〈第五十五話 ダンジョン、最後の夜〉
満天に広がる魔石の星空を見上げるのも、今日で最後。
(次に来るのは、一か月後かな)
レン曰く、マジックバックの製作に一か月掛かるようだし、セッカとナナの件にも同等の時間が掛かる。
取り合えず一か月後、イノシカ亭で待ち合わせすることを約束して、レンとダン、そしてクロードたちと別れた。
セッカとナナは眠くなったのか、ダガーに戻り、今は鞘の中で眠っている。人型になった時、双子の首には真っ赤な首輪があった。それが、レンが巻いた、霊刀の力を封印した紐だと知る。
(そういえば、外でセッカとナナと一緒にご飯食べたことなかったなぁ……)
自分の薄情さに眉をしかめる。でも、それは今日で終わり。
「ミレイ」
宿屋までの帰り道。魔石の星空の下を歩きながら、私は隣を歩く、メイドの格好をした仲間の名前を呼んだ。初めは、私の後ろを歩いていたのに、今は私の隣を歩いている。私が足を止めると、数歩先で、自然とミレイの足が止まる。
「ムツキ様?」
(やっぱり、最後まで様呼びは慣れなかったなぁ)
「ミレイ。この六日間、本当にありがとうございました」
私はミレイに頭を下げだ。
ミレイには、ほんと色々助けられた。ダンジョンらしいダンジョンを初めて潜った私に、色々なことを教えてくれた。道案内だけじゃなくて、ダンジョンの攻略の仕方とかも丁寧に教えてくれた。サポートがあったからこそ、スムーズに攻略することが出来たと思ってる。
だから、きちんとお礼を言っておきたかった。言わなきゃいけないって、思った。
言わなくても通じてるとか。恥ずかしいとか。そういうのは無しだって、よく分かったから。
セッカとナナのことは、正直、すごくショックだった。契約を交わしてるから大丈夫だって、心のどこかで思ってた。セッカとナナが、武器だからっていうのも、あったと思う。だから、シュリナやサス君、ココのような親密な付き合い方はしていなかった。
自我が生まれたばかりのセッカとナナにとって、どれほど寂しく感じていたか……
自我を持つってことは、心を持っていることなのに……
私はそれを忘れていた。
そして私は、セッカとナナを失いかけた。
正直、シュリナたちは納得していない。今でも、セッカとナナを手放すべきだと思っている。口には出さないけどね。それでも、私は、セッカとナナを手放す気はないから。ちゃんと、話し合おうと思ってる。時間を掛けて。
それが、新たな一歩を踏み出すことだから。
「こちらこそ、ありがとうございました。ムツキ様と一緒に過ごした日々は、私にとって、かけがえのない宝物です」
満面な笑みを浮かべたその瞳は、どこか悲しそうに揺らいでいた。
私は思わず、ミレイの手をギュッと握る。
「私にとっても、かけがえのない宝物だよ。……ミレイがいてくれて、本当に助かったんだから。ミレイが淹れてくれたお茶が、どれだけ私たちをホッとさせてくれたことか。それがもう飲めないなんて、本当に残念だよ」
思いを口にする。言葉がどんどん溢れてきた。
「残念だと思いますか? また飲みたいと……」
「思うから!! 出来ればずっと!」
「ありがとうございます。ムツキ様」
嬉しそうに、ミレイは微笑む。その顔はとても輝いていた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
活動報告で後一話と書きましたが、どうしてもこのシーンを書きたくて、追加しました。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




