仲直り
「シュ、シュウヤ…」
俺が全力で振り下ろした刀を受け止めたのはシュウヤだった。
髪や瞳の色がいつもと違うが間違いない。
1年前のあの時、1度だけ見た戦闘モードのシュウヤだ。
「どうしてシュウヤが…」
「まぁ色々あってな。」
俺はレミアを切り裂こうとするノゾムの一太刀を間一髪のところで受け止めることに成功した。
まるで落雷でも落ちたような爆音と共に強い衝撃が襲ってくる。
これだけ強いエネルギー攻撃を仕掛けるんだ、喧嘩とか脅しとかそんな生ぬるい話ではない。
「お前、レミアを殺そうとしていたのか。」
「どいてくれシュウヤ!お前も彼女に騙されているんだ!」
ノゾムの腕に力が入り、光刀にかかる重みが増す。
(おいおい、これがノゾムか?)
ここまで冷静でないノゾムを見るのは初めてだった。
一体レミアは何をどうやってノゾムをこんな風にさせたのだろう。
なんにせよ今の状態ではまともに話し合うこともできない。
「仕方ねぇ…」
俺は左手でノゾムの刀を鷲掴む。
「なっ!」
刀はバチバチと音を立てて俺の左手を痺れさせる…いや、痺れを通り越して左手が普通に痛い。
しかし俺は構うことなくノゾムの刀を思いっきり引き寄せ、上方から垂直に光刀を振り下ろした。
鋭い金属音が鳴り響く。
ノゾムの刀は前方3分の1のところで垂直に2分した。
「あ、ああ…」
「ふぅ、少し落ち着こうぜノゾム、ちゃんと話し合おう。」
ノゾムは狼狽えたようにその場から下がり、がっくりと虚脱した。
すると間も無くして俺の左手を取り巻いていた痛みは回復していった。
「ふむ…」
ノゾムの様子からして左手の痺れを解除した自覚はないらしい。
となるとノゾムは自分の能力を制御しきれていないということになる。
そんな状態でエネルギーの具現化などできるとは思えない。
俺は地面に転がった刀の矛先を手に持ってみた。
「…」
とても静かだった。
先程と違って俺の左手を痺れさせることはなく、ただそこに存在するだけのエネルギー塊と化していた。
「このエネルギー…」
レミアを殺そうとした時には強力なパワーを発揮し、ノゾムの闘志が抜けた時には攻撃性を失う。
まるで電気エネルギーの方がノゾムの気持ちに応えて能力のオンとオフを切り替えているみたいだ。
俺の知らないケースだが、これが他人に与えられた能力ならばその可能性もある気がする。
「シュ、ヤ…」
「ん、ん?どうした?」
思考を巡らせていると背後から弱々しい声で語りかける女性の声が耳に入る。
ノゾムの能力について考察するあまり彼女のことをすっかり忘れてしまっていた。
「学校、抜け出して来たの?」
「まぁな。そりゃ飛び出してくるだろ、お前のあんな声聞いちまったら。」
それは10分ほど前、俺が教室で世界史の授業を受けていた時の事
(えーっとネルウァ、トラヤヌス、ハドリアヌス…っと)
俺が教室に戻ると既に黒板にはぎっしりと文字が書き詰められていた。
なんとか授業に追いついてやろうと必死に書き取りをしていたその時
~ミヤちゃん救出成功!ワァーー!!!~
突然どこからともなくレミアの声が聞こえてきた。
反射的にキョロキョロと周囲を見渡してみるが他の生徒は普段通りに授業を受けている。
そこで俺は察した。
(そうか、さっき家に戻った時ソウルのリンクを解除し忘れていたんだ。)
「…ま、いっか。」
授業を妨害されるのはなんだが、ミヤちゃんが無事で良かった。
(ありがとうレミア、またまた助かった。あ、そうそうミヤちゃんの奪還に成功したことは分かったからもうメールはしなくていいぞ。)
俺は心の中で感謝の言葉を呟いた。
しかし
「…あれ?」
10秒ほど経ってもレミアから返事は返ってこなかった。
(おーいレミアさーん、聞こえる?)
