異変
〜夜の8時〜
フユミとのデートを終え、俺は自宅へと帰ってきた。
「ふぅ、寝るか…」
明日からまた学校も始まるし、デートでとてつもなく疲れたので今日は早めに寝ることにする。
いつもであれば魔物の襲来の有無に関係なくアジトでの仕事や次元修復の仕事があるのだが、帰宅途中で総帥からメールが入って「今日はアジトに出向かなくていいからじっくり体を休めてくれ。」という知らせが入った。
万が一にもレベルの高い魔物が現れたら狩りを依頼する可能性があるとのことだったので一応ケータイの通知・着信音は最大にしておく。
俺は部屋の電気を切り、ベッドに入った。しかし、疲れているはずなのに何故か上手く眠りにつくことができない。
(はぁ、やっぱり俺あいつのことが気になってんのかな。)
〜1時間30分前〜
「え?どゆこと?」
「実は私のおばあちゃんが先週足に大怪我をしちゃってね。」
フユミによるとフユミのおばあさんが足を大怪我してしまい、元々病気で身体の悪いおじいさんの面倒を見るのが大変になってしまったということでフユミがお世話をすることになったのだという。
「ご両親はどうしたん?」
「2人とも今は海外出張中なの。」
フユミのご両親は海外に出張中で今は日本にいないらしい。
しかしおばあさんの怪我の事を聞かされ、近々日本に戻ってくるんだとか。
「それでね、またこういうことがあるかもしれないからって、私の家族がおばあちゃんの家で一緒に暮らすことになったの。」
「な、なるほど。つまりフユミはそのおばあさんの家の近所にある高校に転向することになったというわけか。」
「そう。高校側には既に話を通してあるわ。」
全然気づかなかった。
最近の教員からはそう匂わせる態度が見受けられなかったからだ。
話を聞く限りどうやらフユミは自分が転校する事を先生方には黙っていてもらうよう頼んでいたらしい。
高校にはこれといって仲の良い友人もいないし、自分がいなくなる事を知った周りの連中が盛り上がる姿なんて見たくなかったのだという。
いくらなんでもそんな事をする人間はいないと思うのだが、少なくともフユミはクラスの人間に嫌われているのでその可能線を否定しきることもできない。
ここはあまり深くは触れないことにしよう。
「なぁ、そのおばあさんの家はどこにあるのんだ?」
「初舞翼町」
「おいおい遠いな!」
初舞翼町といえばかなり田舎の方でここからだと600kmは離れている。
そこまで遠くない場所であれば週末にでも会いに行けるかもと思っていたのたが、さすがに遠すぎる。
いや、全力疾走すればなんとか通える距離なのだが、もし俺がフユミに会いに行ってる時にこの近辺で魔物が現れたりしたら一大事だ。
魔物の討伐を周りの連中に任せるのは色々と心配事が多すぎる。
残念ながら長期休業でもない限り会いに行くことは難しいだろう。
「そっか、じゃあしばらくは会えなくなるな。」
「へぇ、私が居なくなって寂しがってくれるのな、清々されると思ってた。」
「当たり前だろ、せっかく仲良くなったのにすぐお別れなんて悲しいじゃんか。」
そんな俺の反応を見てフユミはとても嬉しそうに笑った。
「好きな人にそう思ってもらえるなんて私も幸せ者ね。」
「おま、恥ずかしがりやのくせにそういう事は平気で言うのな。」
「ふふ、ごめん。」
フユミの笑顔が切なさを帯びていくのを感じた。
これで最後というわけでないことは分かっているがそれでもやはり胸が苦しいのだろう。
全く同じものかどうかは分からないが俺も同じような苦しみを感じているのでフユミの気持ちはなんとなくわかる。
どんな状況にも柔軟に対応できるジェントルマンはこういった場合どんなことを言って友達を見送るのであろう。
「えっと、んー、まぁ元気でな。」
「えぇあなたも。今度会った時には告白の返事を聞かせてね。」
「あぁ、ひょっとしたら再開する時になっても答えは出てないかもしれないけどな。」
「そしたらその時の私が口説き落とすまでよ。」
とても光栄なことを言われているはずなのに何故かフユミが言うと物騒に聞こえる。
しかしまぁその気持ち自体はめっちゃ嬉しい。
「でももしかしたら向こうの高校で他に好きな人が」
「それはないわね。」
フユミは俺がセリフを言い切る前にそれを否定した。
「そういう意味で私の視界に入っているのはあなただけよ。」
「そ、それは嬉しいけどさ、友達は作れよ?もう性格悪い系女子を演じるのもなしだ。」こっちの高校でのフユミは学校生活を楽しんでいるようには見えなかったのでせめて向こうの高校では友達をたくさん作って楽しくやってもらいたい。
「忘れてっていったのに…でも安心して。もうそんな事をする必要もないし、向こうではありのままの私で生活していくわ。」
「ありのまま、ねぇ。」
(きっとフユミが素の自分を曝け出したら可愛くて勉強もスポーツもできて性格もいい完璧転校生ってことで学校中で噂になるんだろうな。)
きっと向こうの男子達は盛大に盛り上がることだろう。
まぉ告白した奴に関してはお気の毒にって感じだけどな。
「いいなぁ、俺も見てみたかったなぁ、本当のフユミ。」
「あはは、あなたにも見せたつもりだったんだけど。」
「え、?いつ?」
「今日のデート、大体は本性見せてたわよ?」
「んー」
俺は今日のデートを思い出し、本当のフユミという人間の特徴を洗い出した。
気が強い
おバカ
友達とテレパシーで喧嘩する。
甘い物好き
ファッションにはうるさい。
相談に乗ってくれる、いや無理矢理相談させる。
実は優しい
セーラーが似合う
キレたらサヨウナラ
負けず嫌い
恥ずかしがりやなのに積極的
「あはは。」
(半分くらいマイナス印象なんだが…しかもどれも特徴が濃いよ。)
「ふふふ、でも今日のことがあったからもう私のことを忘れられないでしょ?私頑張ったんだから。」
「?」
何かつっかかふ言い方だった。
頑張った、とはセリフの前半を修飾しているのだろか?
