〈第四十九話 商談成立〉
「だが、作れない」
レンはボソッと呟く。
「……作れないって?」
(まさか、ここまで来て無理でしたってオチなの……)
ショックを隠しきれない私に、「材料があれば作れる」と、レンは言葉を続けた。
「材料?」
「バジリスクの皮と魔石」
(……バジリスク? バジリスクって……あの……)
「小さいので、十メートルは越える蛇の魔物」
「ーーーー!!!!」
声が出ない。もし、この場に霊媒師がいれば、口から魂が飛び出てるのが、絶対に見えたはずだ。
「どうしたんだ?」
「ムツキ、生理的に蛇が駄目なんだよ。一メートルぐらいの蛇でも泣いてたしね」
「それじゃあ、無理だな」
「無理無理。もし、運悪く遭遇したら、たがが外れて、辺り一面人が住めない土地になってしまう可能性大だよ」
「確かにな。ワシらが作った装備を、平然と装備出来るしな」
「だね~~」
小声でヒソヒソと話している、ダンとココ。
その会話は私の耳には届かない。聞こえてくるのは、テーブルに同席した人ぐらいだけど、サス君とシュリナは口元を汚しながら、ウンウンと頷いている。だけどミレイだけは、呆気に取られ、ポカンとしている。
「別に、バジリスクでなくてもいい」
ヒソヒソ話を聞いていたレンが、ボソッと妥協案を提示する。
それを聞いたサス君が、「バジリスクでなくてもいいのか?」と尋ねた。コクッと、レンは頷く。
「バジリスクが一番だけど、なければ別ので代用出来る」
「何に?」
「クロコ」
「クロコか……。この辺に、水辺はあったか?」
【クロコ】が好むのは沼地や川だ。そこを中心にコロニーを築いている。水中でも呼吸が出来、大型の魔獣を引きずりこんで喰らっている、肉食の獰猛な魔物だ。足も早く、高くジャンプ出来るので、飛んで逃げようといた野鳥(一メートル級の)などは、瞬時に餌食となる。
【クロコ】の体長は小さいもので五メートル。大きなものでは十メートルを有する。
「サスケ様。水辺なら、二十一階層に大きな沼地があります」
代わりに、ミレイが答える。
放心状態の私を置いて、話はどんどん進んでいく。とうとう焦れたシュリナが私に近付くと、私の名前を呼ぶ。
「ムツキ」と。そして、軽く頭を小突いた。
「いったぁ~~」
「いい加減に目を覚ませ。バジリスクは狩らなくてすんだぞ」
「えっ、マジで?」
思わずレンの方を向く。
「クロコなら代用出来る」
「クロコ? もしかして、ワニ?」
「ワニって何だ?」
反対に訊かれる。
(この世界に、ワニはいないのかな。それとも、ワニの言葉がないだけかな)
「沼地や川に生息してて、緑色した獰猛な肉食獣」
「それが、クロコだ。ムツキが住んでいた場所では、ワニと言うのか?」
「うん」
ワニなら代用出来るよね。蛇と同様に革製品として愛用されてるのは、どこの世界でも同じのようだ。蛇の革は絶対断固としていらないけどね。
「んで、そのクロコはどこにいるの?」
「二十一階層」
「じゃあ、明日さくっと狩ってくるよ」
レンがコクッと頷く。
「あと魔石」
そうだった。
「どれぐらいの魔石が必要なの?」
「最低、Aランクの魔石が欲しい」
Aランクの魔石なら、ちょうど持ってる。十九階層手前で襲ってきた魔狼たちのリーダー格が、Aランクだった。Aランクの魔石にしては、少し小さいけど。私は鞄の中から魔石を取り出すと、レンの前に置く。
「これ使える?」
レンは魔石を手に取り、ポシェットからルーペを取り出すと、魔石を鑑定し始めた。
「使える。純度もいいし。傷も少ない。苦しませずに狩ったんだな。……幾らだ?」
「別にいいよ」
「そうはいかない」
(ほんと、いいんだけどなぁ)
「……それじゃ、マジックバックの代金から差し引いてくれたらいいよ」
「分かった」
商談成立だ。
「商談成立を祝って、今から景気付けに飲むぞーー!! レン、お前もな!!」
ダンが立ち上がり、ジョッキを掲げて叫ぶ。レンがコクッと頷く。
そしてそこから、地獄が始まったーー
忘れてた……
ドワーフは酒豪の種族だったことを。
サス君が敬語で話すのは、ムツキとシュリナだけです。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




