理攻撃で追撃する。
それらの攻撃は全て命中したものの、シュウヤは微動だにしなかった。
魔物は再度右拳を振り切ったが、今度はシュウヤの左掌に受け止められてしまう。
シュウヤは左手で掴んだ魔物の右腕を引っぱり、右手で魔物の腹部を殴りつける。
それがよほど効いたようで、魔物は腹部を押さえて前屈みになった。
シュウヤは右腕で魔物の頭を掴んだまま左手で腹部を何度も殴った。
腹部に拳がめり込むたびに魔物の顔は歪んだ。
魔物はシュウヤが拳を振りかぶった瞬間に頭部を横蹴りし、掌から脱出して距離をとった。
「はは…ははは」
しかしその攻撃は全然効いてないようでシュウはまるで悪魔のような笑みを浮かべながら魔物にゆっくりと近づく。
魔物はこれならどうだと闇のエネルギーを両手に集め、シュウヤに向けて勢いよく放出した。
<無理だよ、その程度のエネルギーで彼を消し去るのは。>
闇の波動は瞬く間にシュウヤを飲み込んだ。
魔物に内在する闇エネルギーを限界まで使用した一撃だったために攻撃範囲は広く、広大な面積が闇に包まれた。
技の発動後、辺りには何も残っておらず、シュウヤを消し去ることができたと高を括った魔物は勝ち誇ったようなツラで高笑いした。
しかし魔物が高笑いしている最中、嫌な音と共に魔物の腹部からシュウヤの腕が現れた。
シュウヤは魔物の背後に回り込んでおり、右腕を突き刺して背部から腹部を貫通していた。
激しい痛みによって魔物の青が歪む一方でシュウヤは不適は笑みを浮かべている。
身体を貫かれて相当ダメージを負ったのか魔物は腕を引き抜かれた後、力なく地面に倒れた。
「はははっ!」
シュウヤは地面に転がった魔物の両腕と両足を引きちぎり、敵の身動きをとれなくしたところで体幹部を貪りながらその身体を解体していった。
そんな中、外部からエネルギーを与えられてなんとか意識を取り戻したノゾムがその異様な光景を目の当たりにする。
「シ、シュウヤ…」
普段友達思いで優しく、それでいてどこかアホなシュウヤが今はまるで悪魔のような姿に変わり果ててしまった。そのあまりのギャップに戸惑いを隠せない。
しかし感の良いノゾムはシュウヤの激変は自分が戦闘に巻き込まれて大怪我を負ったことに由来することを直感で悟った。
(シュウヤ、ごめん俺のせいで)
そんなノゾムの気持ちなど知る余地もなく、シュウヤは解体を進めていく。
魔物の腹部から入って胸に上好し、最終的には頭部を解体した結果、その魔物のコアを発見する。
魔物は他の生き物にはない固有臓器であるコアを体内に所有している。
コアは魔物が生きていく上で最も重要な臓器で、魔物によって存在する場所が異なる。
コアは生命維持のためのエネルギーと能力解放のエネルギーの両方を生産する核で身体の全ての機能を司る。
(能力解放エネルギーは100%がコアに由来するのでコアが破壊されると能力を発動することができなくなる。しかし生命維持のエネルギーは他の臓器や組織で代行することができるので、コア1つのみを破壊しても魔物を殺すことはできない。)
シュウヤは魔物の脳の近くに存在していたコアを抉り取るとそれを丸飲みした。
コアは魔物が使用していた闇エネルギーを生産する核である。そのためかシュウヤに取り込まれた瞬間に彼の闇エネルギーと結びついて調和し始める。
エネルギーの調和が完了すると、シュウヤはみるも無残な魔物の死骸から数歩離れ、魔物の存在する空間に闇エネルギーを集めた。
それはやがて小さなブラックホールとなって魔物を飲み込んでいった。
<もう終わりか、まだまだ物足りないなぁ…>
闇の創造主は闇エネルギーを遠隔操作し、それに包まれているシュウヤの身体を操ろうとする。
