光の始世神 ラーセ
「ここは…」
俺がふと目を覚ますと、周りの景色が変わっていた。
「あの怪物に踏み潰されてあの世にでも来たのだろうか。」
俺はまわりを見渡してみる。
デッカイ箱とその後ろにあるさらにドデカイ2つの扉…。
そこは前に1度来たことがある場所だった。
「俺の体の中か」
エネルギーが空っぽになるまで力を使ったせいか、俺は再び自分の体内へとやってきていた。
「ここが存在するってことは俺はまだ生きてるってことか?」
俺はその場に座り込んで考え込む。
(なんで俺はここにきたんだ?あの後どうなったのだろう。)
俺が考えを巡らせているとどこからか声が聞こえてきた。
「アブメンタ、ライテーン、レイラント、アテン」
「だ、誰だっ。解放とはどう言う事だ。」
何故かは知らないが俺は聞いたこともないのに、その言語の意味が読み取れた。
<我を一度解放しろ。貴様が奪われたモノ、全て取り戻してやる。>
俺はその声の持ち主を体内中探し回った。
するとその声は右側のドデカイ扉の中から発せられたモノだということが分かった。
その扉は少しだけ開いていたので俺は中を覗いてみる。
依然と同様、扉の中は光に満ちていた。
俺は目を細くして中の様子を伺う。
すると中には黄色いオーラを纏う人の姿をした何者かがいた。
<今回は特別だ。中に入ってこい。>
「中に?」
<この扉は我では開けられないのでな。>
俺は中にいる人物に言われるがまま扉を開けた。
扉はいとも簡単に開いた。
そこから漏れ出てくる光を浴びて、俺は目を細める。
やがて光に目が慣れてくると、中に居る人物の容姿が確認できた。
「お、お前は!」
そこに居たのは、11年前に見た夢で出てきた黄色い俺だった。
11年前の忌々しい記憶が呼び起こされる。
(仮にあの時の夢が現実に準えたモノだったとしたら…)
俺の心の底に微かな怒りを感じた。
「お前は11年前に故郷の村を襲った奴だな。」
<あの時の話か。信じるかどうかは勝手だが、あの時貴様の体内で起きたことを説明やる。>
黄色い俺は11年前のことについて語り始めた。
俺が黒いマントの男に鍵のようなモノを差し込まれた直後、なぜか黄色い俺のエネルギーが漏れ出し、限度を超えて俺の体に纏われた結果、俺はブラックアウトしてしまった。
そして俺は別のエネルギーも一緒に纏ってしまい、そのエネルギーに思考や考えを支配されて、そのエネルギーの思うがまま村の中で暴れたのだと言う。
「つまり、村の人達を襲うように仕向けたのは、もう1つのエネルギーってことか。」
<そうだ。>
俺の脳を支配したのがこいつではないと言うのであれば、ほかに心当たりがないわけではない。
しかし一旦体を預けろと言われても誰かも分からない奴に体を預けるのは気が引ける。
俺はまず相手の正体を探ることにする。
「お前は誰だ。」
<私の名…ふん。名など持ち合わせてはいない。とりあえずラーセとでも言っておこうか。>
名前がない。親に捨てられたのか?
「で、ラーセは一体何者?」
何もしていないのにこの威圧感、感じ取れる膨大なエネルギー。きっと人間や魔物ではない。
<我は…世の始まりを作ったモノだ。>
「…は、はぁ。」
頭の中が真っ白になってしまった。
確かアジトの資料に神々を生み出した2つの存在がいるって書いてあったな。つまりこいつは始世神ってことか?
