予想外の展開
(はぁ…ヤベェ、マジでヤベェぞこれは。)
今まで他人に俺の能力を見られたこともないのに、よりによってユミに見られるとは。
その上アジトへ連れて行くことになるだなんて、総帥や他の連中が何て言うか分かったもんじゃない。
(はぁ今朝からやり直したい。)
俺がいくらそう願っても過ぎ去った時間は帰ってこない。
結局アジトに向かうために使用している広間へと到着してしまった。
「…」
(ふむふむ誰も…いないな。)
「先輩、なんでそんなにキョロキョロしているんですか?」
「他の人間に見られないためだよ。」
これ以上他の一般人に能力者や魔物の事を知られる訳にはいかないので注意深く辺りを確認しているのだ。
人間が人間らしい生活を営むためには闇のままにしておかなければならない真実というものがある。
しかし俺は今日本人の望んだこととは言え、1人の女の子を闇に引き摺り込もうとしているわけだ。憂鬱な気持ちにだってなる。
「元の生活には戻れなくなるぞ?いいんだな。」
「は、はい!」
「…はぁ!」
俺は右手に光のエネルギーを貯める。
俺の右手が光輝いているせいで真っ暗な広間に明かりが灯される。
ユミはその光景を憧れの眼差しを向けるような目で見ていた。
「わぁ綺麗…」
「…」
(果たして本当にこのままユミをアジトに連れて行っていいのだろうか。)
元々不思議な力を持ち、周りから浮いて生活をしている隠れ能力者ならまだしも普通の人間をアジトに連れて行くなんて前代未聞だ。
「はぁ…」
俺はユミに気づかれないほど小さいため息を吐く。
(やっぱりあの時魔物を狩った後でユミの記憶を消しておくべきだったかな。)
というのも俺は闇の能力を使用すれば人の記憶を消去すことができる。
しかし数分単位の記憶を消す作業は困難を極め、リスクも高い。
大まかなものを消すのは楽なのだが、細いものを消す動作にはそれなりに繊細な技術が要求される。
俺はそういった細かな作業を苦手とする。力加減を間違えれば対象者の人格まで壊しかねないからな。
よくよく考えてみれば、記憶を消さなずに放置していたとしても問題はなかったかもしれない。
どうせ化け物を見た!などと言いふらされたとしても誰も信じなかっただろうし、何の証拠もないのだから。
…まぁ今更何を言ってももう遅いけどな。
(どうにかしてユミを諦めさせる方法はないだろうか。)
広間に到着後の数分間俺は猛烈に打開策を考えていた。
回転しまくる頭に反比例して身体は動きを停止していたので痺れを切らしたユミが話しかけてきた。
「先輩、この後どうするんですか?」
「ん?あ、あぁ俺が能力を解放して次元に穴を開けるんだ。」
(まてよ…次元に穴開けた瞬間に俺だけが穴の中に入り込んで次元修復すれば良くね?)
次元は人が皮膚を損傷した時のように少し時間を置けば自動的に修復される。
そのような自動的な次元修復には5分ほど時間がかかるのだが、胃能力者が能力を使った場合、10秒程で修復することができる。(次元穴の大きさによって修復時間は変動)
特に俺くらいになると3秒ほどで完全修復することが可能だ。
つまり俺1人がなんとか通れるくらいの大きさの穴を開けて、即座に次元を修復すれば、ユミは広間に取り残されるということになる。
(名案じゃん!次元修復して逃げよう。)
「…」
(先輩…何か企んでますね。)
俺が心の中でそう企んだ瞬間、左腕に絡みつくような感覚が生じた。
「え?」
左腕に視線を下ろすとユミが震えながらしがみついていた。
(…終わった。)
「おいユミ、そんなにひっつくな。心配しなくても魔物は出てこないよ。」
「…」
ユミは黙ったまま俺の腕を離そうとしない。
俺は少し腕を振りほどこうとしてみたがびくともしなかった。
(女の子って意外と力あるんだな。)
「ユ、ユミ!少し痛いからそんなに強く握らないでくれ。もう逃げたりしないから!」
「? 逃げるって何ですか?」
(逃すわけないじゃないですか。)
ユミは首を30度傾けて如何にもハテナといった感じの表情を向けてくる。
「あ、いや何でもない、何でもない。」
(打つ手なしだな。もうどうにでもなれ!)