<さて、魔物の次元にでも直行しようかな。>
シュウヤは闇の創造主のあやつり人形となって、動き始める。
しかし
「シ、シュウヤ…」
学校から立ち去ろうとしていたシュウヤをノゾムが呼び止めた。
<あら、さっきの人間、もう意識を取り戻したんだ。>
シュウヤはノゾムの方へ向き直り、彼の元へ歩みを進める。
「シュウヤ…もういい。」
ノゾムは闇に囚われたシュウヤを必死に連れ戻そうとする。
自分が身代わりになって深傷を負ったことが原因でシュウヤが闇に囚われたのであれば自分が無事であることをシュウヤに伝えれば元に戻ってくれると考えたからだ。
しかしシュウヤはノゾムのことなど覚えてないかのように闇エネルギーを解放する。
<あーあ、せっかく助けてあげたのに。>
シュウヤは闇刀を作り出し、その矛先をノゾムに向けた。
「やれよ、元々お前に拾われた命…お前に消されるならなんの文句もない。」
「ん、くっ…」
シュウヤはビクビクと闇刀を震わせながらゆっくりと振りかぶる。
「さぁ、やれよ!親友を殺してお前の闇が晴れんならな!」
ノゾムがそう叫んだ次の瞬間シュウヤの身体の動きが停止した。
「くっ…ノゾ、ム」
シュウヤは闇刀を手放し、頭を抱えて苦しみだす。
<これは…>
「ぐ、ぐあぁぁ」
シュウヤを包んでいた闇が次々に消えていく。
<やれやれ…>
シュウヤの体内深層部に封印されたもう1つの存在は光のエネルギーをシュウヤに送り込み、彼を覆っている闇を中和させた。
闇がはらわれたシュウヤは気を失い、その場に倒れた。
<まさか僕の力がかき消されるとはね…>
数十分後、瀕死状態だった2人は現場に駆けつけたNEOのメンバーに救出され、アジトへと運ばれた。
2人はすぐに手術室に搬送され、治療系能力を持つ能力者達によって緊急手術が行われた。
4時間後手術は無事に成功し、2人は命を取り留めた。
〜現在〜
「あの時は驚いたな。
まるで何がの漫画みたいな体験だったよ。」
2人で1年前の事件を回想していると、ノゾムが唐突に話し出した。
たしかに一般人には到底理解の及ぶ世界ではないし、漫画やアニメみたいだという意見には反対しかねる。
仮に一般人達に世界の実態を伝えたとしてもその全てを理解し、受け入れてくれる人間は少ないだろう。
しかし、光輝く強大なメガネの少年が言うように真実はいつも1つだ。
「皆が知らないだけで世の中そんなもんよ。」
「俺も1年前までは何にも知らなかったけど、今思えば怖いもんだよな。」
「そうだな。」
ノゾムの言うように人間にとって今まで自分の知らなかった世界を突然知ってしまうのはとても怖いことなのだ。
アニメや漫画などでは平凡だった主人公が新しい世界をに飛び込んで生活が激変し、その世界で大活躍するというシナリオのモノをよく耳にする。
しかしあれは2次元方面に限った話で、現実世界において楽しいことなど何1つもない。
むしろ人間が人間らしく生活していくためには闇のままにしておかなければならない真実というモノがある。
どんなに怖い物事や事実が存在していようともそのこと自体を知らなければ大した問題にはならないのだ。
「できることならノゾムやユミには何も知らないまま生活して欲しかったよ。」
そう、何も知らない方が幸せなことだってあるんだ。
「ユミちゃん、何の能力も持ってないといいな。」
「あぁ。」
俺達がシリアスな話を展開していると、ホームルーム開始のチャイムが鳴った
「おっともう時間か。じゃあまた後でな。」
ノゾムは俺に手を振って自分の席に戻っていった。
今日もまた従業が始まる。ユミの事が気になりはするが、今は勉強に集中しよう。
(数学か〜頑張ろう!)
