賑やかな朝
「ふむ…」
ゼロルームを出て時計を確認するとまだ魔物が現れるには早い時間帯だった。
魔物が現れるとしてももう少し後で今のところアジト内に仕事はない。
(とりあえず帰るか、一旦寝よ…うぉっ?)
ケータイをスリープされたと同時に振動が起こり画面中央に着信メールの広告が表示された。
(ふむふむ緊急時には〜っと、なるほどなるほど。)
メールの差出人は総帥だった。
メール内容は緊急事態にならない限り今日の仕事は休みとのこと。
ここ最近心身共に疲労することが多かったのでこのタイミングでの休暇はとでもありがたい。
(俺って意外と運いいのかも。)と少し得した気分でアジトを出る。
〜20分後〜
サトルさんの家が視界に入り、俺は足を止めた。
「サトルさん、もう帰ってる時間だよな…」
正直な話、今日は実家に戻ってゆっくりとしたい。
本来なら大好きなお兄ちゃんと離れ離れになった幼女を側で慰めてあげるべきだとは思う。
むしろ兄の親友としてはそれが半分義務みたいな物だろう。
しかしよく考えて見て欲しい。
俺がここでインターホンを押した場合、ミヤちゃんは誰が帰ってきたと思うだろう?
当然ノゾムが帰ってきたものと思って出迎えてくれるにちがいない。
そしたら俺は何もしていないのにミヤちゃんをがっかりさせしまう。
これじゃあ誰も幸せになれない。
というわけで今日は私欲に身を任せてサトル家をスルーし、自分の家の方に帰宅した。
「…」
玄関の扉を開けて中に入る。
すると家中真っ暗で物音1つしない空間が広がっていた。
(なんか久々だな、この感じ。)
ここ最近が賑やかすぎたせいか、もう慣れたはずのこの孤独感が今は少し懐かしい。
レミアだけはこっちに居てもおかしくないと思ったが、どうやらまだお隣でミヤちゃんの相手をしているらしい。
色々気を遣いながらミヤちゃんを笑顔にさせているレミアの姿を想像すると彼女にも申し訳ない気持ちなる。
んが、今日は充電期間にすると決めたんだ。
久しぶりの一人暮らしを思う存分満喫させてもらう。
「そうと決まればまずは夕食からだ!」
〜夜7時〜
俺は1人で1人分の料理を作り、食べて、片付ける。
誰にも妨害されることもなく、1人で黙々と作業しているためとてもスムーズに事が進む。んだ。
〜夜8時〜
「うぉっと、やばいやばい。」
入浴中、あまりにも静かだったので浴槽に浸かりながら眠ってしまうところだった。
「…出るか。」
〜夜9時〜
ベッドイン
「なんかすげー長く感じるなぁ…」
あまり細かいことは考えない系の俺だが、久々に一人暮らしをしてみて思った。
料理を作るのも食事をするのもテレビを見るのも全て自分1人。
周りの人間にとやかく言われることもなければ変に気を使うこともない。
少し前までこの生活が普通でそれなりに充実した毎日を過ごしていたはずなのに今はあまり楽しくない。
自分1人しかいない静かな空間に心細さを感じでいた、
(俺も誰かと一緒に居たい派の人間だったのかな…)
そんならしくないことを考えているうちに俺は眠りに落ちた。
〜翌日〜
「んー」
数時間の睡眠の後俺はゆっくりと目を覚ました。
心身の疲れは残っておらず、ここ最近で1番スッキリとした朝だ。
昨日あんなことを考えたばかりでなんだが一人暮らしも悪くないかもしれない。
(目覚ましくーん)
5時50分
いい具合の時間帯だ。
昨日顔を見せなかったお詫びを兼ねて3人に朝食をご馳走しようと思っていたので早めに起きれたのは好都合だ。
しかし次の瞬間俺はある違和感に気づいた。
「…あれ」
ベッドから起きあがろうとしたら腹部に中等度の重みを感じ、思うように起き上がることができなかった。
「なんじゃ?」
「スー、スー」
「!?」
おそらくは女の子のモノであろう。微かに寝息のようなものが聞こえてくる。
(おいおいおいおいおいい!)
片手で腹部の上に乗っているソレに触れてみるとふわふわぷにぷにというような感じの触り心地がした。
(何で何で?どうして俺のベッドで寝てんの?…はっ!)
