予想外の告白
「ん、んぐっ」
ふと目を覚ますと見たこともない天井が目に映った。
「あれ、俺ここで何やってたんだっけ?」
いまいち記憶がはっきりとしない。
何かを思い出そうとしてもモヤモヤとした映像が浮かんでくるだけだった。
いわゆるトランス状態というヤツだ。
頭がまだ少しクラクラするが、一旦起き上がって辺りの様子を確認してみる。
するとそこには正視に耐えない光景が広がっていた。
部屋のあちこちに散在する夥しい量の血
「ひゃあ!」
異様な部屋の光景を前につい女性のような叫び声をあげてしまった。
「な、なんじゃこりゃ…んぐ、」
部屋の様子を見た瞬間頭に強い傷みが生じ、ある女の姿が浮かんできた。
その女は左腕で俺の首を締んで右腕で何度も何度も俺の顔面を殴りつけた。
そして床に倒れかけて前屈みになった俺の網を踏みつけて地面に這いつくばらせた。
その後も様々な方法で痛めつけられてとうとう意識を失ったんだった。
「怖、俺今の今まで生と死の境を漂ってたんだ。」
俺は自分の置かれてる現状を把握すると急に恐ろしくなり、小さくため息をついた。
すると次の瞬間後方から部屋のドアが開く音が聞こえてきた。
誰かと思い後ろを振り返ってみる。
「ビクッ‼︎」
「あ、起きた?」
そこにいた人間は紛れもなく俺を半殺しにした張本人だった。
「ヒャァァア!!!」
俺は慌てて部屋の隅まで後退してその女から距離をとった。
「ちょっと、どうしたのよ?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
全力でごめんなさいを連呼しながら10回ほど連続で土下座した。
「いきなりどうしたのよ。」
「私めはあなた様の心を弄んだことを深く反省しておりまする!」
「えーと…」
「もう2度とあなた様を傷つけたり逆らったりしませんのでどうか命だけは!」
「あはは…少し落ち着いて話さない?」
そう言ってフユミは俺のすぐ側に腰掛けた。
それから俺達はひとまず落ち着いて話し合うことにした。
とは言っても俺の方はするだけの謝罪はしたのでこれ以上他に言うことはない。
とりあえずフユミの発言を待つ。
「まず言い訳をさせてもらうわね。」
フユミが言うにはあそこまで俺を痛めつけるつもりはなく、腹パンチ1発で終わらせるつもりだったらしい、
しかし自分でも驚くほど激しい怒りに理性が飲み込まれてしまい、必要以上に暴れてしまったのだという。
「テヘヘ、やりすぎちゃった。」
フユミは片目を閉じて舌を半分出しながらそう言った。
アニメなどでよく見る仕草でアレを見るたびになんとなくイラッとしていたが今回ばかりはその仕草に安心感を覚える。
「私からはこんな感じかな…ではご意見をどうぞ。」
「本当にごめんなさい。まさかあそこまで気にしていたとは思わなかった。」
俺は改めて深く謝罪を申し上げる。
「えーと…」
(てっきり「テヘペロで済ませるな!」とか「この野蛮女!」とかって言われると思った…まっ、いっか。)
「できることなら許してほしい。」
「フユミちゃんは取り扱い注意なのよ。気をつけなさい。」
「はい。」
(それはもう。)
気をつけるどころか俺はもう2度とフユミには逆らわないと硬く心に決めた。
”女を怒らせてはいけない。“
幼い頃父さんが言っていた言葉だ。
俺は今日その言葉の本当の意味を理解した。
父さんは「女に逆らったら死ぬぞ。」と言いたかったんだ。
きっと父さんも母さんに逆らえない立場であるに違いない。
夫婦喧嘩で父さんが勝ったところなど見た事もないし、今覚えば母さんも恐ろしい人だった。
今覚えば女には怖い生き物が多すぎるんだよ。
フユミはもちろんのこと保健室の先生や魔物の親玉、そして母さんと俺が怖いと感じた存在に限って皆んな女だ。
ここまで来ると若干女性恐怖症になったようにも思えてくる。
「はぁ女って怖いなぁ。」
「そうかしら…」
改めてフユミの部屋を見渡してみると辺り一面が赤く染まっている。
「この部屋の様子とかどっからどう見ても殺人現場じゃん。」
「それは少し大袈裟じゃない?現にシュウヤ君はピンピンしてるわけだし。」
「え?」
フユミの発したセリフに違和感を覚えた。
部屋の中がホラー状態になるまで痛めつけられたはずなのに俺が平然としていられるのは何故だ。
たしかに一時的な記憶障害は発生したが、それ以外身体には何の異常もない。
俺がほとんど無傷で目を覚ましたのは何故?