もし仮にそうなら…
「おい、もしかして俺が今日大変な目にあったのは全てお前が仕組んだことなのか。」
「うん。」
「俺がお前の事を忘れないよう深く記憶に残すためにあんなことを?」
「そうよ?数年後ここに戻ってきた時あなたに誰?なんて言われたら私死んじゃう。」
なんていう荒療治…不器用にも程がある。
正直プリクラでキスされたことだけで今日のデートは一生忘れらないと思う。
アレだけで深く既読に残るには十分なインパクトを持っていたので他のはしなくて良かったんだ。
特に半殺しの件…
思い出しただけでも身体が震えて膝汗が出てくる。
「あれが全てお前の事を忘れないための伏線だって言うならもう絶対忘れないから今後からはもう少し穏便に頼む。」
「ふふ、いいわ今度会った時にはベタ惚れにさせてあげる。」
「ま、期待しておくよ、それと…」
俺はケータイを取り出し時間を確認する。
7時10分
「今日この街を出発するんだよな?」
「えぇ一旦アパートに戻って部屋を片付けてからね。」
フユミの予定としてはこれから部屋を片付けてそのままおばあさんの家に向かうらしい。
荷物はどうするのかと聞いてみると知り合いに引っ越し屋さんの人がいて明日部屋の荷物をおばあさんの家に運送してくれるらしい。
「じゃあせめて片付けだけでも手伝うよ。」
「大丈夫だから、もうそろそろ1人にさせて。」
「な、なんでだよ。あの部屋を1人で片付けるのは大変だろ?」
「問題ないわ、それに人前では泣けないから。」
そのセリフを聞いて初めてフユミが無理をしていることに気づく。
出発する準備くらいは手伝ってやりたいところなのだが、これ以上フユミを苦しめるのも可哀想だ。
「そっか…」
「ごめんね、気持ちは嬉しいけどデートはここまで。」
最後にフユミは「元気でね!」と言い残してフユミは自分の家に向かって歩き始めた。
何故か物凄くモヤモヤとする。
このままあいつと別れるにはまだ何かが足りない気がした。
(このままあいつをいかせてしまっていいのだろうか。)
俺はこれまでフユミに散々振り回されてきたんだ。
それをやり返さずに終わるなんて嫌だ。
…けどこれでもう会えなくなるわけじゃないんだし、このままいい感じで別かれてしまえば俺は恥を描かなずに済む。
「あぁあ!何ごちゃごちゃ考えてんだろうなぁ俺。」
俺はフユミを追いかけて走り出す。
まだだ
まだ俺はあいつに勝利したことがない。
あいつを驚かせて慌てふためく姿を拝んでない。
いらんことをグダグダ考えるのはもうやめだ。
フユミに好き勝手やられたまま終わってたまるか!
