仕組まれた罠
<レミア、サラノーセにはまだつかないのか?>
<この森を抜けたらすぐそこよ。>
国を出てから約4分、俺達は超がつくほど広大な森を駆け抜けていた。
王国内ではきっと今頃、魔物同士の戦闘が繰り広げられていることだろう。
しかし俺の身体に何も異変が無いと言うことは現時点では向こうも上手くやってくれているみたいだな。
しかし敵も力を増しているので決して油断はできない。
故にこちらは一刻も早くリーサちゃんを奪還して国に戻る必要がある。
(待ってろよ、リーサちゃん。今行くからな。)
しかし早くリーサちゃんを救い出して国に戻らなければいけないという気持ちとは裏腹に、もし黒いマントの奴が現れて俺がまた闇に落ちたらどうしようかという緊迫感も同時に俺を襲ってきた。
<ほらシュウヤ、あそこが出口よ!>
どうこうしている間に森の出口が見えてきた。
もう敵の本拠地は目の前だ。
俺は必死に己の中の雑念を追い払おうとする。
(えぇい、ぐちぐち考えてんじゃねー!どの道後戻りは出来ねーんだ!)
森を抜けると目の前に想像以上にデカい山が姿を現した。
<ここにリーサちゃんがいるのか?>
これだけデカい山だと、この中にリーサちゃんがいたとしても探し出すのに時間がかかってしまうのではないかと心配したが、次の瞬間どこからともなく何者かの声が鳴り響いた。
ソノトオリデス。
その声はサラノーセ全体から発せられているような感じで、その音源がどこにあるのか特定することは出来なかった。
俺の感じ取れる範囲には魔物の気配もせず、敵の正体がいまいち掴めない。
だが、それは紛れもなく俺の頭にささやきかけて来た奴の声そのものだった。
<隠れてないで姿を現しやがれ!>
俺がそう叫ぶと急に天候が怪しくなり、俺達のすぐ目の前の山道に落雷が落ちた。
<んぐ、>
その瞬間、強い閃光が生じ、一瞬目を閉じてしまう。
しかしすぐに明順応が起こり、光の中の様子を伺えるようになってきた。
そうしてあたりを見渡すと、稲妻の落ちた場所に一体の魔物が立っていた。
<ごきげんよう。>
この魔物は元反乱軍のリーダーで、現在戦闘慣れしていないリーサの身体よりは力を発揮できると悟った生命の神が乗り移っていた。
単純に理性を抜き取られた魔物達とは違い、リーダー本人は既に死んでいる。
生ある者の身体をのっとって支配しているわけではないため、より正確に思うがまま操ることができる。
本当の意味で生命の神の操り人形と化しているというわけだ。
<あんた、リーサはどこ?>
<ぉ嬢さんなら、サラノーセの頂上にいますよ?>
レミアはすぐさま空中に舞い上がり、サラノーセの山頂を目指そうとする。
しかし
<お待ちなさい。>
その魔物は掌から無数の炎を放出して、レミアの進行を妨害した。
<くっ、>
<あなたはここで私と戦ってもらいます。>
どうやら敵の目的はレミアらしい。
とりあえずあの魔物の身体の中にいる奴が何者かは知らないが、相当な強さの持ち主であることは間違いないな。
<そうそう、あなたは人間のようですが、今人間には何の用もありません。消えなさい。>
<なんだと…>
俺がエネルギーを解放して光刀を作り出そうとすると、レミアが俺の前までやってきて小声で話しかけて来た。
<ここは私に任せて。>
どうやらレミアは奴とやるつもりらしい。
<気付いてるとは思うが、あいつかなりの強さだぞ?元の魔物だった頃とは桁違いのな。>
<分かってる、でもあいつは多分、理性を失った全ての魔物の仇、だから私にやらせて。>
レミアの声のトーンや態度、感じられるエネルギーの質から、頭に血が上るほどの怒りを感じているのがよく伝わってくる。
ここはレミアに任せることにしよう。
下手な行動をとったら俺までやられかねないからな。
<分かった、ここは任せる。リーサちゃんは俺に任せてくれ。>
<うん、お願いね。>
俺とレミアは一瞬だけアイコンタクトを交わす。
そして次の瞬間、俺はサラノーセの入り口へ、レミアは魔物に向かって突進した。
<ハァー!>
レミアは右の拳を思いっきり握りしめ、魔物の左頬を殴りつけた。
<ぐっ、>
強烈な一撃をもらった魔物は森の中へ吹き飛ばされ、レミアもそれも追って森の中へ入って行った。
(気を付けろよ、レミア。)
その光景を横目に俺はサラノーセの中に突入した。
〜森の中〜