俺はその疑問をまんまフユミにぶつけてみた。
「それは、、、ご都合主義設定が発動したのよ。」
「この世界はどこのギャグアニメだよ!」
俺のツッコミを受けてフユミはクスクスと微笑する。
「まぁいいじゃない。無事で済んだんだし、それで。」
「一体何があったんだよ。」
ワタシガチカラヲツカッテイナケレバ ケッコウアブナイ ジョウタイ デシタケドネ。
(まぁね。あなたに癒しの力があって助かったわ。)
モトモトハ ワタシノチカラ デハナイノデスガネ。
(とりあえずお礼は言っておくわ。原因の半分はあなたにあるのだけれどね。)
ハハハ
ホントウ二 コワイオカタデスネ。
「なぁ…とりあえずこの部屋掃除しようぜ?」
いつまでも殺人現場的な部屋では落ち着かないので部屋の清掃を提案してみる。
しかしフユミは「大変だろうから後で私1人でやっておく。)と言って俺の誘いを断った。
ヒトリデ、デスカ…
(お・ね・が・い・ね!)
ハイハイ
「って言うことだからゲームセンター行きましょ。」
「いや、でも。」
困惑する俺の手を引いてフユミは駆け出した。
「ちょ、おい!」
「いいからいいから、さぁ行くわよ!」
〜20分後〜
こうして俺は半ば無理矢理ゲームセンターへと連れてこられた。
「そういえばここで遊ぶことはフユミの提案だったけど何かやりたい物でもあるのか?」
「まぁね、でもそれは最後よ。まずはそうねぇドンちゃんでもやりましょう。」
そう言ってフユミはドンちゃんという音ゲーのある場所へと歩き出した。
(たしかあの赤い顔と青い顔に合わせて太鼓をぶっ叩くやつだよな?ここにもあるのか。)
以前こことは別のゲームセンターに行ったときノゾムとやったゲームだ。
ノゾムもよくやっているらしいし、こうしてそこら中のゲームセンターに設置されているところをみるとそれなりに人気のあるゲーム機のようだ。
「あー、懐かしい。久しぶりだわ。」
「200円投入っと。」
曲を選ぶDON
「選曲をどうぞ。」
「私が選んでいいの?」
「越後製菓」
「それで言いたいことを理解できちゃう自分が怖いわ。んー、じゃあコレね。」
さぁ始まるDON!
「え?いきなりEVILで大丈夫?」
「お前もそうじゃん、まぁ見てろって。」
演奏が開始され、次々に赤い顔と青い顔が画面の右側から左側へとスライドしてくる。
顔が二重丸の枠の中に入った瞬間に鉢で太鼓を叩く。
(今思ったらこのゲームってあの太鼓のキャラの顔面を叩きのめしてるみたいだよな。)
失礼にもストレス解消の道具には持ってこいだと思ってしまった。
(まぁこんなこと考えるのは俺だけだよな。)
連打〜!!!
「オーリャ〜〜!!」
お隣から非常にワイルドな叫び声が聞こえてきた。
(だけじゃないんかい!フユミも溜めるもん溜めてんだな。)
成績発表〜!
2人揃って フルコンボだDON!
シュウヤ(フルボッコだDON)
フユミ(シュウヤ君中々やるわねぇ、コレは私も負けていられないわ。)
〜2曲目〜
2人揃って フルコンボ
〜3局目〜
2人揃って フルコンボ
「ムムムもう1回やるわよ!」
「え!?あ、はい。」
3曲とも2人揃って フルコンボ
「次よ!」
「イェッサー。」
3曲とも2人揃って フルコンボ
「まだまだ!」
「お、OK」
3脚とも2人揃って フルコンボ
「もうそろ止めにしない?」
「誰も後ろに並んでないから大丈夫よ。」
そうして俺達は次々にドンちゃんをプレイしていき、その度にフルコンボを叩き出した。
「おい!お前も見てみろよ!あそこのカップルスゲェぜ?」
「マジだ!2人ともフルコンボしか出してねぇじゃん。」
「いいぞー、もっとやれ!」
などという話し声が聞こえてきたので一瞬周りに目を向けてみるとそれなりの数の人間がゲーム機の後方に集まっていた。
(昼の時も思ったけどここら辺の人々のノリって日本人のそれじゃないよな。)
というかまたもや目立ってしまっている。
まったく、注目されたくない人間に限って無駄に目立つというのはお決まりなのであろうか。
そういった事が嫌いな俺としては今すぐドンちゃんを終わらせて他のゲームをやりにいきたいところだが、何故かフユミがドンちゃんを止めようとしない。
(コレも負けず嫌いっやつなのか?トータルスコアはフユミの方が上なのに…)
2人揃ってフルコンボ
ウォォオオオオ!!!!