「んー、お兄ちゃん〜…」
(またあいつの仕業か…)
視線を腹部の方に落とすと猫耳のようなものが見えた。
おそらく女の子とかが好む動物の耳付きパジャマだ。
そんな可愛らしい姿でミヤちゃんは俺の腹部に抱きついたままスヤスヤと眠っていた。
(なんかすごくかわ、って違う違う。あいつ何考えてんだよ、普通女は女同時ってなる場面だろこれ?)
どうせ犯人も一緒に寝ているのだろうと思い、ベッドを調べてみたが俺とミヤちゃん以外は誰もいなかった。
俺はミヤちゃんを起こさないようそっと腹の上から退けて布団をかけた後、なるべく音を立てないよう静かに部屋を出た。
(ったくあの女…毎日毎日飽きもせず俺で遊びやがって。)
そろそろヤツのヤンチャぶりが腹立たしくなってきたのでここいらでガツンと言ってやることにする。
あの女、もとい母さんの部屋に到着すると俺は荒々しく扉を開けた。
「オラーテメェ!」
「ん〜後、10分…」
レミアは母さんのベッドでめっちゃ気持ち良さそうに眠っていやがった。
「このっ…」
俺は部屋の中に入り、レミアを叩き起こして説教してやろうと手を伸ばした。
…が途中で布団の中のレミアが衣類を身につけていないことに気づく。
よくよく部屋を見渡してみると床に服が転がっていた。
「まじかよこいつ、鍵もかけずに…無防備すぎだろ。」
俺が手を引っ込めようとしたその時
「あれ…シュウヤ?何してるの?」
最悪のタイミングでレミアが目を覚ましてしまう。
「いや、これは!」
慌ててレミアから距離を取る。
そんな俺の姿を見てレミアは一瞬ニヤリと微笑んだ。
その後布団で前を隠しながらベッドから起き上がる。
「ねぇねぇねぇ私が寝ている間に何しようとしてたの?」
悪戯好きの子供のような顔でそう聞いてくる。
おそらく彼女は最初から起きていて俺の様子を伺っていたのだろう。
「はめやがったな…」
「何のこと?はめようとしたのはそっちでしょ?」
「んが!」
レミアの発した一言に俺は言葉を失った。
いよいよこいつをうちに住まわせてしまったことを本気で後悔してきた。
ノゾムが帰ってきたらレミアのおもちゃになってもらえないか相談してみるのもいいかもしれない。
「ふふふ、眠っている女の子に手を出そうとするなんてシュウヤ君って鬼畜ね。」
「くっ」
ま、こんなに楽しそうに笑ってるんだ。
俺が揶揄うことでレミアが幸せになるなら別に…
(ってそんなわけねーだろうが!)
むしろこの幸せそうな笑顔が余計に憎らしい。
俺は怒りとエネルギーを全開放した。
当然箱の中のエネルギーも全部だ。
「スケベ!変態!プププッ」
(作戦大成功!やっぱりシュウヤをからかうのは楽しいわぁ。…うぅ
でもずっと裸でいるのは少し寒いわね。)
イラッ「それならぁ」
「へ?」
俺は床に転がっていた洋服を手に取り空中にジャンプした。
そこで出来る限りのエネルギーを洋服に込める。
「さっさと服着ろやーー!!!」
俺は思いっきりレミアの顔目掛けて服を投げつけた。
「ぶはっ!」
洋服の弾丸は見事顔面に命中し、レミアはベッドに倒れた。
「ったく、俺で遊ぶんじゃねーよ。」
「えー。だって〜シュウヤが面白い反応するからぁ。」
「…」ズドンッ
「いたー!たんこぶできたらどうするつもり?チョップ反対!」
レミアは潤んだ目で痛を押さえた。
「ふん。で、なんでミヤちゃんを連れてきたんだよ。」
「あぁ、それはですねぇ……」
聞く所によると昨日の夜10時頃サトルさんに知り合いから電話がかかってきて朝まで飲みに行くことになってしまったらしい。
それでミヤちゃんを連れてこっちに戻って来たんだとか。
「それなら2人で向こうに泊まってくればよかったじゃんか。」
「はぁ…」
レミアはやれやれとでもいいたげに大きくため息をついた。
「馬鹿ねー、あのくらいの年頃の子は近くに家族や知り合いの人が付いていてあげないと心細くなって泣いちゃうのよ?常識でしょ。」
「お、おう…」
まさかレミアに人間の常識を語られるとは思っていなかった。
なんか嫌だな、気に食わん。
「でもそれってレミアがそばにいてあげれば心細くないじゃん。」
「まぁサトルさんも うちに泊まっていっても良いよ って言ってくれたんだけどね。」
「これからは是非そうしてください。」
「でもねでもね、シュウヤはロリコンだからミヤちゃんと同衾させてあげたいなぁって言ったら そーか!じゃあよろしく言っといてくれ。って笑ってた。」
「ちょっと!?」
ダメだ。
またこの悪魔に心を乱されてしまった。
なんだかんだでいつもペースを掴まれてしまう。
頼む誰か!