<それと、今現在外の世界で貴様は全てのエネルギーを使い果たして気を失っている。>
そうだ。怪物との戦いで俺は力尽きたんだった。
「俺は今どうなっているだ?」
<それは体内に封印されてる我に知る術はない。だが、この空間は外の世界とは時間の流れが違う。>
ラーセが言うにはここと外界とでは時の流れが違っていて外界での1秒がここでの1時間になっているらしい。
「じゃあ、今は怪物の足が振り下ろされている間と言うわけか。」
<そうだ。何があったかは知らないがお前はエネルギーを使いすぎた。これまでにない強敵にでも出会したのだろ?>
そうだ。あの怪物は本当に強かった。そのままでも強いのにレミアのエネルギーを吸収して、さらに力を増しやがった。
「そう、俺はヤツに負けたんだ。」
<我の力の1部を使えるとはいえ、所詮は人間だからな。限界はあるだろう。>
少々イラッと来たが、実際に敗北しているわけなので反論できない。
<今回は我が力を貸してやる。一旦心も体も我に預けろ。>
俺にはもうエネルギーが残っていない。ラーセを完全に信用したわけではないが、ここは任せるしかない。
「分かった。どうすればいい?」
<私の体に触れてチェンジと叫ぶのだ。完全なる無心状態でな。>
体の支配権を握る人格の交代をするためには主人格が交代することを完全に受け入れなければいけないらしい。つまり雑念が混じると人格交代はできない。
「レミアの仇をとってくれるならこの体、喜んで差し出すぜ!」
<ほう。>
俺は目を閉じて頭の中を真っ白にする。
そしてそのままラーセに手を伸ばした。
「チェンジ!」
するとラーセは白い光に包まれた。
<ふん。中々面白い奴だ。>
そして次の瞬間、ラーセは俺の目の前から姿を消した。
〜現実世界〜
怪物はシュウヤを踏み潰そうと足を振り下ろした。
しかしそこに居たのは既にシュウヤではなかった。
ラーセは光のシールドを作り出し、怪物の攻撃を受け止める。
<スレイブが相手だったのか。主人格が勝てなかったのも不思議ではない。>
ラーセは光のシールドを形状変化させ、魔物を包み込み、そのままエネルギーごと地面に叩きつけた。
怪物はすぐに耐性を立て直し、ラーセに向かって毒ガスを噴射する。
<まさか我に歯向かうスレイブがいたとはな。>
スレイブ、それは神に奴隷として仕える存在。
ラーセは生命の神や時の神とそれらの召使となるスレイブを4匹生み出した。
ゼラファーに封印されていた怪物は4匹いるスレイブの中の一匹だった。
毒ガスは瞬く間にラーセを包み込む。
しかしその毒はラーセの体に回る事は無かった。ラーセは手を横に振り毒ガスをかき消しす。
怪物はラーセに毒は通用しないと分かり、怪物は口を大きく開き、炎のエネルギーを溜めた。
<懲りない奴め>
怪物が炎を発射しようとした瞬間、ラーセは光速でその頭の前まで移動し、炎の塊を腕で押さえ込んだ。
そしてそのまま炎を魔物の体内に跳ね返す。
怪物は口から黒い煙を出しながら地面に力なく倒れた。
<さて…>
ラーセは魔物の体内に自分の腕を突き刺し、怪物に吸収させたレミアのエネルギーを取り出した。
<ふん、他人の力を吸収してこの程度とは情けない。>
ラーセはレミアのエネルギーを全て吸収するとそのまま怪物のコアを握り潰した。
コアを破壊された怪物はもうエネルギーを作り出すこともそれを使うこともできない。
ラーセは片腕を怪物の体内に突き刺したまま光のエネルギーを放出して体内から怪物を爆発させた。
<汚ねぇ花火だ。>
戦闘が終了した後、ラーセは目を閉じて精神を集中させた。
<リバース>
〜シュウヤの体内〜
しばらくしてラーセは俺の目の前に戻ってきた。
<あの怪物は消しておいた。>
ラーセは無傷で平然としている。あれほどの強さの敵でも彼にとっては雑魚も同然というのか…
「流石、神様。」
<ふん。今回は力を貸したが、今後は我を表に出さないように気を付けろ。>
ラーセは少し深刻そうな顔でそう言った。
初めは敵なのか味方なのかも分からなかったが、悪い神ではなさそうだ。
俺の体の中で不自由な生活を強いられているのに体をのっとろうともしてこないわけだし。
<これは貴様が持っておけ。>
ラーセは右腕からレミアのエネルギーを取り出して、俺に手渡した。
「本当に、ありがとう。」
