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〈第五十四話 魔剣〉

 


「この、愚か者が!!!!!!」

「「ヒッ!!」」



 赤竜レッドドラゴンの怒号に、セッカとナナは悲鳴を上げた。ガタガタと震えだす。



 魔波に近い波動が、波紋のように森に広がっていった。木々に止まって翼を休めていた鳥が、一斉に飛び立つ。小動物はパニックを起こし、逃げだした。私はシュリナの怒りにのみ込まれ、立ち尽くす。



「ムツキ。今すぐ、契約を解除しようか」



 シュリナのように怒鳴ることもなく、淡々にココは告げる。シュリナの怒号にもびくともしない。感情が含まれない分、ココの声は凍り付くほどに冷たい。静かに、とても静かに、ココはキレていた。



(契約解除!?)



 ココが何を言っているのか、理解が出来ない。



(契約を解除しろって言ってるの。セッカとナナの……)



 反対に、セッカとナナはココの台詞を聞いて、瞬時に顔色を変えた。真っ青になり、私を見詰める。私が何か言うのを待っているが、私の口から言葉は出てこなかった。私が庇ってくれると思っていたのだろう。その言葉がなかったことで、セッカとナナの顔色が、真っ青から蒼白へと変わる。



 シュリナとココが、何故怒っているのか。分かっていた。私のために怒っているのだ。私がセッカとナナの手綱をしっかりと握ってなかったために、双子は膨張した。その結果の暴言だ。分かっているが……



(いきなり、契約を解除だなんて……)



「何を悩んでいるんですか? 己の欲望のために、主を危険に晒す【魔剣】を、ムツキさんの側に置いとく訳にはいきません」



 隣にいたサス君が、セッカとナナに厳しい目で睨み付け言い放つ。



 セッカとナナを【魔剣】だとーー。



 セッカとナナは蒼白な顔で必死に首を横に振る。



 その時だった。



「「「ムツキ(様)!!」」」

「ムツキちゃん!!」



 森の異変を感じて、ミレイたちが慌てて飛び込んできた。



「この子たちは……?」



 クロードの問い掛けは、完全にスルーされた。他の皆は成り行きを見ている。



「ムツキ。今すぐ、契約を解除しろ」

「そうだよ。今すぐ、解除した方がいい」



 シュリナとココ、そしてサス君の言いたいことは分かる。



(分かるけど……切り捨てることは出来ない)



「赤竜様、この双子は霊刀でしょ。何故、契約破棄を?」



 さすが、ドワーフだ。一目見て、セッカとナナの正体を見破る。ミレイとクロードたちは驚愕し、セッカとナナを見詰めている。



「【魔剣】だからだ」



 ジロリとレンを睨み付けてから、シュリナは言い放つ。その台詞に、レンは凍り付く。



 ーー【魔剣】

 それは……

 血に飢えた霊刀のことだ。



 霊刀は主となる者の血で目覚め、契約を交わす。主の魔力を吸収することと、魔物の血を吸収することで、自我が目覚め、今のセッカとナナのように人型に変異することも可能になる。



 そして、自我をもった霊刀は、時に、魔物の血に溺れてしまう。それほど魔物の血は、霊刀を成長させると同時に、麻薬のような依存性があった。



 本来、霊刀に限らず、剣は主の身を守ることだ。



 だが、依存性から抜けだせない霊刀は、本来の役目を忘れ、主を操り、危険に晒して魔物の血を得ようとする。



 ランクが高いほど、魔物の血は甘美だ。



 故に、【魔剣】はランクの高い魔物を求め、主を危険な場所へと誘う。そして主が死ねば、その刀身の輝きで次の主を惑わし、同じことを繰り返す。刃が折れるまでずっと……



「本当に、【魔剣】に変化したのか?」



 レンはセッカとナナから、魔を感じなかった。微かに、血の匂いがするが……



「正確にいえば、変化したばかりといったところかな」



 レンの問いにココが答えた。その声は固い。



 変化したばかりなら……



「だとしたら、まだ間に合うかもしれない」

「ほんとに……」



(すがっていいの。セッカとナナを失わなくてもいいの)



「ああ。まだ大丈夫だ。……これで、霊刀の力を封印する」



 そう言いながら、レンはリボンのような紐を鞄から取り出す。紐には、見たことのない文字が細かく書かれていた。



「ムツキ。双子を霊刀に戻して」

「分かった。……セッカ、ナナ、刀に戻って」



 セッカとナナは霊刀に戻り、私の手に。レンは霊刀に素早く紐を巻き付けた。



「これから最低一か月間、霊刀に魔物の血を与えないこと。ムツキの魔力で浄化する」



(浄化……)



「それで、セッカとナナは元に戻るの?」

「ああ。戻る」



(良かった……)



 私はホッと胸を撫で下ろす。



「その間、何か出来ることがある?」

「話し掛けること。一緒に過ごすこと。絆を強めることが浄化の一歩だ」



 契約を交わしたことで安心していた。だから、驕りがあった。大丈夫だと。セッカとナナとの間に、シュリナやサス君、そしてココと同じような絆を築けなかったから起きたことだ。責は私にもある。



「分かった。シュリナたちと同様に構い倒す」

「そうした方がいい。人型に変化へんげも出来るからな」



 私は紐で巻かれた霊刀を撫でながら、呟く。



「……ごめんね。苦しい思いをさせてしまって」と。



『大丈夫です。主のせいではありません。……私たちが弱かったから起きたことです』

『主、痛くなかった。ごめんなさい……』



 セッカとナナの弱々しい声が聞こえた。





 最後まで読んで頂きありがとうございますm(__)m


 それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪

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