こんどは少し大きめに呼びかけてみる。
「…ふむ。」
やはりレミアからの返答はなかった。
無視、はされていないと思う。(思いたい。)
単純に聞こえてないだけか?
もっと強く念じれば聞こえるようになるだろうか。
「…ふぅ」
俺はそれ以上レミアに念は送らなかった。
後で面と向かってお礼をするべきだと思ったので何事もなかったように書取りを再開した。
しかしその数秒後、再びレミアからの着信が入る。
~でも喜んでばかりもいられない、ノゾム君のために私に出来ることは…~
「…?」
(なんだ、あいつまだ何かするつもりなのか?)
~えぇい今更狼狽えてんじゃねえ、女は度胸よ!~
(ハハハ、よく分からないけどなんか嫌な予感…)
~ぁあ、あんなに血がたくさん…ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!~
「おいおいおい!一体何がどうなってそんな物騒なこと言うんだよ!」
ふと血まみれになったノゾムの姿が脳裏に浮かんだ。
実際に今どんな状況になっているのかは分からないが一刻も早く駆けつけないとヤバいことになる。
そう思った俺は自分の荷物を纏めて教室を飛び出した。
校門へ曲かってダッシュしている最中俺はセカンドフォルムを開放して2人の現在地の特定を試みた。
しかし辺りから2人のエネルギーを探知することはできなかった。
「ちっ、あいつの仕業か…」
先ほどレミアは「あんなに血がたくさん…」と言っていた。
あいつの力なら人間体のままでもノゾムを痛めつけるくらいわけないだろうが、ノゾムの能力が暴発する可能性もあるので今は魔物の姿に戻っていると考えるのが自然だ。
しかし魔物の姿に戻ったらNEOの連中に見つかって大騒ぎになってしまう。
それを防ぐために結界的なものでエネルギーをカバーしているのだろう。
総帥から緊急の連絡が入らないのがその証拠だ。
ベテルで魔物の姿に戻るには良いアイデアだと思うが、これでは俺も2人のいる場所を特定することができない。
「くそっ!」
~レミア!聞こえるか?レミア!~
~シュウヤ?あ、そっか…シュウヤ、あなたは何も気にしないで。~
~気にしないなんて無理だね、そこどこだ?現在地を教えてくれ!後でできる限りお前の言うこと聞いてやっから!~
~…公園よ~
その瞬間俺はある場所を目指して走り出した。
目的地は無人島公園
無人島とはなばかりの日頃子供達の使用率がとても高い人気のある公園だ。
しかし今さっき能力を使って街の様子を見渡した時、その公園から人の気配は一切なかった。
おそらく公園で遊ぶ子供たちの気配もレミアが作り出した結界的なものに覆い隠されてしまっているのだろう。
~ぁァアアア!~
「!?」
突如としてレミアが悲鳴を上げた。
多少ビクつきながらも移動する速度を保持したままレミアに話しかける。
~なんだ!どうした!?~
~…胸を引き裂かれるってこんなに痛いモノなのね…~
「!?ちくしょー、間に合ってくれぇ!」
俺はなんとか意識を保っていられるギリギリのラインまでエネルギーを解放し、無我夢中で走り続けた。
こうして話は現在に戻る。
「ってなわけで2人のことが気になって様子を見にきたってわけだ。」
俺の話を聞いてノゾムは目を大きく広げて驚いていた。
「そんな、何でその場にいないシュウヤがレミアさんの声を?」
「うん、それはね?」
俺はできる限り分かりやすく事細かに説明さ入れた。
「そんな…バカな。」
「まぁ普通に信じられない話だような、けど能力者として生きるようになればすぐに分かるよ。」
「そっか…でもそのぉ、聞こえてきた言葉の内容は本当なの?」
「もちろん。口先でお前になんて言ってたのか知らねーけど、こいつ心の中はすげえことになってたよ。」
「…」
「ま、今更だけど2人ともまずその傷治そうぜ」
「そうね。」
するとレミアは重傷者とは思えないほど軽々しくその身を起こした。