<ではもう現実世界に戻れ。それと闇の力を持つ者には気を付けろ。奴が転生している可能性がある。>
「奴って…」
気づくと俺は現実の世界に戻っていた。
体に痛みは残っておらず、傷口も回復していた。
先程ラーセが言っていた「奴」とはひょっとして闇の始世神のことか。
だとしたら…
「案外近くにいるかも…な、、、そうだっ。」
俺ははっと我に帰り、レミアの元へと向かった。
幸いなことにレミアの体は傷一つ付いてはいなかった。
もしバラバラにでもなっていたら悲しすぎる。
「俺のせいで…ごめんな。」
俺は目に涙を浮かべながら、そっとレミアの手を握る。
「あ、あれ?」
レミアの体は熱を発しており、脈も感じ取ることができた。
「ふぅ。」
「!?」
レミアはゆっくりと目を開いた。気づけば身体も石化から解放されている。
「あれ?あの化け物は?」
「大丈夫、消滅したよ。」
俺はレミアを抱きかかえて起き上がらせた。
「シュウヤ…泣いてるの?」
「な、泣いてなんてねーよ!バカっ」
俺は恥ずかしくなり、背中を向けて涙を拭った。
「私のために泣いてくれてたんだ。」
「だからちがっ!くもねぇか。」
恥ずかしさで茹でタコにでもなりそうだ。
「そ、それよりどうやって石化を解除したんだ?」
俺が聞くと、レミアは手を前方に突き出して手掌を天井に向けた。
次の瞬間レミアの掌から闇のエネルギーオーラが放出された。
「おま!それ、」
「そう。これはシュウヤの闇のエネルギー。」
俺は何故レミアが闇のエネルギーを持っているのか質問をぶつけようとしたが、その前に向こうからその説明がされた。
「実は3日ほど前に私が石化する夢を見てね。」
話によれば、レミアは予知夢の能力を持っていて、予知夢を見ることができる。というよりも予知夢だけを見るといった方が正しい。
それで自分が石化すること、俺の闇のエネルギーを使ってその呪縛から解放されることを夢で見たのだという。
「いつ俺からエネルギーを吸収したんだ?」
「2日前、あなたが眠りについた時にそっと、ね。」
「あの時か。」
ゼラファーに来て最初の日の事だ。レミアに手渡された飲み物を口にした瞬間、眠気に襲われて眠りについたのだ。
「なんでわざわざ眠らせる必要があったんだよ。」
「それはね・・・」
レミアは石化する予知夢の他にもう1つ予知夢を見ていた。
その内容は俺から闇のエネルギーを借りるが自分の中で抑えきれなくなり、闇に沈むというものだったらしい。
俺からエネルギーを与えられるよりも自分で抜き取った方が容量の微妙な調節できるために俺を眠らせたのだと言う。
「それをやる前に説明してくれよ…。」
「ごめんごめん。でもシュウヤのエネルギーは怖いわね。少量なのに危うく闇に沈みかけたもの。」
そういえば眠りから覚めた時、レミアがハァハァ言って元気なかったな。それが原因か。
「これからはちゃんと相談してくれよな。それと、ほらこれも返すぜ。」
俺はラーセから受け取ったエネルギーを掌に集めてレミアに見せる。
「取り返してくれたんだ。ありがとう!」
「お、おう。」
(取り返してくれたのはラーセなんだけどな。)
「も、もうダメ。我慢できない。」
そう言うとレミアは俺に飛び込んできた。
俺はレミアに押し倒されてそのまま唇を奪われる。
「いたた、突然何するんだよ。」
「いやー。私が生きてるのもシュウヤがいてくれたおかげだし、それを考えたら、ね。」
(むしろ俺が居なければあの怪物が復活することもなかったのでは?)
俺はそう思いはぁっと軽くため息をつく。
気づくと俺の体内にはレミアのエネルギーが残ったままだった。加えて俺のエネルギーが返ってきた感覚もない。
「て言うか、ちゃんとエネルギーの交換してくれよ。」
「ごめんごめん。今のは感情的になってついしちゃっただけなの。」
お前は乙女か。1790歳のくせに。
俺がそう心の中で考えているとレミアは一瞬怖い顔で笑ったような気がしたが、すぐにまた蕩けさせてこう言ってきた。
「ねぇ、今度はシュウヤからして?」
珍しくレミアは顔を赤面させている。不覚にもドキッとしてしまった。
「分かったよ。」
俺は仰向けのままレミアの頭をホールドしてキスをした。
(全部ラーセのお陰なんだけどな。)
そのキスの後はお互いに恥ずかしくなり、しばらく沈黙の時間が流れた。
<人間とは面白い生き物だな。>