俺は開き直ってエネルギーを解放する。
ユミは相変わらず俺の腕をロックしたままだ。
(撃ちづらいな〜)
左腕を掴まれた状態で右腕からエネルギー涙を放ち次元に穴を開ける。
「よしいいぞ入れ。」
「…はい。」
ユミは少し戸惑っている。魔物に襲われた後だし無理もない。
「大丈夫だ、この中に魔物はいない。行くぞ!」
俺はユミの手を掴み穴の中へ呼び込んだ。
「キャッ!」
勢いよく引っ張ったせいでユミは次元道への着地に失敗してしまい、2人揃って次元道から落ちてしまった。
「くっ!」
間一髪のところで次元道にぶら下がることができた。
「ホエー。危ねぇ死ぬとこだった。」
「あわわわらわわ」
俺の手にぶら下がっていたユミのポケットからハンカチが落ちる。
「わりー、俺が焦らせちまったせいで…」
「い、いえ。助かりました。」
「今落ちたハンカチみたいに次元道から落ちたら2度と戻ってこられなくなるから気をつけて。」
俺は次元道をよじ登りユミを引き上げた。
「ふぅ…少し待っていてくれ。」
俺は開いたままだった次元穴の修復を試みる。
空間に穴が開いている光景など他の人間に見られたら一大事だからな。
「ほっ…」
俺が精神を手中させ、修復能力を解放すると次元の穴は瞬く間に塞がった。
「よし、これからアジトに向かうわけだが、用心してくれ。さっきみたいなことにならないようにな。」
「…ゴクリ」
俺はユミの手を引いて次元道を突き進む。
ユミの歩行速度に合わせたのでいつもの2倍近い時間がかかってしまったが、なんとか無事にアジトへたどり着いた。
「んー…」
アジトの扉を前に俺の足がピタッと止まる。
(マジで一般人を連れてきちまった…まぁ総帥なら一思いに記憶を消去してくれるだろう。)
俺はユミをアジトの中へと招き、総帥のいる司令室へと案内した。
「総帥、失礼します。」
「おや?シュウヤ君、そちらの方は?」
「は、はじめまして。私、ユミと申します。」
俺は今夜起こった事を全て総帥に話した。
「なるほど、それで現在に至るという訳だね。」
「はい。」
(さぁ早くユミの記憶消…)
「ちょうどいい機会だ。シュウヤ君とチームを組んでもらおう。」
「へ?総帥!ユミは一般人ですよ?」
総帥の予想外の発言に俺はつい声を張り上げる。
「もちろんユミ君が能力者だった場合の話だ。」
「ユミが能力者…?」
たしかにユミが隠れ能力者であるという可能性はゼロではない。
実際に自分が能力者だと気付かずに一般人として生活している人もいる。中には己の能力に気づかずに一生を終える人も。
(しかしユミが能力者であるかどうかなんてどうやって調べるんだ?)
俺の抱いた疑問に答えるように総帥が話しだす。
「実は最近新しい異能力探知マシンが完成したのだよ。」
総帥によれば、この世には自分の能力に気づかないまま一般人として生活している隠れ能力者が数千はいると予測されている。
NEOに加盟したいという能力者は中々現れず、長年と人手不足が続いているのが現状だ。
したがって現代社会に存在する隠れ能力者を発見する必要があり、詳しくは知らないがスゲェマシンが作り出された。
そのマシンは完成したばかりで上手く作動するかは不明だが、理論上使用者の能力を引き出すことができるようだ。
詳しい仕掛けや原理はわからないが、人工的に作られた能力解放エネルギーを対象者に照射したりするらしい。
能力を引き出すマシンなので既に能力が開花している者に対しては効果を示さない。
というわけでユミのような外部の一般人が必要だったとのこと。
「しかし総帥、そのマシンを使って本当に大丈夫なんですか?ユミの身体に何か異常を来すなんてことは?」
「隠れた能力があれば引き出すことは可能だがもし何もない場合、使用後に何が起こるのかは不明だ。」
その能力解放マシンというのは安全性が確かめられておらず、一般人に対する使用例なども一切なかった。
ユミにこんな危ないものを使わせるわけにはいかない。
「ユミ、やめておけ。あまりにもリスクが高すぎる。」
「私も今すぐあのマシンを使うことは推奨しない。もう少し時を待ってからの方が安全ではある。」
「…」
ユミはしばらくの間考え混んでいたが、数分後意を決したように喋りだした。
「私やります。先輩のお役に立てるなら早い方がいいもの。」
ユミは1度決めたことは死んでも曲げない性格なので、こうなってしまったらもう俺にも止めることはできない。
「本当にいいのか?」
「はい、必ず強くなってみせます。」
「そうか…それではユミ君 この装置を頭に装着して奥の部屋に入りたまえ。」
ユミは総帥に言われた通りに装置を頭につけて部屋に入っていった。
「シュウヤ君、マシンの作用には数日かかる。ユミ君の昼間の生活についてはこちらで話を通しておくから君はもう帰りたまえ。」
「承知しました。それでは失礼します。」
今日は他のメンバーに魔物狩りを任せるらしいので少し早いが仕事を切り上げた。
俺はアジトを出て次元道を歩いている間ずっとマシンの実験結果と今後のことを考えていた。
まずはユミに隠れ能力がなく、身体になんの影響も出かった場合。
NEOの戦力にもなり得ないので、ここ数日の記憶を消去されて日常生活に戻される。
これがまぉBESTなルートだ。
次に隠れ能力が存在していた場合、俺とチームを組まされるはめになり、その後は強い魔物とばかり戦闘することになる。
最後に隠れ能力は無かったが、エネルギー照射が原因で生理機能に異常が起きた場合。
どんな異常が起きるのか予想することは難しいが、まずBADな生活になるだろう。
ざっくりだがユミの実験結果と今後の生活パターンはこの3種類が考えられる。
(結局まともなエンドを迎えられるのは最初のパターンだけか。)
「あー、心配だ。」
あの時ユミの所へ戻らなければ、こんなことにはならなかったのに。
まぁ半分以上はユミが望んでやったことなので、俺が悩んでも仕方ない部分はある。
ここまで来たら俺にできることはユミの生活がBESTなルートに進んでくれる事を祈るだけだ。