人間でも魔物でもなんでもいい。
煮るなり焼くなり食べるなり好きにしていいからこいつを痛い目に合わせてやってくれ!
「ででで?ミヤちゃんも私みたいに襲ったの?」
「襲うか!お前にも手は出してねぇだろうが。」
「ほんとかなぁ?思春期男子は怖いからねぇ、私だってあのまま寝ていたら絶対に襲われてたわ。」
「…」
(こりゃあもう通常のお仕置きじゃ反省しねぇな。)
そう確信した俺は右手に光刀を、左手に闇刀を作り出してレミアに斬りかかる。
「オラー!お望み通り襲ってやんよぉ!」
「キャーー!!!」
〜20分後〜
俺はレミアと一緒に4人分の朝食を用意していた。
「なんか疲れた…」
「大丈夫かい?昨日はすまなかったね。」
「いえ、サトルさんは気にしないでください。全部このアマのせいです。」
「テヘヘ。」
「はっはっは新婚さんみたいだね。」←小声
「変なこと言わないでくださいよ…料理が出来るまでまだ少しかかりますんでもう少しお待ちを。」
「了解。テレビをつけてもいいかな。」
「どうぞ。」
今日は4人分の朝食に加え、昼の弁当も作らなければならないので多少時間がかかる。
そうして俺達が料理を作っているとミヤちゃんがリビングの方から顔を覗かせてきた。
「あのー…」
「ん?あーごめんね。まだ作り終えてないからもう少し待ってね。」
「わ、私にも何かお手伝させて?」
ミヤちゃんはもじもじとしながらそう言った。
ミヤちゃんなりに気を使ってくれたのだろう。
「大丈夫だよ、ありがとね。…あー、レミアもうそろお肉入れちゃって。」
「はーい。」
俺も料理に戻ろうとする。
しかしミヤちゃんは背後からズボンを掴んで離さなかった。
「…」
「分かった。じゃあ作り終えた料理を机に並べてもらえるかい?」
「うん!」
ミヤちゃんの表情がバッと明るくなる。
人の役に立てることが嬉しいといった表情だ。
こんな優しい妹がいるノゾムがマジで心羨ましい。
〜20分後〜
全ての料理が完成し、ミヤちゃんはお皿を落とすことなく、綺麗に机の上に並べてくれた。
「ありがとう。助かったよ。」
俺がお礼を言うとミヤちゃんはエヘヘと照れていた。
「レミアもサンキュウな、助かったわ。」
「いえいえ。」
こうして俺達4人はテーブルの席につく。
「ではいただきましょう。」
「「「いただきまーす。」」」
「美味しいね!」
「うん、美味い。」
ミヤちゃんは隣の席で本当に美味しそうな顔で料理を食べてくれた。
作り物ではないその笑顔がなんとも愛らしい。
俺は思わずミヤちゃんの頭を撫でた。
「ありがとう。ミヤちゃんが手伝ってくれたからすげぇ美味しくできたよ。」
「うん!!」
「「…」」
「はぁ、マジでノゾムが羨ましい。一家に1人欲しいくらいだ世。」
「「ニヤリ」」
小声でボソっとこぼしたセリフをしっかり聞き取ったサトルさんとレミアは互いにひそひそ話を始めた。
「今一家に1人欲しいって言ったわよ。」ニヤ
「意外と危険な発言かも?」笑
「ね?言った通りだったでしょ?」ニヤニヤ
「確かにー。」笑笑
「2人とも全部聞こえてるから。」
アハハハハハハハハ
いつも静かな我が家が随分と賑やかになったものだ。
こんな朝も悪くない。