俺は気合を入れて数学の教科書を開く。
(へぇ、今日の範囲は空間ベクトルか…懐かしいな。)
5年前ほどに父さんから教科書を借りて自習したところの範囲だ。
ユークリッド、スカラー、ハミルトンと次々に懐かしい用語が出てくる。
クラスの連中は何じゃそりゃ?といった感じの反応をしていた。
そんなに難しい単元ではないのだが…これをいうと他の人間に睨まれそうなので心に留めておく。
「じゃあ練習問題やるぞー。」
クラスの大半(えぇー!?)
シュウヤ(聞こえる…心の声が。)
その日はベクトルに関する問題が10問出題され、教員が適当に決めた10人の生徒がそれぞれ1問ずつ解答することになった。
生徒の1人(んー、わからねぇ。まぁどうせあてられないし、いっか。)
「じゃあ1問目をお前、やってみろ。」
「うげっ!」
俺はつい影でクスクスと笑ってしまった。
(ザマァ、絶対あいつ俺はあてられないから大丈夫とか思ってただろ。)
〜5分後〜
「すみません…よく分かりませんでした。」
その生徒は先生に指名されて少しの間必死に考え込んでいたが、解ける気配はなく、正直に白旗を振った。
「うむ、ここら辺は難しいからな。家でよく復讐しておけよ。…じゃあシュウヤ代わりにやってみろ。」
(マジかよ…影で笑った罰かな。)
俺は先生に言われるがまま問題を解答する。
「よし、正解だ。流石学年トップだな。」
「ど、どうも。」
俺は難なく問題①に正解し、自席に戻る。
その後⓶はフユミ、③はノゾムが解答し、2人ともあっさり問題に正解した。
(やっぱりあの2人は圧巻だな。)
俺はもう自分に解答権が回ってくることはないと油断して高みの見物をかましていた。
しかし
問題⓸
「違うなぁ、シュウヤ答えを教えてやれ。」
「!?…は、はい。」
問題⑤
「正解だ!」
問題⑥
「んー、間違ってるなぁ、シュウヤ!」
「ほ、ほい!」
問題⑦
「いいぞ、正解だ。」
問題⑧
「お見事!」
問題⑨
「惜しいなぁ…よしシュウヤ!」
「…」
問題⑩
「シュウヤァ〜」
「先生!なぜ僕は集中攻撃を受けているのでしょう。」
「ほれ。」
俺が理由を尋ねると先生は黒板の右端を指さした。
日直 シュウヤ
「あっ…でもそれだけ?」
「他にもあるぞ?今日の月と日を足すとお前の出席番号になる。」
「月と日?」
(…あっマジだ)
先生の言う通りたしかに俺の出席番号と合致した。
(なんていう偶然)
「まぁ今日問題を解かせるのはこれが最後だから頑張れ。」
「イ、イェッサー…」
こうして俺は1日で5問も問題を解かされるハメになった。
練習問題解答後も授業は進んでいき、開始から40分が経とうとしていた。
しかしそんな中クラスに不穏な気配が発現する。
(おいおいまじかよ…)
昼間に、よりにもよって俺のクラスに魔物が現れた。
魔物は本来夜間、日の光がさしていない時間でないとベテルにやって来ない。
魔物の特性として日の光に弱いためだ。
だが自らの力を極限にまで抑えることで日の光を浴びても活動できるようになる。
しかし、それは言わば魂だけの状態なので一般人が目にすることはできない。
そして魔物側も人間を食らうことはおろか物に触れる事すらも許されない。
このような状態の魔物をフレイルデビルと呼ぶ。
フレイルデビルの意義としてどの場所に人間が多く存在するのかを下見に来ているのだと考えられている。
「はぁ〜」
俺の昼間の仕事がはじまった。