<中々やりますね。流石にダメージを負ってしまいましたよ。>
とは言うものの生命の神は平然と立ち上がり、砂埃を払った。
<そんなものじゃ無いでしょ?一騎討ちに出し惜しみは無しよ。>
<これは失礼。では私もその気になるとしましょうか。>
そういうと、生命の神は己の能力を解放させる。
反乱軍を壊滅させた能力とは異なり、自らのエネルギーを骨格系に纏わせることによって身体能力を飛躍的に向上させた。
その後目にも止まらぬ速さでレミアに歩み寄り、腹部に強烈な蹴りを喰らわせようとする。
<はっ!>
間一髪のところで敵の攻撃の意図を見抜いたレミアは蹴りが飛んでくる方向とは真逆の方向に回し蹴りをお見舞いする。
両者の蹴りがバツ印を描きながら交差した。
<ほぅ。よく見抜きましたね。>
<空気の微妙な変化でその程度の残像なら見極められるわ。>
生命の神は足を下ろしてレミアから距離を取った。
そして呼吸を整えた後に再び高速移動で残像を作り出した。
<ふん!>
今度は魔物の姿が3つに分身した残像を作り出し、レミアを取り囲んだ。
<すー、はぁー。>
レミアはその場で目を閉じ、間合いに意識を集中させる。
そして大きく振りかぶった。
<はぁー!>
レミアは空中に向かって渾身のアッパーを繰り出した。
<ぶはっ>
レミアの攻撃は見事生命の神の顎に直撃した。
生命の神の顎を下から突き上げたと同時にレミアの周囲に作られた残像が焼失する。
<ふぅ、本当にやりますね。これは彼女も連れてきた方が良かったでしょうか。>
<何のことよ!>
レミアは敵の頭を両手で掴んで顔面に何度も膝蹴りを喰らわせた。
<ふふふふふ>
痛めつけられているというのに、生命の神は笑顔を絶やさなかった。
<キモ!>
レミアは顔面を蹴られながらもニヤニヤ笑っている敵に虫唾が走り、生命の神を岩の壁に投げつけた。
生命の神は壁に直撃し、その壁は崩れ落ちて次々に崩壊していった。
<ふぅ。>
しかしあれだけ攻撃されても尚、生命の神は平然と立ち上がる。
頭部からは大量の血液が流れ、身体の数カ所にも深い傷を負った。
魔物の身体はボロボロだが、それを操っているだけの生命の神にはそのダメージは届いておらず、神自身が痛みを感じることもなかった。
生命の神はニヤニヤ笑いながら唐突に喋り出す。
<そういえば、先程の人間があなたの妹を助けに向かったようですが…>
<それが何?>
生命の神は今までのニヤケ顔とは違う、どこか不気味な笑みをこぼしてこう言った。
<生きて戻れるといいですね。>
<!?>
〜シュウヤ視点〜
レミアと別れた俺はサラノーセの山頂のすぐ前までやって来ていた。
「もうすぐだ!」
俺は山道を抜け、山頂にたどり着く。
そこは自然のモノではなく、人工的に作られたであろう空間が広がっていた。
<なんだここ、何かの儀式部屋のような雰囲気だ。>
山頂だというのに平面状に作られた床と6本の柱、そこはまさに儀式部屋のような場所だった。
そして6本の柱の真ん中にリーサちゃんは立っていた。
<リーサちゃん!>
俺はすぐさま彼女に駆け寄った。
俺がすぐそばまで近づくと、リーサちゃんは黙って俯いたまま俺に抱きついてきた。
<ごめんな怖い思いさせて。もう大丈夫だから。>
俺は彼女を軽く抱きしめて頭を撫でてやった。
リーサちゃんはこうされるのが好きだったからだ。
<おに、さん。に、て>
<ん?>
途切れ途切れにリーサちゃんが何か言ったのだが、不覚にも聞きそびれてしまう。
<リーサちゃん、なん…!>
グサッ
俺の腹部に鋭い痛みが走った。
俺が視線をおろすとリーサちゃんの右腕が俺の腹部に突き刺さっていた。
<何…を、>
再び顔を上げて、彼女の顔をよく見ると、リーサちゃんの瞳にハイライトは無く、死んだ魚の目のようになっていた。
<に、げて。>
<!?>
次の瞬間、リーサちゃんの目から涙が溢れ落ちた。
俺はその涙で全てを悟った。
(奴の仕業か…!)
リーサちゃんが望んでこんなことをするわけが無い。
彼女は自分の意思とは関係なく、俺を襲っているに違いない。
リーサちゃんは必死に自分の身体を制御しようとするが、彼女の身体は彼女の命令を無視して勝手に動き始める。
<い、いや>
リーサちゃんの掌に雷のエネルギーが溜められ始めた。
そのままリーサちゃんは俺に向けて雷のエネルギー波を放った。
<くそったれー!>
ズドン!