「フユミ!」
俺は背後からあいつを強く抱きしめた。
「ちょ、ちょっとどうしたの?」
「お前も無理矢理キスしてきたろ?だからやり返しだ。」
「それならもう満足したでしょ?離して。」
「いいや、離さない。離すかわりに話をしてやるよ。」
「何よ。」
俺は今までフユミから受けてきたからかいや罵倒の事とそれによって生じたフユミに対する負の感情などを打ち明けた。
「それは悪かったわね。けどそれ、別れ際にする話?」
「今までお前には散々やられてきたからな。」
「そうね、たしかに色々やってやったわ。」
「けどそれでもやっぱお前と一緒に食事したりデートした時は楽しかったよ。」
「そう、それは良かったわ。」
出会った当初のようにフユミは冷たい口調でそう言った。
きっと強がっていなければ今にも崩れてしまうのだろう。
(まったく、可愛くない奴だ。今に見てろよ。)
これから俺はこれまでの人生でもっともらしくない事をする。
とても気の引ける行為だがこれもフユミを慌てふためかせるためだ。
「だからよ、これはあくまでよくしてくれた友人としてやるんだからな?」
そういうと俺は右手でフユミの左頬を触って顔を右側に向かせたところで優しく唇を奪う。
「ぷはっ」
「…」
(しめしめ、驚いて言葉も出ないようだな。反動ダメージも半端ないけどいい感じだ)
「これで満足したでしょ?早く離して。」
「は、はい。」
(あれ?全然取り乱してないな。)
せっかく恥を捨てて捨身の攻撃を仕掛けたというのにフユミは何事もなかったかのように冷淡な反応をした。
「まったく、普通女友達に対してキスしたりはしないわよ?」
「す、すみません、お前は俺に惚れてるわけだし俺からキスしたらビックリしてくれると思ってつい。」
フユミの言ってる事は抗いようもなく正論なのだが、あまりに期待外れな反応に恥を捨てた分損した気分だ。
人にキスしておいてこんなことを考えているのだから自分でもクズだと思う。
しかしやはり少しくらいは驚いた反応を見てみたかった。
「えーとフユミ、あのさ。」
「私をビックリさせるためだけにキスするなんて酷くない?私の恋心を弄ばないでよ。」
「ご、ごめんなさい。」
言われてみればそうだよな。
やる前に気づくべきだった。
「ほ、ほんとごめんな、いやごめんなさい。」
「でも…」
「?」
「ありがとうシュウヤ君、とっても嬉しい。」
そう言って振り返ったフユミの笑顔は涙で濡れていた。
客観的にはクズみたいな行為でもする相手によっては喜ばすこともできるようだ。
ま、未来永劫2度とあんな真似はしないだろう。
それでも俺は悲しそうにも嬉しそうにも見えるフユミのそんな笑顔を一生忘れることはないだろう。
「またね。」
そう言い残してフユミは夜の街頭に姿を消した。
「あばよ。」
〜夜8時現在 フユミ視点〜
私は彼とのデートを終えて自分のアパートへと帰ってきました。
自分の部屋に入ってからしばらく経ちますが一向に涙が止まりません。
マタスグニ アエマスヨ。
(えぇ、そうね。)
ソレニシテモ サイゴノアレハ ショウゲキテキ デシタネ。
(うん…でも私をビックリさせるためだけにあんな事するって少しデリカシーに欠けると思わない?)
イイエ、シュウヤサンハ ハジヲステテ アナタノ ツメタイナミダヲ アタタカイモノ二 シテクレタンデスヨ。
(臭いこと言うわね。)
ハハハ
サテ、マズハ コノサツジンゲンバ テキナヘヤヲ キレイニシナクテハ イケマセンネ。
(申し訳ないけど部屋の掃除はお願いするわ。)
オマカセヲ。
アナタ二ハ マダ ジカンガ ヒツヨウデスシネ。
(そうね、私はもう少し心の中で泣いてるわ。)
ゴユックリ
「ふっ…」
心の中での会話が終了すると私は目を閉じて心を落ち着かせます。
無心にならないと彼に交代することができないので必死に邪念を払おうとするのですが、中々上手くいきません。
「…」
(集中集中)
〜数分後〜
「チェンジ」
ようやく無心になれたフユミがそう言うと彼女の心に宿る何かと人格が交代した。
オマタセ。
(いえいえ、お気になさらず。)
ソレジャア ヨロシクネ。
(かしこまりました。部屋が片付いたらまた連絡します。)
ハーイ。
「さて、始めますか。」
〜シュウヤ視点〜
「あぁ止めだ止めだ、これ以上考えてもどうにもならんわ。」
ベッドに入ってからフユミのことで色々考え込んでしまったが今となってはただ虚しいだけなので今はあいつの事は考えないようにする。
(明日は学校だし早く寝よ。)
俺は目を閉じて精神を安定化させた。
精神的には中々疲れているのですぐに眠れるはずだ。
〜10分後〜
(なんなんだ一体、身体が疼く。)
せっかく夜の仕事がないくぐっすり眠れると思ったのに、何故か俺の身体は眠りの世界に入ろうとしなかった。