俺達が30曲目をフルコンボした途端何故か周りの人達が歓声を上げた。
「何かしら?」
「さぁ。」
状況が飲み込めずポカーンとしているとゲームセンターの店員さんと思わしきお姉さんがクラッカーを鳴らして近づいてきた。
「おめでとうございまーす!お2人は見事30連EVILミッションをクリアいたしましたので豪華?景品がプレゼントされまーす!」
「け、景品?」
「何の…あ、シュウヤ君コレ。」
フユミが指差す先に目をやると部屋の壁にドンちゃんの宣伝ポスターが貼られていた。
“ただ今キャンペーン実施中!30種類のEVIL曲を連続でフルコンボすると全長1mのドンちゃんのぬいぐるみをプレゼント!!!”
「「まじっ!?」」
シュウヤ(1mとかデカっ!ていうかいらな!…あ、だから?ついてたのか。)
フユミ(わぁ、何これ可愛い!!)
俺としてはスペースを取るし、ただ邪魔なだけだと思うのだが、どうやらフユミの方はもらえて嬉しいらしい。
「それでは景品をどうぞ〜」
(うわ、デカっ!)
まるでゴミ袋のような大きさの袋を手渡される。
「な、なぁフユミ、俺の方は青色らしい。多分お前の方は赤色だろ?」
「そうみたいね。」
「2種類揃えてみたくない?」
正直俺がもらっても意味はないのでフユミにあげようと思った。
「え?もしかしてまだドンちゃんやり足りない?」
「ちゃ、ちゃうねん!俺のをあげようか?っていうこと。」
まさかフユミがもう30回プレイするなんていう発想をしてくるとは思わなかった。
流石に腕も疲れてきたしそれはキツい。
「えぇ、私的にはまだ満足してないのに。」
「おいおい」
フユミはまだまだドンちゃんをやりたいらしい。
しかしこれ以上人に注目されるのも嫌なのでどうにかして諦めてもらうための口述を考える。
すると
「あ、あの…お2人のご活躍に刺激されて他のお客様もやる気になられたようなので交代してはいただけないでしょうか。」
俺がいいアイデアを思いつく前に店員さんが納得のいく理由でゲームを交代するよう促してくれた。
「そ、そうですね失礼しました。」
フユミは店員さんに頭を下げてから歩き出す。
それを見た店員さんは俺の方を向いて笑顔でウィンクしてくれた。
シュウヤ(助かりました、)
店員(良かったですね。)
俺は店員さんに頭を下げてフユミの後を追いかけた。
「んで、どうする?他にやりたいゲームあるか?」
「んー、今度はシュウヤ君が決めて?」
フユミの申し出を受けて俺は少し考え込んだ。
クレーン
シューティング
リズム
メダル
などなど色々なゲームがあるがどれもいまいちやりたいと思えない。
「じゃあアレかな。」
(神様の言う通り戦法発動!)
神様のお告げによって次はレーシングゲームをやることになった。
まぁこれなら流石のフユミもドンちゃんほど暑くなることもないだろう。
そう思って油断していたのだがゲーム機のハンドルを握った瞬間、フユミが目をギラつかせてこちらを向いてきた。
「まさかレーシングゲームで私に挑もうだなんてね。」
「え?これ個人プレイじゃないの?」
何故かゲームは対戦モードになり俺とフユミはレーシング対決をすることになってしまった。
(なんでこうなる!エムオカートみたいなヤツとちゃうの?それはないよ神様!)