というかこいつの怪我は既に回復しきっていた。
「…」
(まぁ、回復能力あるんだからそうなりますよねぇ。)
「ノゾム君…」
レミアはゆっくりとノゾムの方へ歩み寄る。
「え、あ、シュウヤ?」
ノゾムはあたふたしていかにも「俺はどうすればいいの?」といいたげな表情で俺にヘルプを求めてきた。
俺はとりあえず「じっとしてろ。」という意を込めて首を横に振る。
「へ?…あっ」
次の瞬間レミアは涙を流しながらノゾムの頬を両手でそっとホールドした。
「ごめんなさい、あんな酷いことして…」
「え…」
気がつくとノゾムの口元の傷は完全に回復していた。
「あ、あぁぁ」
ノゾムの傷が回復したとたんレミアは俯いたまま数歩下がってノゾムから距離を置いた。
「それじゃ話し合いといこうか。レミアの正体が魔物だっていうことはもう分かってるよな。」
「シュウヤは最初から知ってたの?」
「あぁ。じゃあそこら辺のことから話すことにしよう。」
俺はレミアと初めて会った日のこととその日レミアから聞いた話について説明した。
「じゃあレミアさんは人間と争いたくなくてシュウヤに相談しようとこの世界にやってきたってこと?」
「そういうことだ。だから魔物は本来いい奴らなんだよ。」
「そんなことが…でもその話自体が嘘だってこともあるよね?」
「それがないんだわ。」
「…え?」
「んーまぁ実際に見せるのが早いか、ノゾムなんでもいいから頭に思い浮かべてみな。」
俺はレミアの疑いを晴らすために不本意ながらノゾムの心を読むことにした。
(どうしたんだ急に…えーっとパンダ)
「パンダ可愛いよな。」
「!?」
「んま、これはレミアの能力なんだけどさ、こいつは俺の信用を得るために他人の心を読む能力を俺に預けたんだ。」
「じゃああの話は全部本当だったんだ…いやでもそれならなんでレミアさんはあんなことを…」
「うむ、ここでようやく本題に入るわけだが、今までここで何があったんだ?」
「あ、えっと…」
俺はノゾムから俺と別れた後から現在に至るまでに何があったのか説明してもらった。
「ハハハ、レミアがそんな残虐な奴のフリするなんてな。」
「わ、笑わないでよ。私だって必死に…」
「分かってるって、とりあえずノゾム、レミアの行動は全てお前のためを思ってのものだったらしいぞ。」
「え?」
ノゾムは目を大きめに開いてレミアの方に視線を向けた。
「だよな。」
俺がそう問いかけるとレミアは俯いたままコクリと頭を縦に振った。
「どうゆうこと?」
「まず、レミアが何であんなに豹変したかって所だけど、あれはノゾムを悲しみのどん底に叩き落とすためだったんだよ。」
「シェっ?」
「おっと勘違いするなよ?これにもちゃんとした理由がある。」
しかしこれは急に話してもいまいち納得がいかない話なので俺はまずノゾムの能力解放について復習させておくことにした。
これまでの情報からノゾムの異能力はノゾムの心に生じた強い負の感情に共鳴して発動することが推測されている。
知っての通り負の感情とは怒りや憎しみ、怨み、妬み、悲しみなどといった感情のことだ。
今までノゾムの能力が暴発したのはお母さんを殺してしまった時、空き巣犯を取り逃してしまった時、そして今回レミアに殺されかけた時の計3回。
「さて、この中でイレギュラーなケースが1つ存在しているんだけどどれか分かるかな?」
「え?えーと話の流れからして今回のなんだろうけど…」
「その通り。んで一体どこの部分がイレギュラーなのかというと、ノゾムの異能力が深い悲しみによって引き起こされたっていう部分だ。」
ノゾムが異能力を開花させた時も空き巣犯を追っている時もノゾムは他人に対して怒りや憎しみといった他人に対する攻撃的感情を抱いていた。
しかし話を聞く限り今回の一件でノゾムは悲しみ以外負の感情を抱いていない。
本来悲しみとは乗り越えていくものであって他人にぶつけるものではない。(父さんの持っていた本 人間の5思7情理論参照)
