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勇者と護りて

 


 王城の一角、執務室でジェイは宰相ザイードからの報告を受けていた。



 ホムロ山でムツキが見た、黒紫色をした契約紋の持ち主を調べていた件だ。



 通常、契約紋は、魔物や一般奴隷、そして霊刀などと契約を交わした時に、体の一部に刻まれる紋を指す。その紋は、主の魔力によって色が変化し、その形状も様々だ。指紋と同じで、同じものは存在しない。



 契約紋の色は、術者の魔力の系統によって決まる。簡単にいえば、得意魔法によって決まるといってもいい。



 後方魔法を得意する者は淡い色が主流で、炎魔法を得意とする者は赤色系だ。反対に水魔法を得意とする者は青色系である。数は少ないが、黒魔法を得意とする者は紫色だ。実際、ジェイの色は澄んだ青色をしている。



 その中で、黒色は決して存在しない。正確にいえば、黒色を含むことはまずない。



 例えば、大勢の人を殺した罪人でも、その色は黒色じゃない。意外なことに明るい赤だったりする。黒色と白色は、少し混ざるだけで、本来の魔力の色を消してしまう。魔術の世界において、黒色と白色は、それだけ不自然な色なのだ。不自然なことが起きる理由。それは人工的なもの。つまり、人の手が加わることを意味している。



 だとしたら、考えられるのは二つ。



 ーー紫色の契約紋を持つ者が、魔物に【呪い】を掛けた。或いは、【呪い】が掛かっている者が魔物と契約を交わしたかだ。



 しかし果たして、【呪い】を発動させることが出来る人間が、この世界にいるだろうか?



 よほどの魔力を持たない限り、ましてや、神族や妖精族でない限り、【呪い】を発動させることは不可能に近い。ジェイ自身、勇者の称号を持っているが、【呪い】を発動させるほどの魔力は持たない。転移魔法が使えてもだ。



 唯一、ジェイが知る人物の中で、それが出来る人間は、ムツキ=チバという少女だけだが、彼女が【呪い】を発動させるような人間じゃないことは、ジェイ自身、よく知っていた。それに、彼女は【五聖獣様の護りて】だ。【呪い】から最も遠い存在といえる。



 だとしたら、後者か……



 そう考えた時、ジェイの脳裏に、ある人物の名前が浮かんだ。



「…………間違いないんだな」



 眉間に深いしわを寄せ、顔をしかめたジェイが唸る。思い違いであって欲しかったが。



「間違いありません」

 ザイードの声も暗い。



「そうか。……ムツキに伝えるべきだが」



 気が重い。出来れば、ムツキには知らせずにいたい。ジェイは心の底からそう思っていた。少女が背負っているものの大きさを、ジェイは理解していたからだ。これ以上の負担は掛けられない。あの小さな背中に、自分たちは更なる重みを背負わせようとしている。



 ーーしかし。



 間違いなく、そう遠くない未来、奴は必ず接触してくる。ある願いを叶えるために。それとも復讐のためか。どちらにせよ、ムツキが危険に晒される。



「一度、こちらに寄られると思いますので、その時に。……ムツキ様の警護はどうなさいますか?」

「勿論、俺がーー」



 ジェイは途中で言葉を区切る。



「何か?」

「反対しないのか?」

「反対してほしいのですか?」

「いや、してほしくはないが……」



 ジェイの台詞に、ザイードは深く溜め息をつく。



「陛下。ムツキ様は【五聖獣様の護りて】ですよ。この世界で最も守らなければならない存在。それを、勇者の称号を持つ陛下が守るのは、古からの義務ではありませんか。……それに、いずれはこの王宮に住まわれる方かもしれませんし」

「なっ!!」



 瞬時に顔を赤くするジェイに、「いい年をした大人が……」とザイードは溜め息混じりに呟く。そして、生温かい目をして、残念そうに主を見詰めた。





 ーー結界崩壊まで、後、十一か月。




 最後まで読んで頂き、本当にありがとうございましたm(__)m



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