こうして俺対フユミの決戦の第2ラウンドが開始された。
〜90分後〜
「あぁ、疲れた。」
「概ね私の勝ちね。」
試合から先にいうと全20試合中俺が8勝、フユミは12勝だったのでトータル的には俺の負けだ。
まぁもしこれで俺が勝ってたらぁ?もう10回ほど対戦させられてただろうし、負けてよかったと思うよ?うん。
「さて、もうすぐ6時半だしそろそろ仕舞いにするか?」
「まって、当初の目的を忘れているわよ。」
「当初の目的?、、、あっ」
ここへやってきた時にフユミとした会話の内容を思い出す。
たしかフユミはわざわざゲームセンターにやりに来たというお目当ての物を最後にやると公言していた。
「じゃあそれをやろうか。って言っても何がやりたいんだ?」
「こ、こっち…」
そう言ってフユミは俺をゲームセンターの左端の方へと案内する。
そこにはカーテンが閉められた大きめのボックス状の部屋が存在していた。
プリクラだ。
「へぇ、プリクラかぁ。懐かしいな。」
昔はよく家族で撮ったものだ。
特に母さんが好んでいたようで5回ほど撮っていたような気がする。
しかしまぁあんなもんは1回、多くても2回とれば大概の人は満足するものなので俺の母さんも時期に飽きて俺が小学3年生の時くらいには全くと言っていいほど関わらなくなった。
俺としてはケータイやフィルムカメラが復旧している現在社会において写真を撮るために400円も使うなんてアホらしいと思う。
しかし流石のフユミでもプリクラで炎上することはないと思うので400円で平和に終わらせられるのならむしろありがたいことだ。
「よし、じゃあさっさとやっちまおうぜ。」
「う、うん…」
というわけで俺達は早速プリクラのボックス?の中へと入り込む。
「んで何枚撮るんだ?」
「い、1枚でいいわよ。それと私がやるからシュウヤ君は目閉じてて。」
フユミは自分が持つ写真1枚だけでいいと言ってくれた。
何故俺の分は作らないのか疑問に思ったが、値段は最小限で済むし、もらったとしても多分いつか無くすと思うのでフユミの分のみ作成するということに異議はない。
「そうか?じゃあ任せるわ。」
そう言って俺は言われた通りに目を閉じた。
(きっと俺が写ってるところだけ落書きでもするんだろ。)
落書きをする場合写真を撮った後だった気もするのだが深くは考えないようにしよう。
どうせフユミだけが手にする写真なんだし、あいつの好きなようにさせてやるのが道理だ。
〜数分後〜
「しょ、しょれじゃあさ、撮影すすすわよ。」
(なんかめっちゃ動揺してんな…)
「オッケー、って俺は目閉じたままか?」
「あああ当たり前よ!目開けたら魂抜き取るからね!?」
「りょ、了解」
“では撮影を開始します。”
「…」
「…」
(あえて目を瞑って写真撮るなんて結構違和感あるな。)
”5“
”4“
「ねぇ。」
「ん?」
”3“
「こっち向いて。」
「え?」
”2“
「でももう撮影…」
「いいから!」
俺は訳がわからないままフユミの方を向く。
”1“
次の瞬間俺の口元に柔らかい感覚が生じ、その直後プリクラのシャッター音がなった。
(…)
あまりに突然の出来事に理解が追いつかず頭の中が真っ白になってしまった。
〜ゲームセンターからの帰り道〜
「…」
「…」
結局あの後俺達は何の言葉も交わさずにゲームセンターを後にした。
本来なら「お前、俺の事好きだったの?」なんて事を聞いてみたいところだが、その後の展開を想像すると恐ろしくて足が震えるので止めておく。
「あ、もういい時間だしさ夜飯にでも…」
「ねぇ、」
「…はい?」
「もう分かってるとは思うけど私はあなたの事が好きよ。」
「ふぇ?」
フユミは俺に勇気がなくて言い出せなかった質問に答えるような形で唐突に喋りだした。
フユミは目を泳がせながてこれまでにみたこともないくらいに顔を真っ赤にしている。
公共の場でなければ今にも発狂しそうな雰囲気だ。
つまり俺は今恋愛的な意味でフユミから告白された。
「えーと…」
何も言葉が見つからなかった。
魔物の手から人間を守る、そのことだけを考えて生きてきたのでまさか自分が他人から告白されるなんて妄想ですら考えたことなかった。
「…」
(あぁ!どうしよう、どう返事すればいいんだ!?)
自分の言うべきセリフが何も思い付かず困惑してしまう。
すると
「ごめんなさい、告白しておいてなんだけど今はまだ答えを出さなくていいわ。」
「え?」
そう言うとフユミは小さく息を吐いた後腕を組んで続けてこう言った。
「私、今日この街を離れるの。」
「え?」
少しの間俺はフユミが言っていることの意味が分からなかった。
これにて編集前にはなかったデート編は終わりとなります。
まだまだ編集期間は続きますが、今後ともよろしくお願いします。