だから怒りや憎しみによって生じたエネルギーは暴発し、他人を傷つけようとしたが、悲しみによって発動したエネルギーは暴走することなく、ノゾムの気持ちに応える形でその力を初脇した。
この方法が上手くいく確証はどこにもなかったが、レミアはあの本を読んでノゾムの能力開発に応用できると悟ったのだろう。
「ってな解釈を俺はしたんだが、こんな感じでいいか?」
「うん。」
「ちょ、ちょっと待って!そのロジックで行くと失敗していた可能性もあったよね?レミアさんは俺の能力開発のために犠牲になっても良かったっていうのかい?」
たしかに危ない賭けではあった。
ノゾムの異能力が他2回の時同様の発動パターンだった可能性は十分にあった。
さらに言えばその後のノゾムとの友情はあり得なくなっていたぢろう。
「犠牲になるつまりまではなかったと思うけどお前の攻撃を受ける覚悟は持っていたんだろうな。」
「攻撃を受ける覚悟って…レミアさんはわざと俺の攻撃を受けたって言うの?」
「おそらくな。雷刀でレミアを突き刺した時のこと、思い出してみ?」
深い悲しみと共にノゾムの身体から放出された束縛エネルギーはレミアへ一斉照射され、彼女の動きを束縛した。
その後ノゾムは電気エネルギーで作り出した雷刀で後ろからレミアの背中を突き刺した。
少ししてノゾムが雷刀を引き抜くとレミアは力なくその場に倒れた。
「ここで質問だが、何でレミアは地面を這ってお前から距離を取ることができたんだ?動きを束縛されていたはずだろ?」
「あ…」
「そ、すぐに解除したのか単に効かなかったのかは知らないけどレミアの動きを束縛できてはいなかったってことだ。」
「そんな、あの時点なら既に俺の能力開発がうまくいってるって分かったはずなのに…」
「ここから先は本人に聞くべきだと思うな。」
俺とノゾムは同時にレミアの方へ視線を向けた、
最初レミアは俯いたまま黙っていたが時期にヒソヒソも話し始めた。
「それは…私もノゾム君のこと、傷つけちゃったし…」
「だ、そうだ。」
「そんな、俺はレミアさんを信じきることができずに勘違いして彼女を傷つけてしまったのか…」
ノゾムが自責の念にかられた瞬間、右腕の刀も俺が手に持っていた矛先も姿を消した。
「ノゾム、この計画はお前が悲しさで絶望し、且つ乗り越えなければ成功していない。結果的にお前はレミアの期待に答えたんだ。」
「あ、あぁ、ウォッ!」
次の瞬間レミアは勢いよくノゾムに抱きついた。
「本当にごめんなさい、今日無理に能力開発しなくても良かったのに…でも分かって、1度あることは2度あるって言うし、このまま何もしなかったらきっと同じようなことが起こる。…だから」
「レミアさん…」
(微妙に言葉間違ってるけど、いっか。)
ノゾムはかなり動揺してる様子だったが、ゆっくりとレミアを抱き返した。
これで一件落着だな。
「そうだノゾム、今のうちにレミアに聞きたいことあった聞いておけよ。」
「あ、うんえーと…この変なフィールドのこととかエネルギー制御のコツ、とか?」
「!いいじゃない、実際に戦いながら身につけていきましょ!」
ノゾムはまだ少し気まずさを感じているみたいだったが、レミアの方はすっかり明るくなった。
(うんうん、良かった良かった。)
「シュウヤに相手になってもらってさ、2人で倒しちゃいましょ?」
「え?」
「おーい聞こえてるぞー。今のは心のそこからマジだったよな?それとノゾムの方も満更じゃないのはどういうことだ?」
(せっかく駆けつけてきたのに何故2人がかりでいじめられねばならんのだ。)
そう心の中でつぶやいた次の瞬間
「えー、でもさっき言うこと聞いてくれるって言ったじゃない。」
「そうだよー、俺ももう少し練習しておきたい気分なんだ。」
((勝ったな。))
「テメェら…2人揃って相手してやろーじゃん!」
1番の親友&魔物界最強の女vs俺
勝敗はまぁ皆さんが想像した通りである。
「ウギャア!!!」