ただ眠れないだけなら良かったのだが意味不明なことにこの時の俺は軽い興奮状態にあった。
その興奮は幼い頃に初めて鹿を仕留めた時の興奮に近かいものがあり、身体が動き回ることを望んでいるかのような感覚だった。
(おかしいな、まるで狼男にでもなった気分だ。)
「ふぅ、ふぅ」
とりあえず深呼吸をして心身を落ち着かせてみる。
するとやれる事はやってみるもので15分程するとその興奮は収まってくれた。
(なんだ今の…これまでで初めての感覚だったな。)
興奮の正体がいささか気にはなるがこれでやっと眠りにつけるので興奮が再発する前に眠ってしまおう。
〜8時間後〜
やがて夜も明け、カーテンの隙間から日の光が差し込んできて俺の部屋を照らし始めた。
するとその時、俺の身体にある異変が起きる。
「ぐはっ!」
突然炎で身体を炙られたかのような激しい痛みが全身を襲った。
あまりの苦痛にまるで浜辺に釣り上げられた魚のようにベッドの上でのたうちまわる。
(おいおい、また何かが俺の中から出てくるんじゃねえだろうな。)
はじめの方はそのような心配をしていたが、一向に何かが漏れ出てくるような気配はなかった。
その上今回のは意識もはっきりとしていて身体が言うことを聞かないというわけでもない。
しかしそれでもこの痛みは正常な判断が出来なくなるくらいの激しいものだった。
そしてこの痛みの正体は一体何なのか、何が原因で起こったのか見当もつかない。
「う、うぁ!」
俺は結局その痛みをどうにもすることはできず、ベッドの上で苦しむだけ苦しんで時間だけが過ぎていった。
「ぬぁあ、ってありゃ!」
すると次の瞬間とうとうベッドの上から転げ落ちてしまう。
「いてて、ってあれ?」
ベッドの上から転げ落ちると何故か今までの激痛がまるで嘘だったように綺麗さっぱり消え去っていた。
「一体、なんだったんだ?」
俺は数分間、まともに機能するようになった頭で今の現象は何だったのか原因の心当たりを探ってみた。
しかしこれと言ってなにも思い浮かばず、潔く諦めた俺は考えることをやめて学校へ行く準備に取りかかった。
〜数十分後〜
そうして全ての支度を終えた俺は少し、というよりかなり早いが学校に登校することにした。
現在の時刻は朝7時
いつもの通学路には誰もおらず、木の枝にとまっていた小鳥達の可愛らしい鳴き声が聞こえてくる。
いつも通っている歩きなれた通学路の道だがいつもより静かで、穏やかでなんとなくいい気分になる。
「今日もいい天気だ。」
柄にもなくそんなことを言ってみる。
この静かで穏やかなゆったりとした空間を全身で感じていると不意識のうちに「やっぱり平和っていいよな。」と思った。
今日はなんだか良い1日になりそうな気がする。
しかしそんな俺の身にまたもや異変が起きる。
家を出てから10分程度歩いているとちらほらと人影が見受けられるようになった。
そんな中ふと道路の向かい側に缶コーヒーを飲みながらこちら側に向かって歩いてくるワイシャツ姿の男性が目に入った。
「…」
(大丈夫かな、あの人。)
どこにでもいそうな普通のサラリーマンの男性だったのだが、服装は乱れているし目の下に大きなクマもできているのでいささか心配になった。
しかしまったくの他人である俺が話しかけるのは迷惑だと思ったので特に話しかけることもなく無言のまま横を通り過ぎようとした。
その時、聞こえてくるはずのない男性の声がどこからともなく聞こえてきた。
”あー、今日も仕事か〜給料はいいけど毎日毎日大変だよな…休日もくないし。“
そのような声が聞こえてきた時、男性の方をチラ見するとちょうどコーヒーを口に含んでいる最中最中だった。
きっと彼はその言葉を口にしてはいない。
俺は立ち止まって彼のことを観察した。
“でも家族を養っていかなきゃいけないんだし、アサネさんも心の病と闘っているんだから俺も負けずに頑張らなきゃ!”
少ししてまた男性の声が聞こえてきた。
空気の振動を感じないところから察するにやはり男性は実際に喋っているわけではないようだ。
つまり俺は知らず知らずのうちに人の心を読んでしまっているということになる。
何で急にこんなことが起きたのだろう。
しかも
(これ俺が聞いちゃいけない話の内容だよね。)
俺は男性の心の声をどうにか聞かないようにするため全力疾走して男性から距離をとった。
補足と訂正をさせていただきます。
まずフユミの心の中にいる「何か」のセリフは主にカタカナで表記していますが決して喋り方が棒読みになっていたり、かたことになっているというわけではありませんのでご了承ください。
そして訂正ですが、前回の話でデート編は終わりだと申し上げたのですが思いの外この話も殆どデート編になってしまいました。
編集はまだまだ続きますが気が向いた時に読んでいただけると嬉しいです。
ではこの辺りで失礼いたします。
ありがとうございました。




